旅好きのロシア人の最新旅行事情

ウィーン市1区の観光エリアを歩いていると、イタリアの観光グループが賑やかに談笑しながら歩いている。ドイツ人グループも必ず見つかる。彼らはイタリア人旅行者とは違い、ガイドブックを手に次の観光地に向かって急ぎ足で歩いている。アジアからは日本人旅行者もいるが、最大の観光グループは久しく中国人旅行者だ。

新型コロナウイルスのパンデミック後、欧州の観光事情は変わったが、国別にみると、ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ロシア人の観光客が激減した。ロシア人もドイツ人に負けないほど旅行好きな国民だ。ウィーン1区に日本レストラン「天満屋」があった時、ロシア人の客も多かった。日本人女性のウェイトレスもロシア人の旺盛な食欲には驚かされた、という話を聞いたことがある。チップも米国人ゲストほどではないが、日本人客より数段気前が良かったという。

ロシアがウクライナに軍侵攻する前の2019年、約400万人のロシア人がシェンゲン圏で観光ビザの発給を受けているが、2025年にはその数は約62万人と急減した。ビザの発給代も35ユーロから80ユーロに急騰し、発給まで時間が長くなり、審査も厳しくなった。ロシア軍に正式に従事していた元兵士には基本的にビザは発給されない、といった具合だ。

モスクワから欧州の観光地への直行便はなく、ポーランドやバルト3国、フィンランドはロシア人へのビザ発給を停止している。ドイツの場合、昨年2万件のビザが発給されただけだ。フランス、イタリア、スペインの欧州の観光国には12万件から15万件の観光ビザが依然発給されている。ただし、モスクワから直行便がないため、イスタンブール(トルコ)やドバイ(UAE)を経由する複雑な乗り継ぎが必要となり、旅費が高騰しているため一部の富裕層に限られた話だ。

シェンゲン圏は、加盟国間で国境検査なしに自由な移動ができる。ヨーロッパの領域で現在、欧州連合(EU)の25カ国、ノルウェー、スイスなど合わせて29カ国。圏内の移動では原則として国境検査がない。

ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア国民の海外旅行先は、欧米による航空路線の閉鎖や金融制裁(クレジットカードの利用停止)、ビザ発給制限の影響を受け、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、そして東南アジア諸国へ集中している。

その一方、国外旅行が難しくなったこと、治安上の理由からウクライナに近いクリミア半島への旅行キャンセルが増えたことなどもあって、ロシア国内の旅行(ソチなどの黒海沿岸、モスクワ、サンクトペテルブルク、シベリアのイルクーツクなど)が活発になっている。

ちょっと変わった旅先としては、北朝鮮がある。北朝鮮の金正恩総書記が2024年6月、ロシアのプーチン大統領と会談し、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12,000人の兵士をロシア軍支援のためウクライナに派遣するなど、露朝両国は軍事同盟の関係を深めていることもあって、ロシア国民の北朝鮮への関心も高まってきた。

ドイツ民間ニュース専門局ntvが報じていたが、ウインターシーズンにはロシアから多くのスキー客が北朝鮮を訪問したという。ロシア軍のウクライナ侵攻の結果、オリガルヒ(新興財閥)だけではなく、一般のロシア国民も外国旅行が難しくなってきた。そこで未開地の北朝鮮観光が脚光を浴びてきた、というわけだ。それもクレムリン直々の推薦付きだ。クレムリンにとっては、外国旅行が制限されて不満が溜まっている国民に未開地の北朝鮮旅行を推薦することで一種のガス抜きの効果が期待できるわけだ。

問題は、未踏の観光地の北朝鮮を訪問した旅行者が満足しているかだ。残念ながら、多くの旅行者は「すごく良かった」とか「ぜひ機会があればもう一度行きたい」といったものはなく、ロシア人旅行者の場合、「共産党政権時代の統制された社会の悪夢が蘇った」といった類が多い。ウィンターシーズンはまだいいとして、夏季休暇を利用して北朝鮮へ旅行したいと考えるロシア人は余り多くはない(「ロシア人旅行者を失望させた『北観光』」2024年6月27日参考)。

ロシア人旅行者を失望させた「北観光」
ロシアのプーチン大統領は19日、24年ぶりに訪朝し、金正恩総書記と10時間に及ぶ集中会談を行い、全23条から成る「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結したばかりだ。「露朝新条約」の第12条には「両国は、農業、教育、健康、体育、文化、観光な...

中国武漢発の新型コロナウイルスのパンデミックは世界の観光事情を激変させた。ロシアの場合、そのうえウクライナへ侵攻して以来、欧米諸国の厳しい制裁下で国民経済は青息吐息の状況だ。ロシア国民が夏季休暇のために訪問したい西側諸国への観光はもはや困難となってきた。

ロシアのプーチン大統領はオランダのハーグの国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪人として逮捕状が出ているから、出国もままならない。ロシア国民もそのプーチン氏が進めるウクライナ戦争の影響もあって、観光を享受する喜びから遠ざけられているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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