
高市内閣の支持率が7月に入って各社調査で一斉に崩れた。
毎日新聞(7/18-19)は前月比10ポイント減の41%で不支持44%と発足後初の逆転、テレビ朝日は10.9ポイント減の49.2%、朝日は7ポイント減の53%、時事(7/10-13)は5.3ポイント減の49.0%で初の5割割れ。週次で追っているグリーン・シップの電話調査に至っては、50.7%→49.1%→44.6%→41.0%と1か月で約10ポイントを失い、不支持が52%に達した。
「暴落」と一言で片づけるのは簡単だが、世論調査を横断して眺めると、これは単一の事件による急落ではなく、支持を支えていた三本の柱が順番に折れていく構造崩壊だったことが推測できる。今回は各社調査のクロスデータを突き合わせて、どの柱が、いつ、なぜ折れたのかを解剖してみたい。
まず下落の形を見てみよう。図1のとおり、時事の月次系列は2月の63.8%をピークに5月59.4%、6月54.3%と毎月4〜5ポイントずつ削られる「じわじわ型」の下落が続いていた。
ところが7月中旬、毎日とANNで約10ポイントという「段差」が生じる。面白いのはFNN(7/11-12)がまだ61.6%を維持していたのに、その1週間後の毎日・朝日・ANN(7/18-19)が軒並み崩れたことだ。調査手法の違い(ハウス効果)を差し引いても、7月中旬に新しいトリガーが作動したと見るのが自然だろう。

図1:支持率の推移。折れ線が途切れている区間はデータ未取得月。時事は個別面接方式のため電話調査より高めに出る傾向がある点に注意。
出典:時事通信・毎日新聞・グリーン・シップ「世論レーダー」各世論調査より筆者作成
時期的に段差と重なるイベントは3つ。
(1)会期末(7/17)を前に、首相が「近日中に提出する」としていた中傷動画疑惑に関する秘書の陳述書が提出されず「答弁拒否のまま逃げ切り」批判が拡大したこと、
(2)皇室典範改正の審議、(3)副首都法案などの審議強行と野党の審議拒否。
つまり土台の「じわじわ」と7月の「段差」は別の力学で動いている。ここを分解してみる。
ありがたいことに、時事通信は毎月同じ設問で「支持する理由」「支持しない理由」(複数回答・全回答者ベース)を聞いている。これを時系列に並べたのが図2で、本稿で一番見てほしいグラフである。

図2:時事通信の月次調査より。数値は全回答者に占める割合(複数回答)。6月の「信頼」「印象」は報道で確認できず欠損。
出典:時事通信世論調査(2025年11月、2026年5〜7月)より筆者作成
ここから読み取れる崩壊の順序は明快だ。
第一波「印象」(〜春): 「印象が良い」は11月22.2%→5月16.3%と早々に剥落し、7月には上位項目から消えた。憲政史上初の女性首相というハネムーン効果の蒸発である。
第二波「信頼」(春〜): 「首相を信頼する」は23.5%→18.9%→14.4%と一貫して侵食され、裏側で不支持理由の「信頼できない」が3.4%→10.6%へ3倍増。中傷動画・サナエトークン疑惑の報道時期と歩調が合う。これが図1の「じわじわ」の正体だ。
第三波「指導力」(6〜7月): 決定的なのはここ。「リーダーシップがある」は5月まで30.5%とむしろ微増で持ちこたえていたのに、6〜7月で9ポイント崩落した。7月の「段差」を作ったのは、信頼の続落ではなく指導力評価そのものの崩壊である。
この第三波の解釈はこう。
審議強行→野党審議拒否→陳述書不提出という流れが、それまで「決断力」として好意的に解釈されていた強引さを「議会運営能力の欠如」に反転させた。
同じ行動が、信頼残高があるうちは「ビシバシやってくれる」に見え、残高が尽きると「説明せず押し切る」に見える。年代別で最も落ちたのが60代(63.7%→39.9%、実に24ポイント減)だったことも、国会運営への関心が高い層の離反として符合する。
もう一つ、7月の不支持理由の「形」にも注目したい。
「期待が持てない」10.8%、「政策が駄目」10.8%、「信頼できない」10.6%とほぼ横並びである。単一争点への反発なら特定項目が突出するはずで、この均等分布は「個別の失点」ではなく「政権への総合評価の切り下げ」が起きたことを示す。
ちなみに個別政策を聞くと、食料品消費税8%→1%案は賛成55%、定数削減は賛成58%、野党の審議拒否には71%が「理解できない」(いずれもJNN)。
政策パッケージは支持されているのに支持率が落ちる——効いているのは「何をやるか」ではなく「どうやるか」なのだ。
ここで属性別クロスに目を移すと、時系列の伏線が見える。
毎日新聞の属性別データ(図3)によれば、女性の支持率は2月61%→5月48%と13ポイント急落して5割を割った。18〜29歳は70%→45%、30代は72%→53%。疑惑が支持率全体を削る前に、女性と若年層はすでに離脱を始めていたのである。

図3:毎日新聞世論調査の属性別支持率(2026年2月・5月)より筆者作成
そして時事の7月調査では男性48.6%、女性49.5%。政権発足時に確かに存在した「女性首相プレミアム」は、統計上完全に消滅した。
この動きに追い打ちをかけたのが皇室典範改正だ。
政治評論家の田村重信氏は7月急落の最大要因を改正皇室典範とし、愛子さまへの国民の評価が高い中での「男尊女卑的な法改正への反発」を指摘する。JNN調査でも今国会での改正は賛成24%・反対27%・どちらとも言えない46%と、まるで支持が広がっていない。
「女性だから女性に優しい政治をするかもしれない」という(本来は何の根拠もない)期待が、「女性首相が男系男子に固執した」という物語に反転した瞬間である。期待とは投影であり、投影は事実によって裏切られるのではなく、象徴的な一場面によって反転する。皇室典範はその一場面として機能してしまった。
もう一つの投影が「はっきり物を言う人だから、国会でもビシバシ答弁するだろう」という期待だった。これがどうなったかを測る設問群が図4である。

図4:時事通信(2026年6月)・毎日新聞(2026年7月)・JNN(2026年7月)の各世論調査より筆者作成
時事6月「納得できない」40.4%→毎日7月「果たしていない」48%→JNN7月「納得できない」51%。
設問文言が違うので厳密な比較はできないが、方向は一貫して悪化である。実際の国会で起きたことを並べれば理由は明白だ。首相は疑惑について自ら答弁せず、秘書の陳述書を「後日提出」するという異例の対応を取り(憲法63条が閣僚に課す「誠実に答弁する責任」に反すると野党は批判)、答弁を訂正しても謝罪には応じず、そして陳述書は当初の会期末までに出てこなかった。
「はっきり物を言う」は、自分の得意分野を語るときの属性であって、守勢に回ったときの説明能力を保証しない——考えてみれば当たり前のことだが、有権者の期待はそこを区別しない。「肝心なときに自分の言葉で答えない人」という逆の像に置き換わったとき、期待が大きかった分だけ落差は増幅される。
東京新聞の連載で選挙プランナーの久米晃氏が、支持率がまだ底堅かった5月の時点で「高市首相への期待は変わり始めた」と指摘し、武器輸出解禁への反対57.2%対賛成37.1%という「支持率と個別項目のねじれ」を挙げていたのは慧眼だった。ねじれは崩落の先行指標だったのである。
「結局は物価高だろう」という解説も多いが、私はこれを主因ではなく増幅器と位置づけたい。たしかに日銀の7月生活意識調査では1年後に物価が上がるとの回答が90.4%、予想上昇率は平均13.1%と、体感インフレへの警戒は極めて強い。時事5月調査でも暮らし向きが「苦しくなった」は42.7%に達していた。
しかし物価不満は2月のピーク時(63.8%)にも存在していた。物価が支持率を直接削るなら、崩落はもっと早く、もっと滑らかに起きたはずだ。実際の形は「支持理由の柱が順に折れる」段階的崩壊であり、物価の役割は有権者の許容度を下げ、平時なら流せた疑惑や優先順位の違和感を支持撤回に直結させる環境を作ったことにある。国旗損壊罪のようなイデオロギー色の強い政策を優先し、物価高対策が後回しと受け取られたことが若年層の離反を招いたという識者分析も、この「許容度の低下」の文脈で読むと整合的だ。
本稿の結論
① 支持の三本柱は「印象(〜春)→信頼(春〜)→指導力(6〜7月)」の順に折れた。7月の暴落は最後の柱=リーダーシップ評価の崩壊である。② 女性・若年層の期待剥落は疑惑本格化より先に始まっており、皇室典範がそれを象徴的に完成させた。③ 「はっきり物を言う→ビシバシ答弁するはず」という投影は、陳述書不提出で正反対の像に反転した。④ 物価高は主因ではなく、すべての失点を増幅する環境要因。
⑤ 残った支持理由は「他に適当な人がいない」14%前後(11月から今もほぼ不変)。つまり現在の支持率の実質的な床は消極的支持であり、下値目処は40%前後とみる。
今後の検証ポイントは2つ。
第一に、次回の時事・毎日で60代の支持率が戻るか。戻れば皇室典範ショックは一過性、戻らなければ構造的離反だ。
第二に、7/22にようやく提出された秘書の陳述書(疑惑を否定する内容)で下げ止まるか。止まれば主因は疑惑対応、止まらなければ指導力評価の毀損はもう独り歩きしている。ちなみに時事7月時点で内閣支持49.0%+自民支持20.8%=69.8。青木率(合計50割れで政権が持たないとされる経験則)まではまだ距離があるが、この1か月のペースで削れば秋には射程に入る。
数字は感情より正直である。次回の各社調査で答え合わせをしたい。
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年7月23の記事より転載させていただきました。







コメント
政治の世界にも「ハネムーン」という言葉がありまして、新政権の発足後およそ100日間は、比較的高い支持率を得るのが普通なのですね。高市政権は、昨年10月の発足ですから、9か月を経過しており、半年ほど前に支持率が下がっていても普通でした。それがここまで、比較的高い支持率を保ってきたということは、他の内閣と比較して、上出来、と言えるのではないでしょうか。
歴代内閣の内閣支持率推移という面白いチャートがありましたからご紹介いたします。このグラフ、森、小泉両内閣の間に断絶があり、森内閣以前は毎日新聞の調査、小泉内閣以降はNHKの調査となっており、内閣同士の比較は小泉内閣以降で行うのが安全です。 https://honkawa2.sakura.ne.jp/5236a.html
政権発足後、比較的長い期間にわたって高い支持率が続いた内閣は、高市内閣を基準に見ますと、小泉、安倍の両内閣くらいしか見当たりません。岸田内閣は、発足直後は低かったのですが、その後じりじりと支持率を上昇させるという、奇妙な動きをいたしました。21世紀の内閣で、高市内閣と比べてそん色ないといえるのは、この、小泉、安倍、岸田の三内閣くらいではないでしょうか。
その他の内閣の支持率カーブも、色々と面白い。石破内閣支持率は、最初から低く、最後まで低いままでした。よくあるのが、発足直後は高いのだけど、その後ストーンと下がって低位で振動する、バンジージャンプ型で、典型は菅(スガ)内閣や野田内閣です。鳩山内閣は、ゴムひもを忘れたバンジージャンプのようで、発足直後から一直線に下がってピクリともしませんでした。それぞれ、個性を反映しているようです。
これらを総じてみれば、内閣支持率は、最初高くてその後下がるのが普通なのですね。その中でも高市内閣は、他の内閣に比べて、健闘している。これが実際のところではないでしょうか。