インフレと戦うと宣言したウォーシュFRB、火に油を注ぐ高市政権

ケビン・ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、就任後初めて下院金融サービス委員会で議会証言を行った。

そのメッセージは明快だった。過去5年間の高インフレは家計と企業に大きな負担を与えた。長期的なインフレは主として金融政策によって決まり、FRBは2%目標の達成に責任を負うというのである。

これに対して日本では、政府が積極財政で物価を押し上げ、日銀が利上げでその後始末をしている。米国がインフレ退治に向かう一方、日本は政府がアクセルを踏み、日銀にブレーキを踏ませるという珍妙な政策を続けている。

ケビン・ウォーシュ議長(同氏X)と高市首相(首相官邸)

失敗を認めたウォーシュFRB

ウォーシュ氏は、インフレを戦争やエネルギー価格のせいにせず、中央銀行自身の問題として引き受けた。

さらに、2020年に導入された金融政策の枠組みを誤りだったと批判した。低すぎるインフレを心配して物価上昇を容認した結果、大幅なインフレを招いたという認識である。

その反省から、政策コミュニケーション、バランスシート、経済データ、生産性と雇用、インフレ分析の5分野に改革チームを設置した。

トランプ大統領との対立も辞さない。中央銀行が失敗を認め、原因を検証し、組織そのものを改革する。日本ではあまり見かけない光景である。

日銀は利上げしても緩和的

日銀も政策金利を引き上げ、金融政策の正常化を進めている。しかし実質金利はなおマイナスで、金融環境は依然として緩和的だ。

物価上昇率が2%を超えても、日銀の説明は「持続的・安定的な2%目標を見極めながら、緩和的な環境を維持する」というものだ。

言葉を重ねるほど、結局何を最優先しているのか分からなくなる。

問題は日銀だけではない。高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、AI、半導体、造船、国土強靱化などに政府支出を拡大している。

物価が下がり、需要が不足しているなら財政出動にも意味はある。しかし現在の日本は、物価が上がり、人手が不足し、長期金利も上昇している。

この局面で財政支出を増やせば、インフレ圧力はさらに強まる。

物価を上げて補助金で下げる

ところが政府は、その一方でガソリンや電気・ガス料金に補助金を投入し、物価を人為的に押し下げている。

財政出動で物価を上げ、補助金で統計上の物価を下げ、その費用は国債で将来世代に回す。

これを「物価高対策」と呼ぶのだから、霞が関の日本語は奥深い。

政府がアクセルを踏み、日銀がブレーキを踏めば、経済が速く走るわけではない。国債金利と住宅ローン金利が上がり、財政支出の利益を受ける業界と、負担を背負う国民との間で所得が移転するだけだ。

高市政権は、金利上昇を市場からの警告とは受け取らない。「積極財政が市場に理解されていない」と考えているようだ。

しかし政策が理解されていないのではない。市場が政策の中身を理解したから、金利が上がっているのである。

ウォーシュFRBは、インフレを中央銀行の責任として正面から引き受けた。一方、日本では政府が物価高をあおり、日銀が後を追い、最後は海外要因や投機筋のせいにする。

日米の違いは金利の高さではない。政策当局が自分の失敗と責任を認めるかどうかである。

 

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コメント

  1. 早川蒼真 より:

    記事の骨格である日米比較、とりわけ「米国はインフレ退治に向かう一方、日本だけが政府がアクセル、日銀がブレーキという珍妙な政策を続けている」という対比には、強い違和感と反論を覚えます。なぜなら、「財政アクセル全開+金融ブレーキ」という構図を最も大規模かつ激烈に体現してきたのは、他ならぬ米国そのものだからです。

    バイデン政権下の米国は、インフラ投資雇用法(IIJA)、CHIPS・科学法、そして名称とは裏腹に巨額の財政支出を伴うインフレ抑制法(IRA)といった数兆ドル規模の財政出動を矢継ぎ早に実施しました。コロナ期の現金給付や失業給付の上乗せも含め、これらが総需要を強く押し上げ、供給制約と相まって2021〜2023年の高インフレを招いた側面は否定できません。FRB自身やサンフランシスコ連銀の研究でも、財政刺激がインフレを数ポイント押し上げたとの推計が示されています。FRBがゼロ金利からわずか1年余りで政策金利を5%超まで引き上げるという歴史的な急ブレーキを迫られた最大の背景こそ、この「政府が踏みまくった財政アクセル」の後始末でした。

    つまり米国こそ、「政府が財政アクセルを全開で踏み、中央銀行が煙が出るほどの急ブレーキを踏む」という構図を、日本より先に、より激しい形で経験してきた当事国なのです。しかも米国は今も財政健全化に転じたとは言い難く、議会予算局は2026年度の財政赤字をGDP比5.8%(過去50年平均3.8%を大きく上回る)と見込んでいます。トランプ政権下でも大規模減税など財政拡張路線は継続・強化の構えです。「財政アクセル+金融ブレーキ」は、米国でも現役の政策構図なのです。

    ウォーシュ議長がインフレを中央銀行の責任として引き受けたことは、金融政策の当事者として説明責任を果たしたに過ぎません。それによって財政サイドの責任が免責されるわけではない。記事は、この「反省の弁」だけを切り取り、財政政策がインフレに与えた影響を完全に消し去ったうえで米国全体を模範として描いています。財政と金融が実際には正反対を向いてきた米国の実態を無視し、日本の政策不一致だけを「珍妙」と特筆するのは、比較の土俵がそろっていないダブルスタンダードと言わざるを得ません。

    日本についても、記事は足元の物価をやや単純化しています。総務省の直近統計では、生鮮食品を除く総合が前年比1.4%程度と、必ずしも「2%を大きく超えて暴走している」状態とは言えません。あらゆる財政支出を一律にインフレ促進策と断じるのは、統計とも整合しないでしょう。

    本当に必要なのは、日本を「珍妙」と切って捨てることではなく、米国の巨額財政赤字の実態も同じ基準で直視したうえで、日米双方の「財政と金融の役割分担」の苦労を冷静に比較することです。ウォーシュFRBの自己検証を評価するなら、その同じ物差しを、米政府の財政運営にも当てなければ、それは政策論ではなく印象操作になってしまいます。