美容クリニック倒産急増の意味:「直美」急増で「レッドオーシャン」に

高須クリニックの高須幹弥氏が、自身のYouTubeチャンネルで「今、美容クリニックの赤字・倒産が急増している件について解説します」と題する動画を公開しました。

そこで語られているのは、美容医療業界の景気のいい話ではありません。むしろ、ここ数年急拡大してきた美容クリニック市場が、いよいよ供給過剰の段階に入ったという現実です。

美容医療も「レッドオーシャン」に

美容医療の需要自体は増えています。ところが、それ以上の勢いでクリニックが増え、医師も流入しました。

脱毛、二重整形、注入系施術など、比較的標準化しやすいサービスでは価格競争が起きます。駅前の一等地に高い家賃を払い、大量のネット広告を出し、高額な医療機器を導入し、さらに医師を高給で雇います。

売上が伸びても、それ以上にコストが膨らめば利益は残りません。

かつては「美容医療に行けば儲かる」と言われました。しかし市場経済はそんなに甘くありません。儲かる業界には参入者が殺到し、最終的には利益が消えていきます。美容医療でも当たり前のことが起き始めたにすぎません。

「直美なら年収2000万円」の誘惑

その象徴が「直美」です。医学部卒業後、2年間の初期臨床研修を終えると、内科、外科、形成外科などの専門研修に進まず、そのまま美容医療へ就職する若手医師をこう呼びます。

背景には明確な経済合理性があります。病院勤務なら、夜勤、当直、救急対応があります。責任は重く、勤務時間も長くなります。一方、美容クリニックでは若手にも年収2000万円前後、場合によってはそれ以上を提示する求人がありました。

これなら美容医療を選ぶ若者が出てくるのは不思議ではありません。「医師なら患者の命を救うことを最優先にすべきだ」と精神論を唱えても、人はインセンティブで動きます。

「楽して高給」の椅子は増え続けない

問題は、その高給を誰が払っているのかです。

当然、患者です。

美容医療は自由診療なので価格を自由に設定できます。しかし競争が激しくなれば値下げせざるを得ません。一方で医師には高給を払い、広告費も負担しなければなりません。当然、経営は苦しくなります。

これまで「直美」を大量採用できたのは、美容医療市場が急成長し、患者が増え続けることを前提にしたビジネスモデルだったからです。しかしクリニックが患者以上に増えれば、その前提は崩れます。

その結果として、不採算院の閉鎖や美容クリニックの倒産が表面化しています。直美の増加が美容医療の供給をさらに増やし、その供給増が今度は直美の高給を維持できなくします。当たり前の市場調整が始まったともいえます。

問われる保険診療

とはいえ、「ざまあみろ、直美」と笑って終わる話でもありません。若い医師が美容医療へ流れる最大の理由は、保険診療との待遇差にあります。

救急、外科、産婦人科など、社会にとって不可欠な診療科ほど激務になりやすいです。しかし保険診療の価格は国が決めるため、病院側は自由に料金を上げられません。

一方、美容医療は自由診療ですから、患者が払う限り高い報酬を医師に提示できます。

つまり日本の医療制度は、「命を救う仕事より美容医療の方が経済的に魅力的」という価格シグナルを若手医師に送ってきたのです。そして今、その美容医療まで供給過剰になっています。

「直美なら楽して稼げる」という時代は終わりつつあります。しかし若手医師を病院に戻したいのであれば、説得ではなく、救急や外科など必要な医療にきちんと報酬が流れる仕組みをつくらなければなりません。

ただし、後期高齢者の窓口負担の低さから無尽蔵に増え続ける医療費に、現役世代は押しつぶされそうになっているという現実からも、目を背けてはいけませんし、こちらが医療問題の本丸と言えるでしょう。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント