米国とイラン間の戦闘終結交渉で合意が実現したが、同合意内容に最も不満を持っていたのは誰の目にも明らかだろう。イスラエルだ。米イスラエル軍は2月28日、イランの核開発を壊滅するという目的でイラン戦争を開始したが、その目的は実現されず、近い将来始まる最終合意を巡る交渉に委ねられることになった。ちなみに、トランプ大統領は2018年、オバマ元政権がイランとの間で実現した2015年の核合意(包括的共同作業計画=JCPOA)から離脱し、イランに経済制裁を科したが、今回の覚書合意内容は2015年のそれより後退した、と指摘する声すらある。

負傷したイスラエル国防軍(IDF)兵士を訪問したネタニヤフ首相、2026年7月7日、イスラエル首相府公式サイトから
ところで、覚書(MoU)の第8項目をみると、「イラン・イスラム共和国は、核兵器を取得または開発しないことを改めて表明する。両当事者は、ウラン濃縮問題およびイラン・イスラム共和国の核開発ニーズに関連するその他の相互に合意された事項について、最終合意において満足のいく枠組みの中で協議することで一致した」と明記され、第9項目では「最終合意の締結まで、アメリカ合衆国およびイラン・イスラム共和国は現状維持に合意する」というのだ。
核問題のほか、イランの弾道ミサイル開発の停止、親イラン武装勢力(プロキシ)への軍事支援の即停止問題は覚書交渉ではテーマから外され、先送りとなった。イランのモハンマド・バケル・ガリバフ国会議長側が「イランは米国との合意を通じて最終勝利に向けた大きな一歩を踏み出した」(IRNA通信)と喜ぶのは当然だ。在ドイツのイラン人ジャーナリスト、バムダッド・エスマイリ氏はドイツ民間放送ニュース専門局NTVとのインタビュ-で、サッカーのワールドカップ(W杯)試合に倣い、「イラン―米国戦は1対0でイランの勝利だ」と評したほどだ。イスラエルにとっては、悪夢のような結果だった。
ちなみに、 アラビア語放送局アルジャジーラによると、イスラエルのダニー・ダノン国連大使は、米イラン合意はイスラエル、米国、そして湾岸諸国にとって「非常に悪いものだ」と述べた。イスラエルのチャンネル14に出演したダノン大使は、「トランプ米大統領が交渉の早期決着を強く求めたことが、イランの立場強化につながった」と説明している。
イスラエルは合意の履行状況を黙認してはいない。モサド(イスラエル諜報特務庁)の逆襲工作が始まっている。直近の例では、イランのトランプ大統領暗殺計画の暴露だ。イスラエル側(モサド)から情報を入手したトランプ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議からの帰路、トルコのアンカラから英国へ向かう際にカタールから贈られた新しいエアフォースワン(大統領専用機)には搭乗せず、代わりに旧型機に搭乗した(英国から米アンドルーズ空軍基地に向かう復路のフライトでは再び新型機に乗り換えた)。イランの暗殺計画と関連したワシントン側の危機管理だったはずだ。
米国事情通は少し冗談交じりに、「トランプ氏は『殺害対象のリストで私は1番目だ』と記者団に語っていたが、イラン側の暗殺リストではトランプ氏の名前はトップではなかったので気分を害したのではないか」という。いずれにしても、イスラエル側からの情報はトランプ氏にとっても真剣にならざるを得ない内容があったはずだ。NATO首脳会談前後のトランプ氏の言動はいつものようではなかった、という証言が聞かれた。
次は、イランの核問題に関連する最新情報がメディアに流れた。核問題を専門とする「科学国際安全保障研究所(ISIS)」の報告によれば、「ここ数週間、パルチンにある軍事施設などでこうした動きが確認された」というのだ。イランの軍事研究施設では、衝突クレーターが埋め立てられ、コンクリートミキサー車が往来するなど、活発な動きが見られる。研究者らによると、衛星画像からは、イランが既知の軍事研究施設を再建している様子がうかがえるという。
CNNによると、核兵器や弾道ミサイルの開発疑惑に関連する他の施設でも、修復作業の兆候が見られる。その中には、地下深くで核関連の作業が行われているとされる「ピッケル・マウンテン(Pickaxe Mountain)」の施設も含まれており、ここ数週間、トンネルに出入りするトラックの姿が確認されているというのだ。
イランは米国との交渉で、核開発計画に関しては「現状を維持する」と約束した。また、核兵器の開発を行わないことも誓約している。CNNは、「イランの最近の活動は、6月下旬に米国と署名した合意内容に違反している疑惑が出てくる」と報じている。
以上、直近の上記の2例には、モサドが関与している可能性が濃厚だ。狙いは、トランプ氏に合意内容の再考を促すことだ。
イラン側がホルムズ海峡を航行中のキプロスの商船を攻撃したという情報を得ると、トランプ氏は即報復攻撃を命じている。深読みすると、覚書違反だというより、イラン側の狡猾なディ―ルに騙された自身への苛立ちもあったのではないか。
イラン最高指導者・故アリ・ハメネイ師の6日間の告別式典は終わった。イラン国内の実権を掌握したイスラム革命防衛隊(IRGC)はいよいよ対米・イスラエルで強硬路線を強めていくだろう。そのような中、11月の中間選挙をまじかに控え、支持率が低下しているトランプ氏は焦りを感じ出しているはずだ。米、イスラエル、そしてイラン3国を巡る政治・軍事状況は混迷の度合いを深めてきた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







コメント