トランプ大統領の裁判「全敗北」に見る司法権の壁

トランプ大統領ないし、政権が絡む裁判の判断/判決が次々と出ています。全部負けです。

トランプ大統領 ホワイトハウスHPより

  1. 一律グローバル関税問題 本件は皆さんご承知の通りで大統領の通商権限の過度な拡大とされました。議会に通すものを通さずに行政権で強制的に執行したことが仇になったわけです。
  2. FRBのクック理事の解任の否認 FRBの政策に不満を持ち、利下げを引き出すために理事の入れ替えを目論んだ中でクック理事の過去の行為が理事としてふさわしくないとして解任させてようとしたものの訴訟合戦となり、6月に最高裁の判決が出ました。これは5対4の僅差の判断でしたが、もともと最高裁はトランプ氏に近いとされていた中での微妙な裁判だっただけに僅差以上の負けではないかと感じます。
  3. 出生地主義制限 トランプ氏は不法移民の子供がアメリカの国籍を取得できるのはおかしいと主張していました。トランプ氏はアメリカをよりピュアな人種構成にしたいと考える中で不法移民の排除を進めるための行政執行を考えたわけです。ところが裁判所は100年以上も続くアメリカの根幹をなす移民に対する考え方がそう簡単に覆せるものではないと却下しました。出生地主義に関する異論は常に付きまとっており、特に共和党側が折に触れてこの問題を提起していますが、すべて跳ね返されています。
    この問題について少し突っ込むと必ず出てくるのが1898年のWong Kim Ark訴訟で、アメリカ訴訟を勉強した人ならこれは避けて通れないほど有名で出生地法のバイブル的判決とされます。要は当時、中国人排斥法がある中で中国系アメリカ人である同氏が一次的に国外にでて戻ってきたとき、入国を拒否されたことで起きた裁判です。ウォン氏が6対2で勝訴していますが、出生地主義と取得済みの国籍の意味の重さを如実に表していると言え、これを覆すようなトランプ氏の行政的判断は間違いであると最高裁は良識ある判断をしたのであります。
  4. 郵便投票の制限 これは3月にトランプ氏が大統領令で「有権者の州市民名簿」を新たに作成させ、郵便公社に選挙の郵便投票用紙をその名簿に記載された者のだけに送れと指示したものです。トランプ氏は以前から郵便の不正投票疑惑を指摘しており、それを大統領令で強制しようとしました。現在、連邦控訴裁判所まで進んでいますが、却下です。これは選挙で一方の政党を有利にするという背景が見え見えでありました。今後最高裁での判断が下されるものと思います。
  5. ジーン キャロル氏への暴行事件 これは比較的日本のメディアはカバーしていないと思いますが、6月29日に出たトランプ氏個人への判決で作家のキャロル氏が性的暴行と名誉棄損で私的な民事裁判をトランプ氏に対して起こされていました。判決は8億円の損害賠償を支払えという最高裁の判決であります。トランプ氏は大統領特権で大統領の座にある時には免責特権があると主張しましたが、最高裁は却下したのであります。

これ以外にもう1つ進んでいるのが就労ビザ10万㌦問題。これは地方裁判所でトランプ氏の敗訴が出ているのですが、政権側が控訴、その際、無効判決の執行停止を裁判所が認めたため、暫定的に10万㌦ビザが残ったのですが、7月24日に上訴裁判所が執行停止要請を却下し、3380ドルの申請料が復活しています。これも最高裁で判断が下され、最終確定するはずです。連邦地裁の考えは10万㌦は費用ではなく、議会承認を得ていない不正な税金という発想でありました。

トランプ氏は自らの権限を従前の大統領よりより強いものだとみなし、世界を相手に「剣」を振り回し、戦いを挑みました。ですが、アメリカの裁判所から「トランプさん、その剣は使ってはいけませんよ」と制限されたのです。いや制限だけならいいのですが、イラン戦争のように泥沼化する可能性すらある戦いにはまり込むなか、最近は政権幹部の声もあまり聞こえなくなってきました。何故でしょうか?彼らもしたたかなのかもしれません。このままトランプ氏と討ち死したくないと思っている節が見えるのです。

私は三権分立という民主主義の根幹において政権が議会と裁判所を支配する事態になることを恐れていました。少なくともアメリカの議会は今、十分に機能しているとは思えず、イエスマンとアンチという政策よりも政局の議会運営になっています。最高裁の判事も一時はトランプ氏の影響力が出そうだったのですが、少なくとも今年の裁判の行方を見る限り、まだアメリカ司法は機能しており安堵しています。次の着目はFRBが政治からの明白に独立性を保てるか、でありましょうか。

トランプ政権がかき回す中、この失地からアメリカをどう挽回するか、国民のパワーの変化に期待したいところです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年7月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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