
答えられなかった人へ。あなたは正常です。会社も教えてくれないし、聞く場所もない。
……という話をこれからするのだが、その前に生活費の話をさせてほしい。順番が逆に見えるだろうが、逆じゃない。
定年後のお金が不安だという人は多い。ものすごく多い。ただ、その不安の中身を聞くと、たいてい誰も具体的な金額を言えない。「なんとなく足りない気がする」。これが正体である。金額が見えないから怖い。逆に言えば、見えれば怖くなくなる。それだけの話だ。
やることは単純で、「入るお金」と「出るお金」を紙に書く。入るお金は、定期収入(給与、公的年金、企業年金やiDeCo、家賃収入、配当)と、一時的な収入(退職金、保険の満期金)。出るお金は3つ。月々の基本生活費。固定資産税や自動車税のように年1~2回まとめて来るやつ。そしてリフォームや車の買い替えといったライフイベント費と、医療・介護の「万一のお金」。
生活費の目安は家計簿がなくても出る。手取り年収から、1年分の貯蓄額と一時的な支出を引く。残りが1年分の生活費。12で割る。それが今の1カ月分。老後はその70%が目安とされている。子どもの教育費と住宅ローンが消えるからだ。
——で、この「70%」を見て安心した人。危ない。
70%はあくまで平均の話であって、住宅ローンが65歳まで残っている人には何の慰めにもならない。介護が始まれば70%どころではない。私はこの数字が嫌いだ。目安として便利すぎて、思考停止を招く。
もっと確実なのはキャッシュフロー表を作ることである。西暦、家族全員の年齢、予定しているライフイベントを横に並べ、収入と支出、年間収支、貯蓄残高を年ごとに埋める。収入は手取りで書く。公的年金は「ねんきん定期便」の見込額を使うと精度が上がる。エクセルでいい。手書きでもいい。見るのは2行だけだ。年間収支と貯蓄残高。何年後に赤字に転じ、何年後にゼロになるか。それが出る。
出た数字が怖い? 怖いに決まっている。でも、怖い数字は早く見たほうが安い。60歳で気づけば「65歳まで2人で働こう」で済む。70歳で気づいたら、打てる手がない。
さて、退職金である。
受け取り方は3つ。一時金として一括、年金として分割、両方の組み合わせ。この3択で税負担が変わる。一括なら「退職所得控除」が使えるので、多くの場合、税金はかなり抑えられる。使い道も自由だ。住宅ローンの完済に充てるもよし、老後資金として置いておくもよし。ただし大金が一度に入る。使い過ぎる人がいる。というか、けっこういる。「車を買った」までは笑い話だが、その先は笑えない。
年金形式なら生活は安定する。定年後も働くなら、65歳までは給与で暮らして退職金は65歳以降に。リタイアするなら、公的年金が始まる65歳までのつなぎに使う。どちらも理屈が通っている。
冒頭の問いに戻る。「手取りいくらか」。答えは人によって違うので、ここでは書かない。書けない、が正しい。勤続年数でも受け取り方でも変わる。
ただ、一生に一度しか入らない金の税額を、入ってから調べる。それは、さすがにまずいだろう。
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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『知りたいことがぜんぶわかる! 定年前後のお金の超基本』社労士みなみ (著)/Gakken
■ 採点結果
【基礎点】 40点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】 21点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】 18点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【79点/100点】
■ 評価ランク ★★★ 標準的な良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
・視覚設計の徹底:フルカラーの図表とチャートを全編に配し、文字情報に依存しない構成を実現している。読書習慣のない読者でも視覚的に理解が進む設計であり、実用書としての入口の広さは明確な長所である。
・記述姿勢の冷静さ:客観的事実に基づき、煽りや誘導を排して淡々と解説している。不安を煽ることで購買を促す同ジャンルの類書と比べ、記述態度は信頼に足る。
・検索性への配慮:巻末のキーワードINDEXにより、専門用語から該当ページへ遡れる。通読後も辞書的に使える設計であり、実用書として長く手元に置ける。
・贈答需要への適合:親や友人へ贈る対象として成立する体裁と内容を備えている。読者自身が追加購入するという行動を引き出している点は、訴求力の実証といえる。
【課題・改善点】
・年金記述の正確性:年金に関する記載に正誤の判然としない箇所がある。制度の複雑さゆえの簡略化とも考えられるが、読者の受給額に直結する領域であり、記述の厳密性は最優先で担保されるべきである。ここが本書の評価を最も押し下げている。
・改定情報への追随:年金・雇用保険関連は制度改定の頻度が高い。基準日の明示や、改定が見込まれる項目への注記が十分とはいえず、刊行後の陳腐化リスクを読者が判断しづらい。
・独創性の限界:企画の枠組み自体は「図解で学ぶ定年前後のお金」という既存の型に収まっている。完成度は高いが、類書との差別化要素は構成の丁寧さに依存しており、切り口としての新規性は乏しい。
■ 総評
図解と平易な記述によって定年前後の制度を可視化した実用書であり、読書に不慣れな層への入口としての完成度は高い。網羅性と冷静な記述姿勢、巻末INDEXによる検索性など、実用書として求められる要件を堅実に満たしている。贈答対象として成立する点も、本書の設計思想の妥当性を裏づける。一方で、年金記述に正誤の曖昧な箇所が残る点は看過できない。読者の生涯収支に直結する領域である以上、ここでの精度不足は本書の最大の弱点である。改訂時の検証を前提に、入門書として推奨できる水準にある。








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