高市さんはよくやってると言う人がいます。彼らによるとインフレも円安も高市さんの施策には全く関係なく誰がやってもかわらんそうです。だったら他の人でいいじゃん。w
「日銀が利上げしないから円安になっている」
この9か月、あちこちでこれも見ました。X でも、テレビでも、経済評論家っぽい人のnoteでも。
で、これ、事実と違います。
日銀は2025年12月に0.5%→0.75%、2026年6月に0.75%→1.0%と、この9か月で2回利上げしています。政策金利1.0%は1995年以来の高さ。それでも円は7月に164円まで行った。
つまり問題は「利上げしていない」ことではない。利上げしても効かないところまで来ていることです。
高市政権が発足してから9か月。何がどの順番で起きて、どこがまずかったのか。数字と日付を全部並べます。長いです。この件は雰囲気で語られすぎてますな。
日銀は2回利上げしたが、円安は止まらなかった(政策金利は適用開始日ベース)10月4日、高市早苗氏が自民党総裁に選出。ちなみに首相に指名されたのは10月21日です。ここ、意外と混同されている。
つまり以下は、まだ首相ですらない、政策を1つも実行していない段階での市場の反応です。
週明け10月6日(月)。
- 日経平均 47,944.76円(+4.75%)で史上最高値。ザラ場では48,150円まで
- ドル円 150.13円まで下落。対ユーロは176.22円で史上最安値
- 30年国債 3.29%で史上最高。翌7日には3.333%でさらに更新
- 40年国債 3.505%(+12.5bp)
- 10年国債 1.694%(2008年以来)
市場の答えは明快でした。「高市さんなら株には追い風。ただし円と国債には逆風」。
特に対ユーロで史上最安値をつけたのが効いています。「ドルが強いだけでしょ」という反論を、初日から潰しているので。ドルの話ではなく、円の話なんですよ。
政策を1つも実行する前に、「積極財政+利上げ牽制」という期待だけで円と国債が売られ始めた。マーケットは公約ではなく人物を見て値をつけた、ということ。
11月、高市政権はほぼ積極財政・金融緩和寄りの人物だけを政策の中枢に並べました。
- 日本成長戦略本部(11月4日設置・11月10日初会合)… 片岡剛士(元日銀審議委員)、会田卓司(クレディ・アグリコル)
- 経済財政諮問会議の民間議員(11月12日初会合)… 若田部昌澄(前日銀副総裁)、永濱利廣(第一生命経済研)、南場智子、筒井義信
若田部昌澄氏はリフレ派の代表格。前の日銀副総裁です。この布陣を見て市場が「利上げは遅れるな」と読んだのは、まあ自然。
ただ、人事は本丸じゃない。この2か月で実際に動いた金額のほうがはるかに重い。
- 11月21日 総合経済対策を閣議決定。国費(真水)21.3兆円
- 12月16日 令和7年度補正予算が成立。歳出18兆3,034億円、新規国債の追加発行11兆6,960億円(コロナ期を除けば最大級)
市場の反応も、人事ではなく金額に対して来ました。
こちらは高市就任(縦線)からの10年国債の金利推移。国債は信用が下がるほど金利が上がります。高い金利じゃないと買わないよということです。

- 12月2日 30年債 3.41%で史上最高
- 12月8日 10年債 1.97%(2007年6月以来、約18年半ぶり)
そして12月19日、日銀が利上げ。0.5%→0.75%、全員一致。約30年ぶりの水準です。
ここが重要で、日銀は利上げした。それでも12月末の円は156.56円で、10月より9円近く安い。「利上げすれば円安は止まる」という素朴な話ではないことが、この時点でもう出ていた。
「責任ある積極財政」と言いながら、責任を担保する財源・歳出の上限・金融政策との切り分けが最後まで出てこなかった。出てきたのは21.3兆円の対策と11.7兆円の追加国債という実弾のほうだけ。
9か月で積み上がった「積極財政」の実弾。経済対策の国費と補正予算は重なる部分があるので単純合計ではない11月7日、衆議院予算委員会。立憲民主党の岡田克也氏がバシー海峡の封鎖など台湾有事の具体シナリオを質問。これに対し高市首相は、中国による台湾攻撃が日本の「存立危機事態」になり得る、と答弁しました。
で、ここがポイントなんですが、これ事前に用意された政策変更ではありません。
後の報道によれば、政府の応答要領(想定問答)には記載がなく、政府資料は「台湾有事についてはお答えを差し控える」となっていた。つまり首相個人のアドリブです。その日の朝3時から官僚とやった勉強会はなんだったのか。
中国の反応は速かった。
| 日付 | 中国側の措置 |
|---|---|
| 11月8日深夜 | 大阪総領事・薛剣がXに「その汚い首は…斬ってやるしかない」と投稿(翌日削除。本人は召還されず在任継続) |
| 11月14日 | 外交部・文化観光部が訪日自粛を公告。中国系航空10社超が無料払戻しに対応し、約54万席がキャンセル |
| 11月15〜16日 | 教育部が日本留学の注意喚起。黄海で実弾演習 |
| 11月19日 | 日本産水産物の事実上の輸入再停止(11月初に解禁したばかり)。牛肉の輸出協議も停止 |
| 11月下旬〜12月 | 映画の公開延期、コンサート中止が連続。12月9日にジブリ展中止 |
| 12月6〜7日 | 空母遼寧が宮古海峡を通過。J-15が空自F-15に火器管制レーダー照射 |
そして数字。JNTOの統計を見てください。
中国からの訪日客数の前年同月比。答弁の翌月から一気に半減した10月は+22.8%。11月も+3.0%とプラス。
それが12月に▲45.3%、1月に▲60.7%。以後ずっと半減水準が7か月続いている。
効いているのは中国だけじゃありません。訪日客の総数が2026年1〜6月累計で前年比▲2.0%。コロナ後ずっと右肩上がりだったインバウンドが、5年ぶりに前年割れしました。
経済損失の試算も出ています。ここは数字が独り歩きしているので正確に。
安全保障上の実利をほとんど増やさない一言で、中国に日本を狙い撃ちする口実を与えた。しかも撃たれたのは政治家ではなく、旅館・免税店・水産業者・航空会社です。
2026年1月6日、中国商務部が公告2026年第1号を発表、即日施行。
これ、従来の「ガリウム禁輸」みたいな品目リスト方式ではありません。「日本の軍事ユーザー・軍事用途、および日本の軍事力増強に資する一切のエンドユーザー・用途」向けを禁止する、エンドユーザー基準+キャッチオール条項。守備範囲がめちゃくちゃ広い。
日本側は1月7日、木原稔官房長官が「断じて受け入れられず、極めて遺憾」。
その後の追撃。
- 2026年2月24日 輸出管理リスト20社+監視リスト20社の計40エンティティを指定。川崎重工、IHI、防衛大学校、JAXA、三菱重工子会社/監視側にSUBARU、住友重機械、ENEOS、三菱マテリアルなど
- 2026年6月29日 第2弾でさらに40エンティティ。防衛研究所、艦艇装備研究所、三菱プレシジョン、川崎重工岐阜工場ほか
効いているかどうか。中国税関のデータが一番わかりやすい。
2025年11月から2026年5月まで、酸化テルビウムと酸化ジスプロシウムの対日輸出はゼロです。ゼロ。
企業側の悲鳴も可視化されています。ロイターが7月6日に報じたところでは、これまで月40件未満だったレアアース言及の適時開示が5月以降に倍増、5〜6月の約200件の開示のうち3分の2超がレアアースに触れている。
損失の規模については、あちこちで「数十億ドル規模」と書かれていますが、桁が1つ足りません。
| 試算 | 前提 | 損失額 | GDP比 |
|---|---|---|---|
| NRI 木内登英 | レアアース規制が3か月 | 6,600億円 | ▲0.11% |
| NRI 木内登英 | 同 1年 | 2.6兆円 | ▲0.43% |
| 大和総研 秋本浩基 | レアアースのみ1年 | 約7兆円(雇用▲90万人) | ▲1.3% |
| 大和総研 秋本浩基 | 重要鉱物全体で1年 | 約18兆円(雇用▲216万人) | ▲3.2% |
産業別で最大の打撃を受けるのは輸送機械(自動車)で▲17.6%。日本のレアアース輸入は中国依存が62.9%(2024年・財務省貿易統計)、重希土類はほぼ全量です。
中国の輸出管理強化は、高市政権より前から積み上がっています。
- 2023年7月 ガリウム・ゲルマニウム
- 2023年10月 黒鉛
- 2024年8月 アンチモン・超硬材料
- 2025年2月4日 タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウム(対米関税への報復)
- 2025年4月4日 中重レアアース7品目(Dy, Tb, Lu, Sc, Y, Sm, Gd)
実際、スズキがスイフトの生産を止めたのは2025年春。高市発言の半年前です。日産も同時期に供給支障を報告している。
さらに2025年10月9日には中国が域外適用ルール(中国原産レアアースが価額の0.1%以上入った外国製品も対象)を導入。ただしこれは米中の休戦で2025年11月7日から1年間、全世界向けに停止されました。
つまり構図はこうです。
「中国に強く言ってやった」という国内向けの政治的演出の代金を、自動車・モーター・半導体・工作機械・電子部品のメーカーが払う構図になった。つまり最終的には国民が払っている。
1月19日、高市首相が記者会見で解散を表明。あわせて出したのがこれ。
軽減税率が適用されている飲食料品について、2年間に限り消費税の対象としない
食品の消費税8%をゼロに。恒久財源で年5兆円に相当する税収が消える公約です。
で、財源。会見で示されたのは「今後設置される国民会議で検討を加速します」でした。
……検討。
挙げたのは補助金・租税特別措置・基金の見直し程度。年5兆円を安定的に確保する仕組みは、この時点で存在しませんでした。
市場の返事は即日でした。
| 日付 | 10年 | 20年 | 30年 | 40年 |
|---|---|---|---|---|
| 1月19日 | 2.24%(27年ぶり) | ― | ― | ― |
| 1月20日 | 一時2.380% | 3.48%(1996年以来) | 3.91%(1999年以来) | 4.0%=史上最高 |
2日で20年債が+32bp、30年債が+42bp。同日の20年債入札も低調。これ、通称「減税ショック」として記録されています。
選挙結果はご存じの通り。
- 1月23日 衆議院解散
- 2月8日 投開票。自民党が単独316議席(戦後最多。従来の最多は1986年の304)。単独で3分の2超。自民+維新で352
圧勝です。ただ、マーケットは選挙に投票しない。
食品消費税ゼロ、まだ実現していません。
- 税率は0%ではなく1%で調整中(レジ改修が0%だと約1年、1%なら5〜6か月で済むため)
- 開始は2027年4月1日から2年間。外食は10%据え置き
- 法案提出は2026年秋の臨時国会。方針決定自体が6月下旬から8月上旬にずれ込み中
- 1%案の減収は年約2.3兆円
- 6月22日に首相が「減税開始から2年後に8%に戻す」と明言
5兆円の減収を公約して国債を叩き売られた。なのに半年経っても中身が固まっていない。市場に請求書だけ先に届いて、国民には商品がまだ届いていない状態です。
9か月で国債の利回りはこう動いた。全年限で大幅に上昇している1月31日、川崎市での街頭演説。
「今円安だから悪いって言われるけれども、輸出産業にとっては大チャンス」
「外為特会っていうのがあるんですが、これの運用、今ホクホク状態です」
選挙演説なので、まあ、勢いはあるでしょう。ただ一国の首相が円安のメリットを強調したという事実は残ります。翌2月1日にX で釈明。
ここは正直に書きますが、この発言だけで相場が壊れたわけではありません。
- 1月30日終値 153.92円 → 2月2日 154.90円 → 2月4日 156.30円(約2.4円の円安)
- ただし2月12日には153.11円まで戻している
- 本格的な円安加速は3月以降
だから「ホクホク発言で円が暴落した」と書くのはちょい盛りすぎ。正確には、政府は円安を止める気がない、というシグナルとして市場の記憶に残った。
そして外為特会の含み益って、ドル資産を円換算した帳簿上の増加が中心です。
政府の外貨資産が帳簿の上で膨らんでいる間、あなたが払っているのは、食料品、ガソリン、電気ガス、医薬品、原材料、海外旅行と留学の値上がりです。ホクホクしているのは国民ではなく特別会計。
国民が円安インフレを負担しているときに、政府の帳簿上の利益を「ホクホク」と表現した。内容の正誤以前に、誰の側に立っているのかが出てしまった一言。
ここが個人的に一番「なんだそれ」だった部分。
まずガソリンの暫定税率25.1円/Lが2025年12月31日に廃止(法案は11月28日成立)。軽油引取税17.1円/Lも2026年4月1日に廃止。減税ですね。歳入は減ります。
で、2026年3月11日に補助金の再開を決定。3月19日出荷分から、中東情勢を理由にガソリン全国平均170円程度に抑える緊急激変緩和措置。補助単価は6月4日以降33.3円/L、7月17日時点で7.5円/L。
税金を下げて、3か月後に同じガソリンの価格を税金で抑えに戻った。
これを何と呼ぶかは、あなたの語彙に任せます。わたしはマッチポンプと呼びます。単にみかけのインフレ率が上がらないように税金で埋めただけ。
財政の側も見ておきましょう。
- 令和8年度補正予算(第1号)3兆1,135億円 閣議決定6月3日・成立6月5日
- 中身は補助金の直接計上ではなく予備費の積み増し(中東情勢等対応予備費2.5兆円+一般予備費5,135億円ほか)
- 財源は全額が特例公債。特例国債は22兆8,680億円→25兆9,815億円へ
- ただしカレンダーベース市中発行額168兆5,000億円は据え置き。前年度に発行予定だった特例公債3兆円が税収上振れで不要になった分の「年度間調整」で吸収
最後の部分は政府の言う通りで、市中への発行額は増えていません。ここは正確に認めるべき。
ただし、ですよ。
2026年度の当初予算は、国の一般会計ベースで28年ぶりのプライマリーバランス黒字でした。1998年度以来です。歳出122兆3,092億円、税収83兆7,350億円、新規国債29兆5,840億円。
その28年ぶりの黒字が、6月の補正3兆1,135億円(全額特例公債)で消えました。たった3か月です。
自分の政策で円安圧力を強め、円安で上がったガソリン価格を税金で一時的に隠し、その財源として28年ぶりの黒字を3か月で溶かした。症状を隠す薬代のほうが病気より高くつく典型です。
これ、今回の時系列でいちばん重い事実だと思うんですが、あまり語られていない。
2026年4月28日〜5月27日、財務省は11兆7,349億円の円買い介入を実施しました。月次ベースで過去最大です。それ以外の期間はすべてゼロ。
市場推計では4月30日に約5兆円を投入し、160.70円から155.50円へ一気に5円戻した。
口先介入も総動員でした。
- 1月23日 日米当局がレートチェック(160円接近→155円へ急落)
- 4月30日 片山さつき財務相「断固たる措置をとるタイミングが近づいている」/三村淳財務官「これは最後の退避勧告」
- 6月19日・6月30日・7月24日 片山財務相が繰り返し「断固たる措置」
結果。
7月24日、164.01円。1986年11月以来の円安水準です。そもそも盲腸炎が悪化して高熱が出ているのに盲腸炎の手術をしないで解熱剤を与えてもすぐに効果が切れる。まんまそれです。
11.7兆円と、財務官の「最後の退避勧告」と、日銀の2回の利上げ。全部投入して、2か月で介入前より円安になった。
わたしはここが一番怖いと思っています。手札を全部見せて、それでも止まらないことを市場に確認させてしまったので。
政策手段が効かないことを、過去最大の弾を撃って実証してしまった。次に介入すると言っても、市場はもう同じようには反応しない。
6月30日に原案、7月21日に閣議決定。高市政権初の骨太の方針です。副題は「「責任ある積極財政」元年 〜日本の挑戦を起動する!〜」。
ちなみに当初は7月14日に決定する予定でしたが、長期金利の上昇を受けて先送りされました。骨太の方針が金利で日程を動かされる。それ自体がなかなかの事件です。
中身の目玉は「2040年度まで累計で370兆円超の官民投資」。17の戦略分野・62の主要製品技術のロードマップに紐づけ、「強く豊かな日本」投資枠を通常歳出とは別枠で創設。
問題は金額そのものより、
- 官と民の負担区分があいまい
- 政府支出の財源が不明
- 投資額と経済効果の因果が弱いというかほぼ適当
- あり得ない高成長を前提に財政指標を改善させている
- 失敗した事業を止める基準がない
- 食品減税との整合性がない
そして日銀への文言。ここの経緯が面白いので追ってください。
- 6月30日の原案…「安定的な物価上昇に資する適切な金融政策」が1回登場。日銀法第4条(政府との連携)を引く形で、利上げ牽制と受け取られる
- 7月7日の修正…文言が2回に増え「非常に重要」と加筆。むしろ牽制色が強まった
- 7月10日…城内経財相が市場の反応を受けて再修正を表明
- 最終版…引用条文が日銀法第1条+政府・日銀共同声明に変更。脚注で「日本銀行法第3条に基づき、金融政策の具体的な手法は日本銀行に委ねられる」と独立性を明記
一度は牽制を強めて、市場に叩かれてから引っ込めた。市場に文章を校正されているわけです、政府が。
で、金利。7月のピークがこれ。
| 年限 | 7月のピーク(終値) | 日付 |
|---|---|---|
| 10年 | 2.875%(ザラ場で2.9%) | 7月9日 |
| 20年 | 3.865% | 7月8〜9日 |
| 30年 | 4.070% | 7月6日 |
| 40年 | 4.030% | 7月9日 |
10年債2.875%は約30年ぶり。30年債はすでに5月中旬に初めて4%を突破していました。
PB(プライマリーバランス)目標の扱いも変わりました。ここも正確に。
投資額だけは巨大だが、誰が、いつ、何に、いくら払い、どれだけ税収を増やすかが不明な数字先行の成長物語。規律を外したのに、独立財政機関のような外部チェックは置かなかった。
7月21日に163円を突破、7月24日に163.96円(仲値164.01円)。1986年11月以来の円安です。
「40年ぶり」という表現、盛っているように見えて正確です。2024年7月の高値が約161.95円、1990年4月の高値が約160.3円。163円台は本当に1986年まで遡らないと出てきません。
もちろん全部が高市政権のせいではありません。米国金利、中東情勢と原油高、世界的なドル高、日本の貿易構造。全部効いています。
ただ、日本固有の要因として海外メディアが名指ししているのはこのあたり。
- 大規模な財政支出
- 財源不明の減税公約
- 首相自身による円安容認発言
- 骨太での日銀への政治的関与
- 財政運営への信頼低下
格付けは3社とも据え置きです(Moody’s A1、Fitch A、S&P A+、いずれも見通しStable)。ただしS&Pは3月30日に「成長が他の高所得国を持続的に大きく下回り、かつ円がさらに大幅に弱含めば格下げの可能性」と明示的に警告しています。
格下げはされていない。でも札は切られている。
積極財政→財源不明→実質金利マイナス→円安→物価高→補助金と減税→国債売り→利払い増→また財政出動もうひとつ、対中のループも同時に回っています。
台湾有事でいきった答弁 → 日中関係悪化 → 観光半減・水産物禁輸 → レアアース/タングステンの供給不安 → 自動車・半導体・機械・防衛のコスト上昇 → 投資停滞・生産制約 → GDP下押し。
批判記事は都合の悪いデータを隠すと弱くなるので、先に置いておきます。
- CPI(2026年6月)…総合+1.7%、コア+1.6%。2%を割っている
- 実質賃金(2026年5月速報)…+1.4%で5か月連続プラス(名目+3.2%、53か月連続増)
- 実質GDP…2025年10-12月期が年率+1.3%、2026年1-3月期が年率+1.8%で2四半期連続プラス
- 2026年度当初予算…国の一般会計ベースで28年ぶりのPB黒字(ただし6月補正で消滅)
つまり「フロー」の指標は、実はそこまで悪くない。ここを無視して「日本経済は崩壊した」と書くと、まともな人には相手にされません。問題はそこじゃないんです。
壊れているのは円と国債という「信認」の指標のほう。GDPも賃金も今期の話ですが、通貨と長期金利はこの国の10年後・30年後の値段です。そっちが売られている。
高市政権の問題は、単に「お金を使った」ことではありません。
順番に並べるとこうです。
- 円安を招きやすい財政政策を主張する
- その円安で上がった物価に、補助金を出す
- さらに人気取りの減税を乗せる
- その財源不足を「高成長」という希望的観測で埋める
- 足りない分は、市場に請求書を回す
自分で問題を作り、税金で一時的に隠し、最後は市場に払わせる。そして今回いちばん強調したいのは、冒頭に書いたこれです。
日銀は0.5%から1.0%まで、9か月で倍に利上げした。財務省は11.7兆円を投じた。それでも円は164円になった。
「日銀が動けば解決する」という話は、もう終わっています。名目金利を倍にしても、インフレと財政拡張に追いつかず実質金利がマイナスのままなら、円は止まらない。金融政策の隣で財政が全開のアクセルを踏んでいるからです。
もちろん、レアアースの世界的な輸出規制も、原油高も、米国金利も、高市氏以前から存在していました。全部を一人の責任にするのは不正確です。
高市氏の責任として指摘できるのは、既存の弱点を改善するどころか、不用意な一言と財源不明の政策でリスクを大幅に増幅させた点。
それだけで十分に重い、とわたしは思いますww。このエントリーを書いているときはまだ食品消費税を1%にするという決定はされていません。しかし実際に決まれば円安からさらにインフレが進む。彼女自身、なにをやっているのか基礎知識がなさ過ぎてわかっていないと思います。
数字はすべて一次資料または報道で確認したものだけを載せています。
- 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定)
- 財務省「令和8年度補正予算」「国債発行計画」「外国為替平衡操作の実施状況」
- 日本銀行「金融政策決定会合議事要旨・公表文」(2025年12月19日、2026年6月16日)
- 日本相互証券(国債利回りヒストリカルデータ)
- 七十七銀行(為替相場ヒストリカルデータ)
- 日本政府観光局(JNTO)訪日外客数統計
- 総務省「消費者物価指数」、厚生労働省「毎月勤労統計」
- 財務省「ファイナンス」2025年10月号(レアアース輸入依存度)
- NRI 木内登英 コラム(2025年11月18日、11月28日ほか)
- 大和総研 秋本浩基「重要鉱物の供給制約が日本経済に与える影響」(2025年12月11日)
- ロイター、ブルームバーグ、日本経済新聞、時事通信、NHK の各報道
※ 事実関係は2026年7月29日時点。日付・数値に誤りがあればご指摘ください。直します。

高市首相 首相官邸HPより
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年7月29の記事より転載させていただきました。







コメント
これ、架空の人物の架空のお話なのでしょうか。そうであるなら、あえてコメントする必要はないのですが、「高市早苗」のタイポであったという前提で、コメントしておきます。
ここで、「日本経済に与えたダメージ」といわれるのは、具体的には次の三点を指しているように思われます。第一に、国債価格の低下と長期金利の上昇、第二に円安が進んだこと、第三に日中関係が悪化して中国人旅行者が減少したというところですね。以下、これら三点に関して、ひとつづつ議論いたしましょう。
1. 国債価格の低下と長期金利の上昇という問題
国債価格の低下は、二つの面で考えておく必要があるでしょう。第一に、金利が上昇すれば、決まった金利しか受け取れない国債の取引価格は低下します。第二に、日本政府が信認を失えば国債価格は低下します。これは、デフォルト、つまりは国債が紙くずとなる確率がどの程度あるかが、国債金利に上乗せされるのですね。
日本がデフォルトするリスクは、現実にこれを気にする人はほとんどおられないでしょう。このエントリーでも、フローは悪くないとしておりますすから、必ずしも危機的状況と捉えているわけではないのですね。もう一つ安心できる要素は、日本国債がほとんど国内で消化されており、国債を保有している人の大部分は、日本の破綻を心配しても始まらない人たちなのですね。
これが、英国国債がかつてそうであったように、海外の保有比率が高い場合、ひとたび信認を失うと一斉に売られるショック状況が生じやすいという問題があるのですね。これは、利益追求を第一に考える海外ファンドなら当然の行動なのですが、国内の国債保有者は、日銀はもちろん、多くの銀行も国債の売り浴びせなどできるわけもなく、個人の国債保有者も、多少国債相場が下落したところで慌てて売ったりはせず、満期まで保有して既定の償還に期待する人が多いのではないでしょうか。
ちなみに、日本国債は一部で「ウィドウメーカー」とも呼ばれております。これは、過去に何度か、日本国債ショート(売り)の投機に出たファンドが日本政府に敗れ去り、ウィドウの山を築いてきた、というブラックジョークなのですが、日本国債の安定度の高さを物語る逸話ではあります。
問題は、金利の先高観で、これは確かにゼロ金利時代がそうそう続くことは考えにくく、いずれ物価上昇率見合いの金利に落ち着くであろうことは多くの人たちが予想するところです。そのレートに関してはいろいろな考えがあるでしょうけど、2~4%程度とみるのが妥当ではないでしょうか。この金利見合いまでは国債価格が下落するのは自然です。
一方、「暴落」と言われるような大幅な国債価格の下落は、金利の短期予想に依存しており、こちらは日銀がどうするかにかかっているのですね。日本国債の急落を避けようと思えば、金利の引き上げを急がないのが妥当ということになります。
また、円安に対抗して金利を操作することは、多くの副作用を生じるため好ましくはなく、国内の景気の過熱冷却状況に応じて金利をコントロールするのが王道というものです。この場合、あまり急激な金利の上げ下げは、経済の変動を招きますので好ましくなく、様子を見ながらゆっくりと変化させていかなくてはいけません。「小鮮(しょうせん)を烹(に)るが如」くしなくちゃいけない、ということです。
2. 円安が進んだという問題
これに関しては、アゴラにも過去に何度かコメントしましたから、詳しく繰り返すことはしませんが、「日本経済の強さを考えて、円相場はどの程度が妥当か」という点を押さえなければ議論にならないのですね。この水準は、プラザ合意の時点で165±15円程度とみられており、その後の日本の低成長から考えると、さらに高いドル円が実力見合いと考えるのが妥当ではないかと私は考えているのですね。
トランプ氏に言わせれば「ドル高は大惨事」で、日本から見れば「円高が大惨事」であったと知らなくてはいけません。「失われた30年」の最大の原因は、円高という大惨事、だったのですね。
そう考えれば、165円程度まで円安が進んだことは、問題というよりは、正常化と考えるべきなのですね。これを正直に認めているのが株式市場で、高市トレードなどと呼ばれるように、高市政権になってから日経平均は一段の高値を追いました。最近は下げているのですが、これは、AIバブルが崩壊したもので、日本だけの現象ではありませんから、高市政権の責に帰すべき問題であるとは言えないでしょう。
3. 日中問題
こちらも過去に何度も扱いましたので詳細な議論はしませんが、台湾有事の際に日本が米国の支援をする可能性があることは、以前から否定されてはいなかったのですね。これを否定させようとした岡田氏の試みが失敗したことが、直接のきっかけだったのですね。
実は、日本が米軍に協力するか否かが、中国の台湾進攻の成否を分ける要素と考えられており、岡田氏は中国側に、その可能性は低いと語っていたのですね。これを確認した結果否定されてしまった。これが中国の異常とも思えるほどの怒りを買った背景には、もしかすると、具体的計画が進んでいた中国による台湾進攻がこれでとん挫したためであったのかもしれません。もしそうであるとすれば、高市氏のこの答弁は、世界平和に貢献するところ大であったということになります。
まあ、中国人相手のインバウンド商売には、高市答弁は大いにマイナスであったかもしれませんが、何を優先すべきかと言えば、世界平和ではないでしょうか。これを非難しても致し方ないと思いますよ。