
- 内部留保38.7兆円に対して、トヨタが持っている現金は12.7兆円。内部留保は現金じゃない。ここまでは、まあよく言われる話。
- 「でも現金12.7兆円は多いだろ」→ 運転資金3ヶ月分。超優良企業なので平均より1ヶ月ぶん厚いのは事実。ただし1年で出ていく支払いはそれを上回るし、1年以内に返す借金は17.6兆円で現金では足りていない。
- ただし「内部留保はローンの残債になってる」という説明もちょっと違う。ローン債権39兆円を出しているカネは、借金43兆円のほう。内部留保が化けているのは、その借金をするための元手(自己資本)です。担保に取られているのでもない。米国子会社は借入の71%を「担保なし」で調達している——それを可能にしているのが内部留保。
- トヨタの総資産105.5兆円のうち、金融セグメントが53.7兆円で50.9%。営業利益の22.6%が金融。もはや自動車メーカーの決算書じゃない。
- 米国子会社トヨタモータークレジットはレバレッジ8.7倍、ROE13%、利ざや2.85%。数字だけ見せられたら誰も自動車会社だと思わない。完全に銀行。
- つまり内部留保に課税するというのは、世界最大級のノンバンク(メガバンクと変わらない規模)の自己資本に課税するということ。何が起きるかは最後に書きます。
よく言われる「賃金が上がらないのは企業が内部留保を抱えているからだ」という超短絡的な意見や、「法人税率を上げると賃金を上げて利益を圧縮するから賃金が上がる」というトンデモ意見や、内部留保に課税しろという二重課税の意見にまであるが、実際にやり玉に挙げられるトヨタを例に取り、トヨタの内部留保ってどうなってるのという精査をしてみた。
ちなみに賃金が上がらない云々は上場してる大企業ではなくてオーナーの中小零細ではあるでしょう。高齢者の社長が会社をたたんで自分の退職金代わりにするために貯めているケースね。上場企業は眠らせている現金などあったら株主総会でめちゃくちゃ叩かれます。
結論から言うと、トヨタなどの大企業を叩いてる人たちが思ってるものは、そこには一円も存在しない。あるのは別のものです。しかもその別のものが、たぶん想像の10倍くらい面白い。
使った数字は全部、トヨタが出した2026年3月期の決算短信・決算要旨・決算説明会資料、米国子会社がSEC(米国証券取引委員会)に提出した10-K、トヨタファイナンスの有価証券報告書、財務省の法人企業統計。一次資料しか使ってません。リンクは全部末尾に置いておきます。
まず用語から。ニュースで言う「内部留保」は、会計用語では利益剰余金のこと。過去に稼いだ利益から税金と配当を払って、残った分を積み上げた累計額です。
ここが最初のワナで、利益剰余金というのは貸借対照表の右側(負債・純資産の側)にある数字なんですね。「どこからカネが来たか」を記録している欄。一方、現金がいくらあるかは左側(資産の側)に書いてある。左と右は別物です。
言葉で言われても分からんと思うので、トヨタの本物の貸借対照表を実際の金額どおりの面積で描いてみました。これを見れば一発です。
図1 出典:トヨタ自動車「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」の連結財政状態計算書より作成。2026年3月31日現在。「その他の資本」は資本金・資本剰余金・その他の資本の構成要素・非支配持分から自己株式△4兆4,554億円を差し引いた純額。「有形固定資産」は減価償却累計額控除後の帳簿価額。左右の高さは必ず一致します。これが「バランス」シートと呼ばれる理由。左が105兆5,223億円なら右も105兆5,223億円。絶対にズレない。
で、「内部留保」と呼ばれているのは右側の黄色い帯です。左側にあるオレンジの帯(現金12.66兆円)とは、別の柱の、別の数字。
家計で言うなら、「これまでの手取りの合計から生活費を引いた残り」が右側で、それが今どういう形をしているか(預金か、家か、車か、株か)が左側。「資産の累計が3,000万円ある」と「今すぐ使える現金が3,000万円ある」は全然ちがう。家を買ってたら現金はゼロかもしれない。当たり前ですよね。
そして図1の左側をもう一度見てください。いちばん分厚い帯は現金じゃなくて「金融事業に係る債権」38.97兆円。他人に貸しているカネです。右側でいちばん分厚いのは有利子負債43.21兆円。借金。内部留保より借金のほうがデカい。この記事の後半は、ほぼこの2本の帯の話になります。
主な数字を並べるとこう。
図2 出典:トヨタ自動車「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」より作成。数値は連結ベース、2026年3月31日現在。賃貸用車両及び器具は取得原価。| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 利益剰余金(=いわゆる内部留保) | 38兆7,099億円 |
| 現金及び現金同等物 | 12兆6,596億円 |
| 有利子負債(借金) | 43兆2,055億円 |
| 金融事業に係る債権(顧客への貸付) | 38兆9,667億円 |
| 賃貸用車両及び器具(リース車両) | 9兆7,056億円 |
| 資産合計 | 105兆5,223億円 |
内部留保38.7兆円に対して現金12.7兆円。差の26兆円は、現金では存在していない。工場になり、開発費になり、子会社の株式になり、そして後で見るように「他人に貸したカネ」になっている。
そしてもうひとつ、たぶんこれが一番効く数字。トヨタの借金は43.2兆円あって、内部留保より多い。カネを溜め込んで動かしてない会社が、内部留保より多い借金を抱えてるわけがないんですよ。溜め込み論の人はここを絶対に言わない。というか、たぶん見てない。
ここで必ず出てくるのが「内部留保が現金じゃないのは分かった。でも現金12.7兆円って多すぎない?」という指摘。これはまっとうな疑問なので、真面目に精査します。
先に言っておくと、ある一面では「多い」が正しい。数字を出す前に結論を曲げるのは嫌なので、そこは認めます。ただし「多い=遊ばせてる」ではない。順に見ていきます。
図3 出典:トヨタ自動車「2026年3月期 決算短信」「同 決算説明会資料」、財務省「四半期別法人企業統計調査(令和8年1-3月期)」より作成。全産業平均は金融業・保険業を除く全産業の現金・預金÷月商。トヨタの2026年3月期の営業収益は50兆6,850億円。月商にすると4兆2,238億円です。手元現金12兆6,596億円は、割り算するとちょうど3.0ヶ月ぶん。理想とされる運転資金です。
売上ではなく実際に出ていくカネで測ると、売上原価39兆1,414億円+販管費4兆6,975億円で、月あたりの営業費用は3兆6,532億円。現金は3.5ヶ月ぶん。
で、日本企業の平均はどのくらいか。財務省の法人企業統計(2026年1-3月期、金融業・保険業を除く全産業)で、現金・預金279兆5,197億円、四半期売上高408兆6,614億円。月商あたりにすると2.05ヶ月ぶんです。
| 現金は月商の何ヶ月ぶんか | 倍率 |
|---|---|
| トヨタ(連結) | 3.00ヶ月 |
| トヨタ(金融セグメント保有分2.77兆円を除く) | 2.61ヶ月 |
| 日本の全産業平均(金融・保険を除く) | 2.05ヶ月 |
はい、平均より厚い。1ヶ月ぶんくらい多い。ここは正直に認めるべきところで、「トヨタの現金は普通の水準です」と言い張るのは無理です。だって優良企業だもんな。
ただし、この12.7兆円には金融セグメントが持っている現金2兆7,745億円が含まれている。これは40兆円のローンを回すための運転資金で、自動車事業が自由に使えるカネじゃない。除くと2.61ヶ月まで下がります。
社員の賃金、仕入先への支払い、工場の建設費です。実数で見てみましょう。
| 1年以内に出ていく主な支払い | 金額 |
|---|---|
| 営業債務及びその他の債務(=仕入先への未払い) | 5兆8,569億円 |
| 未払費用(賞与・給与の未払分などを含む) | 2兆1,126億円 |
| その他の流動負債 | 1兆7,350億円 |
| 設備投資(2026年3月期実績・年間) | 2兆3,906億円 |
| 配当総額(2026年3月期・年間) | 1兆1,784億円 |
| 合計 | 13兆2,735億円 |
ここに挙げたのはほんの一部です。それでも合計13兆2,735億円。手元現金12兆6,596億円を超えます。
しかもこれ、日々の材料費や人件費の本体はまるごと入ってません。トヨタは連結の人件費総額を開示していないので正確な数字は出せないんですが(ここは推測で書かないでおきます)、従業員は連結で39万241人。年間の営業費用43.8兆円の中に、この39万人分の給料が入っている。
つまり12.7兆円は「1年ぶんの支払いでほぼ消える」規模であって、金庫に積んで眺めてる金額ではない。
ここが決定打だと思います。
トヨタの有利子負債43兆2,055億円のうち、流動(=1年以内に返済期限が来る)分が17兆5,811億円。手元現金12兆6,596億円では0.72倍しかカバーできない。足りてないんですよ。
もちろん実務では借換えで回します。回りますが、それは「市場がいつも通り貸してくれる」という前提が成り立っているときだけ。2008年の秋、その前提が消えました。
トヨタは2009年3月期に売上高20兆5,295億円、営業損失4,610億円、当期純損失4,370億円という創業期以来の赤字を出しています(トヨタ自動車75年史)。理由は75年史にこう書いてある。「米国などで自動車ローンの審査が厳しくなったこともあり、新車市場は先進諸国を中心に急激に冷え込んでいった」。車が売れなくなったんじゃなくて、ローンが止まったから車が売れなくなった。金融事業を抱える会社の危機はこう来ます。
で、これは過去の話じゃありません。今期の決算要旨にこう書いてあります。
(トヨタ自動車「2026年3月期 決算要旨」)
1兆3,800億円。手元現金12.7兆円の10.9%が、政策変更ひとつで1年のうちに消えた。営業利益は4兆7,956億円から3兆7,662億円へ、1兆294億円の減益です。
それでもトヨタが平然としていられたのは、営業活動によるキャッシュ・フローが5兆4,729億円あったから。稼ぐ力と手元資金の両方で吸収した。ここで現金が2ヶ月ぶんしかなかったら、真っ先に切られるのは設備投資と、下請けへの支払いサイトと、賃上げです。
ついでに言うと、トヨタは会社側の見通しで2027年3月期の営業利益を3兆円(△20.3%)と置いています。減益前提。この局面で手元資金を吐き出せというのは、まあまあ乱暴な話でしょ。
現金12.7兆円は日本企業の平均より約1ヶ月ぶん厚い。これは事実。
ただし1年で出ていく支払いはそれを上回る。1年以内に返す借金17.6兆円には足りない。そして今期は関税だけで1.4兆円が消えている。
「多い」と「余ってる」は別の話です。
ここからが本題です。
トヨタ擁護側でよく言われるのが「トヨタの内部留保の現金はほとんど自動車ローンの残債だ」という説明。方向は合ってるんだけど、会計的にはこれも少しズレてます。実はわたしも最初そう思ってた。w
金融事業に係る債権39.0兆円というのは、資産(左側)。利益剰余金38.7兆円は純資産(右側)。金額がたまたま近いので「内部留保がローン債権になっている」と言いたくなるんだけど、左右は一対一で紐付いてません。
じゃあ39兆円の貸付金を出しているカネはどこから来てるのか。借金です。有利子負債43.2兆円。決算要旨の自動車/金融の区分財務諸表を見ると、このうち約40.9兆円、94.8%が金融事業側の調達。トヨタは社債と借入で40兆円を調達して、それを39兆円の自動車ローンとして客に貸している。
じゃあ内部留保は何をやってるのか。その40兆円を借りるための、元手(自己資本)です。
金融業というのは自己資本ゼロではカネを借りられません。銀行に自己資本比率規制があるのと同じで、ノンバンクも「自前の元手がいくらあるか」で調達コストと調達量が決まる。トヨタの金融セグメントの資産53.7兆円に対して、そこに置かれている自己資本はざっくり6〜7兆円規模。内部留保のうち6〜7兆円を金融子会社に突っ込んで、それを8倍前後にレバレッジして39兆円の債権にしている。これが正しい絵です。
この話をすると、だいたい「じゃあ内部留保は借金の担保に取られてるってこと?」と言われます。違います。ここ、すごく大事なので、住宅ローンで説明します。
あなたが4,000万円の家を買うとする。頭金1,000万円を入れて、3,000万円を銀行から借りる。このとき、
- 頭金1,000万円=自己資本(元手)。これがあるから銀行は3,000万円を貸してくれる。頭金ゼロだと貸してもらえないか、金利が高くなる
- 家に付く抵当権=担保。返せなくなったら家を取り上げられる、という約束
この2つ、まったく別物ですよね。頭金は担保じゃない。頭金は「これだけ自腹を切ってます」という信用の証明で、担保は「最悪これを差し押さえていい」という保険。
トヨタの内部留保は前者、つまり頭金のほうです。担保じゃない。
「いや、そうは言っても実際は担保取られてるんじゃないの?」と思う人もいるでしょう。それ、確認できます。米国子会社TMCCがSECに提出している10-Kに、担保の有無が全部書いてあるので。
図4 出典:Toyota Motor Credit Corporation, Form 10-K (fiscal year ended March 31, 2026) の Debt and Credit Facilities および Variable Interest Entities の注記より作成。金額は簿価ベース、億ドル単位に四捨五入。| TMCCの借入1,252億ドルの内訳 | 金額 | 構成比 | 平均金利 |
|---|---|---|---|
| 無担保(CP・社債など) | 891億ドル | 71% | 3.93% |
| 有担保(証券化) | 361億ドル | 29% | 4.44% |
7割は担保なしで借りている。そして担保に入っている資産も特定できていて、自動車ローン債権309億ドルとリース車両119億ドル。現金でも内部留保でもありません。借りたカネで作った債権を、そのまま次の借入の担保に回しているだけです。
で、この表でいちばん面白いのは金利のほうです。無担保3.93%に対して有担保4.44%。担保を出したほうが金利が高い。普通は逆でしょ。
なぜこうなるかというと、TMCCは信用力が高すぎて、担保なしで借りたほうが安く済むから。担保を付ける手間とコストのほうが、金利の下がり幅より大きいわけです。
そしてその信用力を作っているのが、親会社の自己資本=内部留保。つまり内部留保の仕事はこうです。
担保なしで40兆円を借りられる信用力を作っている。
頭金があるから、家に抵当権を付けなくても銀行が貸してくれる状態、と言えば分かりやすいでしょうか。まあ住宅ローンでそれをやってくれる銀行は無いんですけどww トヨタくらいの信用力があると、それが成立するんですよ。
内部留保に課税して吐き出させるというのは、この元手を削るということ。頭金を減らせと言っているのと同じです。元手が減れば格付けが下がり、無担保で借りられる割合が下がり、40兆円の調達コストが上がる。そのコストは自動車ローンの金利に転嫁される。つまり負担するのは車を買った人。トヨタの株主でも役員でもなく。
で、精査してみて一番びっくりしたのがここ。
図5 出典:トヨタ自動車「2026年3月期 決算短信」「同 決算要旨」より作成。金融セグメント資産は決算要旨のセグメント情報、有利子負債の内訳は自動車等/金融の区分財政状態計算書ベース。| セグメント資産(2026年3月期末) | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 自動車 | 33兆1,824億円 | — |
| 金融 | 53兆7,417億円 | 総資産の50.9% |
| その他 | 4兆0,661億円 | — |
金融セグメントの資産が53.7兆円。総資産105.5兆円の50.9%。自動車セグメントの33.2兆円より、金融のほうが20兆円も大きい。
どのくらいの規模かというと、日本の地銀最大手の総資産をぶっちぎりで超えて、りそなホールディングスあたりの銀行に匹敵します。「トヨタ銀行」があったら、日本で5本の指に入る。
図1の面積で見たとおり、単体の科目でいちばんデカいのが金融事業に係る債権38兆9,667億円。ここにさらにリース車両(賃貸用車両及び器具、取得原価9兆7,056億円)が乗ります。トヨタの資産の半分は、鉄でもラインでもなく「金銭債権と、他人に貸してる車」です。
※リース車両については、決算短信の減価償却累計額が他の有形固定資産と合算表示されているため、この9.7兆円は取得原価であって帳簿価額ではありません。純額を出せる数字が開示されていないので、ここは取得原価と明記して置いておきます。
図6 出典:トヨタ自動車「2026年3月期 決算要旨」セグメント情報、および「2026年3月期 決算説明会資料」より作成。| 営業利益 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | 3兆9,403億円 | 2兆7,770億円 | △1兆1,633億円 |
| 金融 | 6,835億円 | 8,517億円 | +1,682億円 |
| その他 | 1,812億円 | 1,321億円 | △491億円 |
| 連結 | 4兆7,956億円 | 3兆7,662億円 | △1兆0,294億円 |
連結営業利益3兆7,662億円のうち、金融が8,517億円。比率にして22.6%。自動車が1兆1,633億円も減益するなか、金融だけが増益しています。
ただしここ、ちゃんと読まないとダメなところ。トヨタ自身が決算要旨でこう書いてます。「営業利益の増益は、米国の販売金融子会社において、金利スワップ取引の評価益が増加したことなどによるもの」。
金利スワップの評価益というのは、要するに持ってるデリバティブを時価で計算し直したら含み益が出ました、という帳簿上の数字。現金は一円も入ってきてません。決算説明会資料には、この評価損益を除いた「実力ベース」の金融営業利益も出ていて、6,737億円 → 7,098億円。実力の増益は+361億円だけです。1,682億円の増益のうち、実に1,400億円前後が時価評価。
実力ベースで見ると金融の利益貢献は18.8%まで下がる。それでも5分の1近くを金融が稼いでいるという事実は変わらないんですけどね。
トヨタの金融事業の主戦場はアメリカです。米国子会社のトヨタ モーター クレジット(TMCC)はSECに10-Kを提出しているので、中身が全部見えます。2026年3月期の数字がこれ。
図7 出典:Toyota Motor Credit Corporation, Form 10-K (fiscal year ended March 31, 2026), SEC EDGAR より作成。単位:百万ドル。| TMCC(2026年3月期) | 金額(百万ドル) | 円換算(151円/ドル) |
|---|---|---|
| 総資産 | 154,676 | 約23.4兆円 |
| 金融債権(純額) | 101,005 | 約15.3兆円 |
| オペレーティングリース資産 | 31,205 | 約4.7兆円 |
| 借入(Debt) | 125,200 | 約18.9兆円 |
| 自己資本 | 17,846 | 約2.7兆円 |
| 金融収益 | 13,514 | 約2.0兆円 |
| うち支払利息 | △5,483 | 約△0.8兆円 |
| 当期純利益 | 2,311 | 約3,490億円 |
この数字から比率を出すと、こうなります。
| 指標 | TMCC | 意味 |
|---|---|---|
| レバレッジ(総資産÷自己資本) | 8.67倍 | 自己資本の8.7倍まで借りて回している |
| ROE(自己資本利益率) | 12.95% | 日本のメガバンクより高い |
| ネット金融マージン | 2.85% | 銀行でいう「利ざや」 |
| ローンの実効金利利回り | 6.92% | 米国のオートローン金利水準 |
レバレッジ8.7倍、ROE13%、利ざや2.85%。この3つの数字だけ見せられて「これ何の会社?」と聞かれたら、100人中100人が「銀行かノンバンク」と答えます。トヨタと答える人はいない。
そしてTMCCの純利益3,490億円は、トヨタの金融セグメント当期利益6,253億円の約56%。トヨタの金融業の半分以上はアメリカで回っているということ。TMCCの総資産23.4兆円は、トヨタの金融セグメント資産53.7兆円の約44%にあたります。
ついでに言うと、連結の損益計算書には「金融事業に係る金融収益 4兆8,190億円」という行がそのまま載ってます。トヨタが1年で受け取る利息とリース料の合計です。金融債権の平均残高(期首33.6兆円・期末39.0兆円)に対して13.3%という計算になりますが、この金融収益にはリース料の総額(減価償却前)が含まれているので、貸出金利そのものではないことは付け加えておきます。実際の貸出金利を知りたければ、次に見るTMCCの数字のほうが正確です。
日本側も見ておきましょう。国内の器はトヨタファイナンス株式会社。2026年3月期の有価証券報告書がこれ。
| トヨタファイナンス(2026年3月期) | 金額 |
|---|---|
| 営業収益 | 3,041億円 |
| 経常利益 | 437億円 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 345億円 |
| 総資産 | 5兆0,043億円(前期末比+29.8%) |
| 割賦売掛金 | 2兆6,164億円 |
| 取扱高(合計) | 9兆9,017億円 |
| うち個別信用購入あっせん(=オートローン・残クレ) | 1兆6,735億円 |
| うち包括信用購入あっせん(=TS CUBIC CARD等) | 7兆0,836億円 |
残クレの普及率について、公的な統計はほぼ無いんですが、確認できた一次情報が2つ。
ひとつは日本自動車工業会の「2025年度乗用車市場動向調査」(2025年9月調査、n=8,926)。新車の購入方法は「現金一括」が最多で、「一般のローン/クレジット」と「残価設定・据置型ローン/クレジット」がともに1割台半ば。JAMAは正確な%を本文に出していないので、ここは文言のまま書いておきます。
もうひとつはトヨタファイナンス自身の統計。2023年1〜12月の契約分で、20〜40代のクレジット利用者のうち残価設定型を選んだ人が75%以上。年収別では〜300万円が78.3%、300〜600万円が78.1%、600万円〜が71.8%。年収が低いほど残クレを選んでいるのがはっきり出てます。まあ、そりゃそうですよね。月々の支払いが下がるんだから。
ここからは私の試算ですが、個別信用購入あっせんの取扱高1兆6,735億円に残クレ比率6〜8割を当てると、国内の残クレ実行額は年1.0〜1.3兆円規模。トヨタは残クレ単体の利益を開示していないので、これ以上は詰められません。
ただしトヨタファイナンスの純利益は345億円。トヨタ連結営業利益3.7兆円に対して1%未満です。国内の残クレそれ自体は、金利で儲けるための商品じゃない。効いてるのは別のところ。
- 買い替えサイクルが確定する。3〜5年後に残価精算で必ず店に戻ってくる。次の新車が売れる
- 認定中古車の仕入れが確保できる。戻ってきた車がそのまま中古車事業の在庫になる
- 残価リスクを自社で抱える。トヨタファイナンスの有報にも「『残価型クレジット』及びリース商品における契約終了時の車両の残存価額(残価)は、中古車市場の価格変動の影響を受ける」と明記されてます
3つ目、地味に怖いところです。米国のリース車両(賃貸用車両及び器具)は1年で8兆0,519億円 → 9兆7,056億円、+20.5%に膨らんでいる。中古車価格が崩れたら、ここが減損の震源になる。金融の利益率が高いのは、このリスクを自分で抱えている対価でもあるわけです。
さて、冒頭の話に戻ります。
「法人税率を上げれば、税金で持っていかれるくらいなら賃上げに回すから賃金が上がる」という主張。実はこの理屈、まったくのゼロではありません。人件費は損金なので、税率が高いほど賃上げ1円あたりの税引後コストは下がる。理論としては成立する部分がある。ここは正直に書いておきます。
でも実務でそうならない理由が3つ。
1. 法人税は利益への課税なので、赤字企業には一切効かない。賃金が上がってほしいのは中小企業で働く人たちですが、日本の法人の6割前後は赤字法人です。税率をいくら上げても、彼らの給料には1円も届かない。
2. 賃上げは不可逆で、税率は可逆。一度上げた給料は下げられません。税率は政権が変われば戻る。「今年の税率が高いから今年だけ賃上げ」という判断を、まともな経営者はしない。やるなら賞与か一時金です。実際わたしが経営者として判断するならそうします。
3. そしてトヨタの場合、利益の2割は金融が稼いでいる。ここまで見てきたとおり。金融事業の利益に法人税を課しても、それが日本の工場の賃金に回る経路は無いんですよ。TMCCは米国法人で、米国で納税してます。
内部留保課税は、法人税を払った後の残りにもう一回課税するので二重課税だ、という批判はそのとおり。ただ「二重課税だからダメ」だけだと反論としては弱い。配当も二重課税だし、酒税と消費税も二重です。
もっと具体的な話をします。
まず事実として、日本にはすでに内部留保課税がある。法人税法の「特定同族会社の留保金課税」で、資本金1億円超かつ株主1グループで50%超を握っている会社が溜め込むと、課税されます。オーナー社長が会社にカネを貯めて所得税を回避するのを防ぐ制度。逆に言うと、制度設計として「株主が分散している普通の大企業」は対象外にしてある。トヨタは同族会社じゃないので当然かかりません。これは抜け穴じゃなくて、そういう趣旨の制度です。
その上でトヨタに内部留保課税をやるとどうなるか。図5をもう一回見てください。内部留保が変形したものの半分は、金融事業の元手です。
元手を削れば格付けが落ちる。格付けが落ちれば40兆円の調達金利が上がる。金利が上がれば、それは自動車ローンの金利に乗る。払うのは残クレで車を買った20代・30代。しかも上で見たとおり、残クレを選んでるのは年収300万円以下の層が一番多い。
格差を是正するはずの政策で、いちばん所得の低い人のローン金利が上がる。これ、政策としてはただの事故でしょ。
ちなみに日本全体の利益剰余金は、財務省の法人企業統計で672兆円(2026年1-3月期、金融業・保険業を除く全産業)。この数字を見て「672兆円が眠ってる」と言う人が必ず出てきますが、ここまで読んだあなたはもう分かってますよね。それは金庫の中身じゃなくて、右側の数字です。
| 見る角度 | 金融事業の比重 |
|---|---|
| 総資産 | 50.9% |
| 金融事業に係る債権/総資産(単体科目で最大) | 36.9% |
| 営業利益 | 22.6%(スワップ評価益を除くと18.8%) |
| 有利子負債 | 94.8%が金融事業の調達 |
| 営業収益(売上) | 9.6% |
売上で見ると1割弱でしかないので、「トヨタは実質金融業」と言い切るのはさすがに言い過ぎ。でもバランスシートの半分は金融、利益の2割は金融、借金のほぼ全部は金融のため。これが精査した結果です。
内部留保を叩くのは自由だし、「株主還元が多すぎる」「もっと賃上げしろ」という主張自体はあっていい。わたしも国内の賃金水準は上がるべきだと思ってます。ただ、叩く対象の中身くらいは開けてから叩いたほうがいい。開けたら中から出てきたのは、現金の山じゃなくて、40兆円の借金と39兆円の貸付金と、アメリカ人が乗ってる車のローン残高でした。
「内部留保に課税しろ」と言っている政党の皆さん、これ、りそな銀行の自己資本に課税しろと言ってるのとほぼ同じことなんですけど、分かってて言ってます?ww
本記事の数値はすべて一次資料で確認済みです。ただし2点だけ留保があります。
(1)金融セグメント単体の有利子負債40.9兆円は、決算要旨の自動車等/金融の区分財政状態計算書からの読み取り値です。
(2)JAMAは残価設定型クレジットの比率を「1割台半ば」という文言でしか示しておらず、正確な%は非公表。国内の残クレ実行額1.0〜1.3兆円および金融セグメントの自己資本6〜7兆円は筆者の試算であり、トヨタの開示値ではありません。
(3)賃貸用車両及び器具9兆7,056億円は取得原価です。決算短信では減価償却累計額が他の有形固定資産と合算表示されているため、リース車両単体の帳簿価額は算出できません。
(4)トヨタは連結の人件費総額を開示していないため、本記事では人件費の金額を推定せず、未払費用と営業費用の実数のみを使っています。現金の月商倍率、1年で出ていく支払いの合計は、開示された実数から筆者が計算したものです。
・トヨタ自動車「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
・トヨタ自動車「2026年3月期 決算要旨」https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_summary_jp.pdf
・トヨタ自動車「2026年3月期 決算説明会資料」https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf
・Toyota Motor Credit Corporation, Form 10-K (FY ended March 31, 2026)/Debt and Credit Facilities・Variable Interest Entities 注記, SEC EDGAR https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/834071/000119312526252796/
・トヨタファイナンス株式会社「第38期 有価証券報告書」https://www.toyota-finance.co.jp/ir/financial/annual_security_report.html
・日本自動車工業会「2025年度乗用車市場動向調査」https://www.jama.or.jp/release/news_release/2026/3582/
・トヨタファイナンス「20〜40代は実際どうしてる?みんなが選んだ支払プラン」https://tscubic.com/lp/car-credit/zankajisseki/
・財務省「四半期別法人企業統計調査(令和8年1-3月期)」https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/data.htm
・トヨタ自動車75年史「赤字決算」https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/
・国税庁「特定同族会社の特別税率」/法人税申告書の手引き
いやあ、トヨタって本当に凄いんですよ。悪口いう前に本くらい読めっての
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年8月27日の記事より転載させていただきました。







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