英首相「国民からアンディと呼ばれたい」

バチカンニュースによると、「保守党の元党首であるボリス・ジョンソン氏は、カトリックの洗礼を受けていたものの、英国国教会の信徒として育ち、特定の宗教を実践することはなかった。一方、英国国教会の信徒であったトニー・ブレア氏は、在任中からカトリックの信仰を実践していたが、正式に改宗したのは2007年に首相を退任した後だ」という。一つの宗教を最後まで全うするのが通常と考えている人にとって、ジョンソン氏のように、生まれはカトリック、その後英国教会の信徒となり、現在は教会に距離を置いている、といった宗教歴を聞けば、「英国人は宗派に捉われない人間だ」と驚く。

ダウニング街10番地で就任演説するバーナム新首相、2026年7月20日、英国首相府公式サイトから

一般的に、英国国民は宗教の問題を政治の場に持ち込むことを好まない。そのような中、アンディ・バーナム新首相(56)が「公にカトリックの信仰を表明する初の英国の政府首脳」(バチカンニュース)ということにどれだけニュースバリューがあるか自信はないが、「何事も初物には特別の価値がある」と考え、生え抜きの初のカトリック系首相について書いてみた。ちなみに、英国の人口に占めるカトリック教徒の割合は1割弱に過ぎない。英国国教会(アングリカン・チャーチ)が最大宗派だ。

イングランド北部リバプール近郊のアイランド系カトリックの家庭に生まれたバーナム氏は2017年5月からグレーター・マンチェスター市長を務めてきた。。バーナム氏は近隣のウォリントンでカトリック教徒として育ち、そこで侍者も務めたことがある。そして、自分の子供たちをカトリック系の学校に通わせてきた。

英国のカトリック教会は、労働党党首のバーナム氏が英国の初のカトリック首相に就任したことに、慎重ながらも期待を寄せてきた。教会関係者は、政治の根本的な転換まではさすがには予想していないが、カトリックの社会教説が政治的行動により強く反映される可能性はあると見ている。司教協議会議長のウェストミンスターのリチャード・モス大司教は、7月20日付の祝賀メッセージの中でバーナム氏に対し、「人間としての尊厳、そして家族や社会的に疎外された人々、弱い立場にある人々のニーズに対して、真の配慮と敬意を持って行動してほしい」と控えめな要望を表明している。

バチカンニュースには「英国初のカトリック首相」にさまざまな期待と要望が報じられている。英国の司教らは、バーナム新首相が緩和ケアに対して示している姿勢を歓迎し、カトリック系の慈善団体は貧困層への支援や気候危機への対策に取り組むにあたり、自身の信仰を指針とするよう求めている、といった具合だ。

バーナム氏は、自身の政治的姿勢に対する信仰の影響について、「カトリック社会教説が私の政策の基盤を成している」と述べている。実際、首相に任命されるわずか数時間前に、バーナム氏はロンドンを拠点とするホームレス支援団体「ザ・パッセージ(The Passage)」を訪問している。バーナム氏は首相就任演説において、「わが国の路上からホームレス状態をなくす。正しい価値観と正しい規範を、政府運営の中心に据えることこそが重要だ」と述べている。

政治的には、中道左派に属する労働党の政治家として、公教育、社会福祉給付、税制改革、住宅開発などを主張してきた。マンチェスター市長時代のインフラ改革や投資に関する実績は、公に高く評価されてきた。一方、中絶、安楽死、性教育、LGBTQ+の権利といった問題については、リベラルな見解を持っている。特に2015年には、同性婚をめぐり、教皇フランシスコに対し教会を「21世紀へと」導くよう呼びかけたことがある。バーナム氏が中絶問題や同性婚問題などでカトリック教会と衝突することが予想される。

ところで、バーナム新首相は7月20日、ダウニング街10番地(首相官邸)前で就任演説をしたが、その要点は、「政治的安定の回復」「新経済モデル(大きな政府)への転換」「地方分権の推進」の3点に集約されるだろう。

バーナム氏はここ10年間で7代目の首相(第59代英首相)だ。英国の政界は腐敗とスキャンダルが絶えなかった。国民の政治不信は深い。それ故に、政治的安定を取り戻すことを急務となるというわけだ。また、国家が経済や社会により介入する「大きな政府」への転換を掲げている。「生活に欠かせない必需品」を国家の管理(公有化)に戻し、公共料金を支払える水準まで引き下げることで、国民の生活費負担を軽減すると明言している。そして新たな経済・政治モデルの道筋を示すため、年内に「10カ年計画」を策定すると発表した。ロンドン中心主義から脱却し、政治権力をロンドン(ウェストミンスター)から切り離し、全国の地方へ権限を分散・移譲させることなども目標に挙げている。政策はかなり過激だ。

バーナム首相は「早期の解散総選挙は行わない」と明言し、2029年までの任期をフルに使ってこれらの課題に挑む構えだ。バーナム首相は国民から「アンディ」と呼ばれることを願っているという。そのような日が早く到来することを期待したい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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