ヴァンスのAI観はなぜ変わったのか:AI推進派が引き始めた『一線』

2026年9月10日、ダラスで開かれた共和党の中間選挙向け党大会で、JD・ヴァンス副大統領が二日目の基調演説に立った。41分の演説で語られたのは、核家族と伝統的結婚の擁護、生まれたばかりの四男への思い、そして昨年のこの日に暗殺されたチャーリー・カークへの追想だった。

演説の終盤、ヴァンスはまだ投票先を決めていない有権者に直接語りかけた。政策の一つや二つで我々と意見が違うからといって、この国を過激な人たちに渡さないでほしい、自分はすべての政策に賛成してくれと頼んでいるのではない、相手との違いとこの18か月の実績を見てほしい——。つまり彼は、党大会という身内の場を使って、共和党支持層ではなく無党派層に向けて話した。2028年の大統領選をにらんだ「後継者」としての立ち位置を固める演説だったと受け止められている。

だが私が注目しているのは、この演説そのものではない。ヴァンスがこの1年半、AIについて語ってきた内容が明らかに変化していることである。

出発点は2025年2月のパリAI Action Summitだ。彼は冒頭で、自分はAIの安全性ではなく、AIの機会について話しに来たのだと述べた。過剰な規制は離陸しかけた産業を殺しかねないとして、欧州型の予防原則的な規制を正面から否定した。当時のヴァンスは、明快な加速派だった。これは私が客員教授をするミュンヘン工科大学AI倫理研究所でも大きな話題を呼んでいた。

ところが2026年に入ってトーンが変わる。4月、彼はベッセント財務長官とともに主要テック企業のCEOを集め、最新のAIモデルがサイバーセキュリティに何をもたらすのかについて説明を求めた。5月には、AIの戦争利用への懸念を口にし、軍に対してこの技術の扱いに慎重であるよう促した。その際、彼はレオ14世がAIの野放図な進展に警告した文書に触れている。

さらに9月初め、ポッドキャストに出演したヴァンスは、AI業界の一部に「really, really weird spiritual dark energy」、本当に奇妙な、霊的に暗いエネルギーを感じると語った。引退させるAIモデルのために社員が葬儀を行うという話を挙げ、強い違和感を口にしている。AIに夫婦間の悩みを相談する風潮についても、人間同士の応答が失われるとして、ある種、悪魔的だとまで述べた。データセンター建設とAI規制緩和を押し進める政権の姿勢とは、明らかに異なる響きである。

これは転向だろうか。私はそうは思わない。

産業としてのAIについて、彼は依然として規制緩和の側に立っている。変わったのは、AIが安全保障と人間の意思決定に触れる領域について、線を引き始めたことである。つまりヴァンスは、産業政策としてのAIと、統治と安全保障の対象としてのAIを、分けはじめた。

日本から見ると、ここに重要な示唆がある。

日本でAIを論じるとき、使われる言葉はたいてい「AI倫理」である。倫理はもちろん重要だ。しかし、高度なAIがサイバー攻撃に転用されれば重要インフラが標的になる。生成AIが偽情報の生成と拡散に使われれば、選挙そのものの信頼が揺らぐ。そしてAIが半導体、クラウド、データセンター、通信網、電力網への依存の上に成り立っている以上、それはサプライチェーンの問題でもある。AI、サイバーセキュリティ、サプライチェーン、国家安全保障は、一本の線でつながっている。

だから私は、日本のAI政策の軸を、AI倫理からAI Security Governanceへ移すべきだと考えている。柱は四つある。

第一に、AI安全保障の司令塔をつくること。いまAIは経済産業省、総務省、デジタル庁、防衛省、内閣官房に分散している。大規模なAI起因の攻撃や事故が起きたとき、誰が判断し、誰が責任を負うのかが決まっていない。平時に決めておかなければ、有事には決まらない。

第二に、依存関係を国として把握すること。日本の政府と重要インフラが使う主要なAIが、どの国の半導体、どのクラウド、どの通信網と電力網に依存しているのかを可視化する。ソフトウェアの部品表にあたるものを、AIについても持つべきである。

第三に、人間が判断を握る領域を、あらかじめ明示すること。ヴァンスが軍について語ったのと同じ線を、日本は防衛と重要インフラについて自ら引かなければならない。米国や欧州が引いた線をあとから輸入するのでは遅い。

第四に、ルールを日米で共同してつくること。日本は半導体材料、製造装置、部品、通信で世界の要所を押さえている。AI Securityの国際標準をつくる交渉力は、本来ある。使っていないだけである。

これらはもはやIT部門の問題ではなく、国家戦略の問題である。

米国の次期大統領の有力候補が、この線引きを自分の言葉で語り始めた。加速か規制かという二択ではなく、どこに線を引くかという問いに、彼は移りつつある。日本が米国のルールができあがるのを待つ国であり続ける理由は、もうない。

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