「のどが渇いたら飲む」——そのルール、もう古い

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結論から言う。君はたぶん、水を飲んでいない。

いや、飲んでるって顔をするな。マグカップにコーヒー、その横に……なにもないだろ? 知ってる。ぼくがそうだったから。

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「健康のために水を意識してます」——外来でそう言ってくれる患者さん、けっこういる。えらい。本当にえらい。だからこそ言わせてほしい。それ、転ばないためにも続けてくれ、頼むから。

……というのもだ。脱水って、地味に怖い。頭がぼんやりする。足に力が入らない。で、転ぶ。ドラマチックな理由なんてない。ただ、水が足りてないだけで、人はふらつく。世界の真理みたいな顔で言ってるけど、要するにそういうことだ。

で、どれくらい飲めばいいのか。

はい出ました、みんな知りたいやつ。答えは「体重×30㎖」。以上。……いや、雑すぎたか。体重50キロなら50×30で1500㎖、およそ1・5リットル。湯呑で10杯ちょい。

「多くない?」

多い。うん、正直、多い。でも一気飲みしろとは言ってない。ちびちび分けて飲めば、気づいたら消えてる。人生の面倒ごとはだいたいそうだ。まとめてやろうとするから死ぬ。分割しろ。水も、仕事も。

覚えられない人へ。朝いちで2リットルのペットボトルを開けて、残量で「あ、まだこんなにある」と絶望する方式が地味に効く。可視化は正義。

本題。合図は「のど」じゃない。「わき」だ。

ここからが今日いちばん言いたいこと。

多くの人は水を「のどが渇いたら飲むもの」だと思ってる。ところがだ。歳を取ると、のどの渇きセンサー、鈍る。壊れるわけじゃない。ただ、静かに反応が遅くなる。だから「渇いてないから飲まない」→「でも実は足りてない」という、静かな詰みが発生する。こわ。

じゃあ何を合図にするか。わき、だ。

わきの下にそっと手を突っ込む。しっとりしてたら、セーフ。カラッと乾いてたら、はい水分不足。体は正直で、のどが黙っててもわきが白状する。裏切り者……いや、命の恩人か。

外でやると完全に不審者なので、そこは空気を読め。外出前、家事の前、ふと思い出したとき。こっそりやってくれ。

最後に、コーヒー星人へ告ぐ。

「水じゃなくてコーヒーでもいい?」——よく聞かれる。答え、いい。飲め。ぼくなんか冬でもアイスコーヒー4杯だ。人のこと言えた義理じゃない。

ただし、ひとつだけルールがある。「コーヒーを飲んだら、同じ量の水も飲む」。 これだけは死守してる。

カフェインは頭をシャキッとさせてくれる有能なやつだが、こっそり水分を外に追い出す悪癖がある。飲んでるつもりで乾いていく、あの罠。水を添えれば、いいとこ取りできる。喫茶店でコーヒーに水がついてくるの、あれ完璧な様式美だったんだな……と、この歳になって気づいた。あの水、残すな。全部飲め。

——というわけで。今日の話、覚えることは三つだけ。体重×30。わきをチェック。コーヒーには水。

ほら、簡単だろ? じゃあ、まず一杯。今すぐ。読み終わる前に、飲め。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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