円相場が1ドル=165円という異次元の領域に近づいている。7月23日には一時163円99銭まで下落し、約40年ぶりの安値を更新した。市場では165円到達を予想する声が強まり、もはや政府の「断固たる措置」という決まり文句にも反応しなくなっている。

「有事の円買い」から「有事の円売り」へ
今回の円安を加速させている直接の要因は、中東情勢の緊迫化である。紅海のタンカー攻撃などを受けて北海ブレント原油は1バレル=100ドルを突破し、WTI原油も92ドル台に上昇した。
原油高は米国のインフレを再燃させ、FRBの追加利上げ観測を高める。一方の日銀は、来週の金融政策決定会合でも政策金利を据え置くとの見方が大勢だ。この結果、日米金利差が意識され、ドル買い・円売りが続いている。(TBS NEWS DIG)
かつて円は「安全資産」と呼ばれ、国際情勢が不安定になると買われた。しかし現在は、戦争が起きても円ではなくドルが買われる。エネルギーの大半を輸入し、財政赤字を膨らませ、中央銀行が利上げをためらう国の通貨を、安全資産と呼ぶ市場参加者はいなくなった。
11.7兆円を使っても円安は止まらなかった
政府は4月末から5月にかけて、11兆7349億円という過去最大規模の円買い介入を行った。これによって円相場は一時160円台後半から155円近辺まで戻ったが、効果は長続きしなかった。わずか3カ月足らずで、再び164円に迫っている。(SMD Asset Management)
これは当然である。為替介入は市場の流れを一時的に遅らせることはできても、その方向を変えることはできない。日本政府がドルを売って円を買っても、積極財政を続け、日銀が実質金利を低く抑える限り、市場は再び円を売る。
財務相が「断固たる措置を果断にやる」と発言しても、市場から見れば、日本政府は円安の原因を自分でつくりながら、円安を止めると叫んでいるだけである。
「骨太ショック」で始まった財政支配
さらに問題なのは、高市政権が消費税減税や防衛費増額を打ち出しながら、具体的な財源を示していないことだ。首相周辺では「国債は借り換えればいくらでも発行できる」と主張する会田卓司氏などのMMTが、バラマキをあおっている。
他方、日銀は手をしばられ、今月末の金融政策決定会合でも政策金利は据え置く予定だが、財政赤字で長期金利は上がる。それを抑圧するために日銀が国債をマネタイズする財政支配の様相が強まっている。日銀への介入は政治的に面倒なので、最近はGPIFにマネタイズさせようとしている。
このような財政支配は中南米ではありふれた現象で、最近ではトルコリラが通貨危機に陥っている。1ドル=165円になれば、ドル建てで見た日本企業、不動産、賃金はさらに安くなる。日経平均が最高値を更新しても、円の価値がそれ以上に下がれば、外国人から見た日本の資産は値下がりする。
これが円安バブルである。国内では株価や売上高が膨らんで景気がよくなったように見えるが、海外から購入するエネルギー、食料、医薬品、クラウドサービスの価格は上がり、家計の購買力は低下する。名目の数字だけが膨らみ、国民の実質的な豊かさが失われていく。
165円は壁ではなく通過点か
米財務省も、日米金利差が縮小しているにもかかわらず円安が続いていることを問題視し、日銀に追加利上げを促している。円は2011年末から2026年4月までに、対ドルでも実質実効為替レートでも約50%下落した。

ドル円レート(赤)と実質実効為替レート(右軸)
この円安は、金利差だけでは説明できない。日本の財政・金融政策に対する信認そのものが低下しているからだ。市場関係者が165円を口にし始めた以上、それはもはや荒唐無稽な数字ではない。しかも、ある運用会社は年末165円という予想を、さらに円安方向へ修正することまで検討している。(SMD Asset Management)
政府が減税と財政支出を続け、日銀に利上げをさせないのであれば、為替介入は単なる時間稼ぎに終わる。1ドル=165円は円安の終着点ではない。高市政権の財政支配のコミットメントが変わらなければ、次の節目に向かう途中の通過点になるだろう。この流れを止める方法は、高市首相の退陣しかない。







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