チームみらいのAI予想は誤り:ガソリン補助金で物価は0.1%上がる

きのうチームみらいの安野党首が首相官邸を訪れ、「政府の物価高対策にどれぐらい効果があるかを試算するツール」を題材に、AIを活用したシミュレーターを作成した。これをチャッピーに評価してもらった:


TBS

「2600円得した」は政策効果ではない

政府はガソリン価格を全国平均170円程度に抑え、暫定税率廃止と合わせて4月のCPIを約1.1ポイント押し下げ、1世帯当たり約2600円の負担を軽減したと説明している。このシミュレーターが計算しているのは、それを掛け算しているにすぎない。

これは世帯人数や使用量を掛け算すれば済む話であり、AIで高度なアプリを作る必要もない。AIを政策立案に使うのであれば、本当に計算すべきなのはその先だろう。

ガソリン補助を1兆円増やしたら、消費はどれだけ増えるのか。GDPはどうなるのか。原油輸入はいくら増えるのか。財政赤字、為替、CPI、実質賃金にはどう跳ね返るのか。そして補助金をやめたときには何が起こるのか。

内閣府には、それを分析するためのマクロ計量モデルまで存在する。AIで「物価高対策シミュレーター」を作るなら、こちらをやるべきだ。2600円は、政策効果ではないのだ。

「物価高対策」は店頭で払う代わりに税金で払うだけ

それを試算してみよう。補助金は天から降ってきたお金ではない。ガソリンが本来200円で、消費者が170円払い、残り30円を政府が補助したなら、

消費者170円+政府30円=200円

である。家計から見れば30円安くなっているが、日本経済全体で見れば支払者が「家計」から「政府」に変わり、店頭で払う代わりに税金で払うだけだ。

実際、4月にはガソリンなどの補助だけで約3100億円もの税金が使われた。8月27日以降もガソリンへの支給単価は1リットル32.5円である。この政府負担を無視して「家計がこれだけ得した」と表示するのは、政策評価として片手落ちである。

物価が下がったように見えるのは錯覚

補助金によって店頭で消費者の払う価格は下がるが、政策を評価するには社会全体の効果を見る必要がある。「社会的負担価格」を消費者の支払額+政府の補助額と定義すれば、補助金は価格を消したのではなく、政府に付け替えただけだと分かる。

さらに補助によって消費者価格を低くすれば、ガソリンの需要は補助がない場合より増える。通常の需要・供給モデルでは、補助金は取引量を増やし、供給者の受取価格にも上昇圧力をかける。

補助金がインフレ圧力になる

さらに重要なのがマクロ経済である。政府が補助金を出せば家計の可処分所得が温存される。ガソリン代で浮いたお金は外食や旅行、耐久消費財など別の支出に回る。総需要が増えれば、当然ながら物価には上昇圧力がかかる。

内閣府の2026年度版「経済財政モデル」でも、実質政府支出をGDP比1%増やすケースでは、1年目の実質GDPを1.08%押し上げる一方、消費者物価も0.15%上昇するとの乗数が示されている。

ガソリン補助は政府支出と同じ乗数で計算できないが、財政支出によって需要を維持すれば、その一部が物価上昇として戻ってくるという経路を無視してはいけない。しかもガソリンの場合、価格を低く抑えるほど消費量が増え、原油輸入も増えやすい。

ガソリン補助金で物価はいくら上がるか

ガソリン補助金を年間3.7兆円、名目GDPを690兆円とすると、補助金の規模はGDP比で約0.54%になる。ここで、補助金によって家計に浮いたお金の50%が新たな国内消費に回ると仮定すると、

0.54%×50%=GDP比0.27%

の需要増になる。さらに、GDP比1%の需要増が物価を0.3%押し上げると仮定すると、

0.27×0.3=0.081%

となる。つまり単純計算では、ガソリン補助金は基調的な物価を約0.08%、丸めれば0.1%程度押し上げることになる。さらに、ガソリン価格を人為的に安くすれば消費量も減りにくくなる。原油輸入が増えれば、貿易収支の悪化や円安を通じて輸入物価を押し上げる効果もある。

CPIを一時的に下げることと、インフレを抑えることは同じではない。政府は、税金を使ってガソリンの店頭価格を下げることで、その裏側で新たなインフレ圧力をつくっているのだ。

 

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コメント

  1. yuzo.seo より:

    ここでの池田氏の批判はごもっともです。AIなら何でもできる、などと素人をたぶらかすのはやめなければいけません。
     
    そこまでは同意できるのですが、数値を重視する学者の考えかたと、国民生活を重視する政治家の考え方に違いがみられる点は、大変興味深いエントリーだと思います。
     
    そもそも、ガソリンなどの燃料費価格を抑制する意味は、それが輸送費や製造コストを経由して、広範な物価にかかわるからであったはずです。これは、物価指数を構成するそれぞれの製品に占める輸送コスト(の内の燃料費)を積算して物価高を抑制する効果を見積もらなくてはいけない。これは、出発点からして、「世帯人数や使用量を掛け算すれば済む話」とは相当に隔たった話です。
     
    また、池田氏の主張されるように、物価が低下すれば消費が増え、その結果物価を上げる方向に作用する。これは確かなのですが、物価の低下をキャンセルするほど物価が上がるということは考えにくく(そんなことをしたら、消費が低迷して物価が下がってしまいますから)、多少の物価上昇抑制効果はあるはずなのですね。
     
    でも、さらに次の効果が生じます。つまり、消費が増えて、生産者の取り分が増加したら、供給を増やそうという動きが出る。これは、設備投資を増加する方向に作用するのですね。これを普通の言葉でいえば、「景気が良くなる」ということですね。
     
    景気が良くなるということは、一国の経済にとって、大変好ましいことであるし、国民一人一人にとっても幸福なことです。ただし、物価は上昇する。だから、物価上昇率を唯一の評価基準として政策の良否を判断するなら、「景気をよくするなんてとんでもない」、ということになるのですが、これは本末転倒。目的と手段を取り違えております。つまり、物価を抑制しなくてはいけないのは、国民生活改善のためなのですから、これを改善する好景気が訪れるなら、多少の物価上昇は受け入れられるのですね。
     
    確かに、総理の語っていることはインフレ抑制なのですが、その言葉の裏にあるものは、国民生活の改善であって、物価上昇率だけを見ればよいというものではない。ここは、細かな数字それ自体にとらわれるのではなく、これを含めた全体的な評価をすべきではないかと思います。
     
    病気は治ったけど、患者は死んだ、みたいなブラックジョークは、現実世界では、演じてもらいたくないのですね。