売上100億円でも潰れる:ミコトマシナリーが示す「価格決定権」の重要性

栃木県足利市の自動車部品メーカー、ミコトマシナリーが特別清算開始決定を受けた。同社はSUBARUとの直接取引を持ち、2018年3月期には売上高約100億円を計上していた。一般的な感覚では「優良企業」と見られてもおかしくない規模である。しかし現実には、売上高100億円企業であっても生き残れなかった。

私はこの事例に、日本の製造業が抱える本質的な問題が表れていると思う。それは売上高の問題ではない。価格決定権の問題である。

売上高は企業の強さを示さない

日本では企業を評価する際に売上高が重視される。年商10億円企業。年商100億円企業。年商1000億円企業。新聞記事や企業紹介でも頻繁に使われる指標である。しかし、売上高だけでは企業の競争力は分からない。

売上100億円でも利益率1%の企業と、売上20億円でも利益率20%の企業では、後者の方がはるかに強い。なぜなら、企業を生き残らせるのは売上ではなく利益だからである。ミコトマシナリーのケースを見ると、そのことがよく分かる。

大企業との直接取引でも安心できない

記事によれば、ミコトマシナリーはSUBARUとの直接取引をしていた。一見すると理想的な取引関係に見える。

しかし同時に、「恒常的なコストダウン要請を受けていた」とも報じられている。ここに問題の本質がある。

価格を決めていたのはミコトマシナリーではない。完成車メーカーであるSUBARU側だったのである。もちろん、自動車産業では珍しい話ではない。むしろ一般的である。毎年のようにコストダウンを求められ、生産性向上や原価低減によって対応する。

しかし人口減少が進み、人件費やエネルギー価格が上昇する時代において、このモデルは限界を迎えつつある。

ファナックはなぜ強いのか

私は前回、ファナックについての記事を書いた。

私が現場で知ったファナックのすごさ:なぜ高くても選ばれるのか
ファナックは山梨県忍野村に本社を置く企業である。工作機械用NC装置、サーボモーター、産業用ロボットの分野で世界トップクラスの地位を持ち、世界の製造業を支えている。NC装置では世界トップクラスのシェアを持ち、その技術は世界中の工作機械メーカー...

私は、副社長をしていた機械部品加工会社で、ファナックのNC装置が搭載されたマシニングセンタも、他社製NC装置が搭載されたマシニングセンタも使った経験がある。

現場の評価は明確だった。高くてもファナックが良い。なぜなら安心できるからである。

狙った位置に正確に動く。操作に慣れている。トラブル対応も容易である。結果として現場はファナックを選ぶ。

つまりファナックは、「安いから売れる」会社ではない。「高くても選ばれる」会社なのである。ここに価格決定権がある。

ロレックスとミコトマシナリーの違い

私は、ロレックスについても記事に書いた。ロレックスは生産量を増やして成長した会社ではない。むしろ希少性を維持しながら売上を伸ばしてきた。

ロレックスはなぜ100年以上勝ち続けているのか
ロレックスを知らない人はほとんどいない。しかし、ロレックスがなぜ世界屈指の時計ブランドになったのかを説明できる人は意外に少ない。多くの人は、「高級時計だから」「ブランド力があるから」と答えるだろう。だが、それは結果であって原因ではない。ロレ...

顧客はロレックスの価格を見て購入するのではない。ロレックスだから購入するのである。価格決定権はロレックス側にある。

一方でミコトマシナリーはどうだったか。

もちろん同社には優れた技術があったはずである。だからこそSUBARUとの直接取引ができた。しかし最終的には価格決定権を持てなかった。その違いが企業の運命を分けたのである。

本当に必要なのは100億円企業ではない

自民党は、愚かなことに「地域に根付く10億円企業」の創出を提唱している。しかし私は全く違う見方をしている。本当に必要なのは10億円企業でも100億円企業でもない。価格決定権を持つ企業である。

価格決定権を持たない100億円企業は苦しい。価格決定権を持つ20億円企業は強い。重要なのは売上高ではなく、誰が価格を決めているかなのである。

人口減少時代の企業経営

人口減少社会では、人材はますます希少になる。賃金は上昇する。原材料費も上がる。

そうした中で、「今年は5%値下げしてください」という要求に応じ続ける企業が、長期的に生き残ることは難しい。

私はこれからの日本に必要なのは、売上高を追う企業ではなく、価格決定権を持つ企業だと思う。

町村農場。ファナック。オーデマ・ピゲ。獺祭。マルマエ。

業界は違う。しかし、共通点がある。顧客が価格ではなく価値で選んでいることである。

ミコトマシナリーの事例は、その逆を示している。売上高100億円でも安心できない。価格決定権を持たなければ、企業は存続できない。

人口減少時代の日本企業が本当に考えるべきなのは、売上高の拡大ではない。

価格決定権をどう獲得するかなのである。

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