ウクライナのゼレンスキー大統領は首相と国防相を変える意向だ。同国ではロシア軍のウクライナ侵攻以来、これまで首相は3回、国防相は4回目の交代となる。ゼレンスキー大統領は12日、ユリア・スビリデンコ首相を含む内閣改造を着手し、議会が14日大統領の改造案を承認した。大統領は「ウクライナは現在、重要な転換点に遭遇している」と述べ、「新たな課題と新たな任務」を内閣改造の理由に挙げている。ゼレンスキー大統領はこの機会を捉え、大規模な内閣改造を行う考えとも言われる。

ゼレンスキー大統領と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、ドローン取引への第一歩を示す文書に署名、2026年7月15日、ウクライナ大統領府公式サイトから
ゼレンスキー大統領は12日、スビリデンコ首相に辞任を要請した。経済専門家である首相は、就任から1年たらずだ。40歳のテクノクラート(実務型官僚)の首相がこれほど早く更迭されるとは、本人を含め誰も予想していなかったことだ。同時に、ゼレンスキー氏はスビリデンコ氏に、駐米大使としてワシントンに派遣したい意向を打診したという。
一国の首相ポストから駐米大使への人事は格下げを意味するが、ロシアと戦闘中のウクライナにとっては米国との関係は国の命運を左右するほど重要だ。特に、トランプ米大統領との関係は猶更そうだろう。
ゼレンスキー大統領はトルコの首都アンカラで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会談でトランプ氏と対面会談し、キーウが願ってきたパトリオットの製造ライセンスの許可を得たばかりだ。米国との関係強化という観点からも英語も堪能で閣僚経験の豊富なスビリデンコ氏の役割が重要となる。スビリデンコ氏はトランプ氏の側近グループとも良好な関係を築いている。特にスコット・ベッセント米財務長官との関係は良好で、資源に関する協定の交渉においてホットな外交交渉を経験している。
現地メディアによると、今回の内閣改造の直接的な引き金は、ウクライナの駐米大使であるオリハ・ステファニシナ氏の退任要望だ。同氏は、EU・NATO統合担当大臣を務めていた戦争初年度に行われた不動産購入をめぐる汚職捜査に関連していた疑いがもたれているという。昨年、ウクライナのメディアは、ステファニシナ氏の母親がキエフ中心部のアパートを市場価格を大幅に下回る価格で購入した、と報じた。ステファニシナ氏は正式に訴追される可能性がある。ロシアのプロパガンダにとって格好の攻撃対象となる。ステファニシナ氏は2025年8月にワシントンでの任務に就いたばかりだった。
スビリデンコ首相の後任には現在国有エネルギー企業「ナフトガス」のトップを務めるセルヒー・コレツキー氏の名前が挙がっている。国営エネルギー企業ナフトガス(Naftogaz)のCEOである同氏は、アンカラでの会談に同席し、トランプ氏との写真をソーシャルメディアに投稿している。キーウでは、コレツキー氏は極めて有能な経営者と見なされている。特に、ロシアによる絶え間ない空爆という困難な状況下でナフトガスを効果的に運営してきたと評価されている。
ゼレンスキー大統領は記者会見で、特に冬に向けた備えが進められている現状において、コレツキー氏はその任に最適であると評した。ロシアによるエネルギーインフラへの攻撃により、寒冷期に再びエネルギー供給の問題が生じることへの懸念が根強い。なお、内閣改造には議会の承認が必要となる。
メディアが注目しているのはミハイロ・フェドロフ国防相の動向だ。今年1月に国防相に就任してまだ半年余りに過ぎない。フェドロフ氏は14日、オンラインサービス「テレグラム」上で、「国防相としてウクライナ国民に奉仕できたことは大きな名誉だった」と述べ、解任されたことを明らかにしている。
フェドロフ氏の解任の背後には軍総司令官オレクサンドル・シルスキー氏との対立があるといわれる。さらに、徴集兵の強制動員をめぐる問題でも成果がないと批判されてきた。
フェドロフ氏は2019年の選挙でゼレンスキー氏のメディア戦略を主導し、その後、新設されたデジタル変革省のトップに就任した。長らくゼレンスキー氏の側近として知られてきた。国防相に就任してからは、無人機によるロシア攻撃を主導し、国民の間でも人気があったが、国防省内の制服組との関係で問題があったのだろう。
フェドロフ氏は、混乱状態にある国防省の抜本的な改革を目指してきた。同氏が主導した防空体制の改革により、ロシアの長距離ドローンをより低コストかつ効果的に迎撃できるようになった。ロシア本土や占領下のクリミアに対するウクライナ軍の成果はフェドロフ氏の功績でもある。
ちなみに、35歳と若く、ウクライナ政界の「期待の星」と見られてきたフェドロフ氏は次期大統領選に出馬の意欲を示している。報道によれば、ゼレンスキー大統領は現内務相のイホル・クリメンコ氏を新国防相に指名する考えだという。
ウクライナでは過去、首相と国防相が頻繁に交代してきたが、それなりの理由はある。国防相の交代劇では、軍改革を巡るトップ間の確執や軍事作戦の相違がある。首相の交代では、インフラ・エネルギー防衛での対応で迅速に体制を切り替える必要が出てくる。今回のコレツキ―氏の抜擢などはそうだ。忘れてならない点は、ウクライナは戦時下にあるという事実だ。ゼレンスキー氏にとって、戦時体制の硬直化を防ぐという狙いがあるはずだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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