核のごみ最終処分の現在地:「国の申し入れ方式」は何を変えたか

高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定は、2026年に入って局面が変わった。国がみずから候補地に文献調査を申し入れる方式が、南鳥島で初めて実を結び、8月末には茨城県常陸大宮市への申し入れが続いた。文献調査の対象は寿都町・神恵内村・玄海町・南鳥島の4地点となり、常陸大宮市が受け入れれば5地点目になる。

だが、4地点を一つずつ見ていくと、前へ進める地点はほとんどない。本稿では各地点の現在地を確かめたうえで、国の申し入れ方式の意義と限界、そして国がこれから描こうとしているであろう筋書きを推察してみたい。

1. 寿都・神恵内:「知事の壁」の前で止まる

2020年11月に始まった北海道2町村の文献調査は、2024年11月に報告書がまとまった。NUMOは寿都町の全域と神恵内村の南端の一部を、次の概要調査の候補地とした。しかし報告書を受け取った鈴木直道知事は、現時点で反対の考えに変わりはないと明言した※1)。

根拠は、2000年に道が定めた、いわゆる「核抜き条例」である。加えて2020年の経産大臣回答は、知事か首長が反対すれば概要調査地区には選ばない、と約束している※2)。法律上、概要調査への移行を決めるのは経済産業大臣だが、政治的な約束が事実上の拒否権を知事に与えている。

知事は、北海道だけの問題になることへの反発を繰り返し語ってきた。寿都の文献調査を「札束で頬をたたくやり方」と批判したこともある※3)。知事が交代するか、条例の扱いが変わらない限り、2町村が概要調査へ進むことは極めて難しい。北海道は、足踏みを続ける地点として固定化しつつある。

2. 玄海:町長の「苦渋」と交代

玄海町は2024年6月、原発立地自治体として初めて文献調査を受け入れた。きっかけは地元商工団体の請願を町議会が採択したことで、脇山伸太郎町長は当初、慎重だった※4)。町長の受け入れは、いわば苦渋の選択であった。

その脇山氏は2026年7月の町長選で、新人の日高大助氏に敗れた。日高氏は1994年に町役場に入った生え抜きで、企画商工課長や防災安全課長を務めた実務型の行政官である※5)。争点はローカル5G事業者の破綻をめぐる町財政の運営で、核のごみは論戦にならなかった。両氏とも、報告書が未完成であることを理由に、概要調査への態度を保留した※6)。

興味深いのは支持のねじれである。調査を受け入れた脇山氏には調査に反対した町議が、日高氏には調査を推進した町議がついた※6)。しかし日高氏は当選後、町の面積を考えると最終的な立地は難しい、と述べている※7)。脇山氏も退任会見で、町への処分場設置には「懐疑的」だと語り、判断を首長に委ねる現行方式には限界がある、と訴えた※4)。

新町長の判断は、理念ではなく、報告書の中身と町民の反応を見る実務の論理で下されるだろう。そうなれば面積の制約が前面に出る。概要調査には知事の同意も要り、山口祥義知事は反対の意向を示している※7)。玄海町は、「呼び水」の役割を果たした地点にとどまる公算が大きい。

3. 南鳥島:「申し入れ方式」が成った意義と、非現実性

2026年3月、赤沢亮正経産相が南鳥島での文献調査の実施を公表し、5月20日に調査が始まった※8)※9)。国は、科学的特性マップで好ましい特性を確認できる可能性が相対的に高いことや、全島が国有地であることを理由に挙げた。小笠原村長は「国が責任を持つなら」と応じた※8)。

この意義は大きい。寿都町の片岡春雄町長は、自らの町が孤立無援の苦境をたどった末に、国こそが申し入れによって意思を示すべきだと主張してきた。神恵内村長、そして玄海町長の苦悩も、同じ根から出ている。手挙げ方式では、首長ひとりが地域の分断と全国の視線を背負う。南鳥島は、国がようやく本気度を示した最初のケースである。

しかし、処分場としての実現性は、率直に言ってまったく現実的でない。本土から約1900キロ離れ、ガラス固化体の積出港からは遥かに遠い。島の面積は約1.5平方キロにすぎず、海底火山の山頂に載ったサンゴ礁の島である。地下施設に十分な空間を確保することは難しい。南鳥島の意義は、立地の可能性ではなく、方式の転換を示したことにある。

4. 常陸大宮:本土、しかも東海第二のエリアへ

8月31日、経産省は茨城県常陸大宮市に文献調査を申し入れた。国が主体的に申し入れた2例目であり、受け入れれば本州で初の文献調査となる。鈴木定幸市長は当初、個人的には前向きだと述べ、人口減少と地域経済の疲弊を踏まえて国策に貢献する意義を強調した※10)。

本土であり、しかも東海第二発電所を抱える地域である。南鳥島とは異なり、輸送や施設配置の面で現実の候補になりうる。その意義は大きく、今後の成り行きを注視する必要がある。

ただし、市議会の賛否は拮抗し、議長は判断を市長に委ねた※11)。9月18日の議会最終日には受け入れ反対の緊急動議が出て紛糾し、市長は風評被害への懸念を踏まえて判断を保留した※12)。東海第二の周辺自治体には強い反原発の空気があり、それは当然この問題に波及する。常陸大宮での調査は、東海第二の再稼働問題以上に難しいとも思えなくもない。

5. 今後:候補地の「あぶり出し」と「ダービー」

資源エネルギー庁とNUMOは、申し入れ方式による候補地のあぶり出しを、今後も続けるだろう。南鳥島、常陸大宮に続けて、さらに今後5カ所ほど文献調査地を上乗せ拡張する算段と推察する。その際には、原発立地地域の直近や周辺市町村が狙われるはずだ。国と電力会社の合同チームは2023年から全国の自治体を回り、2026年3月末までに317市町村の首長を訪問している※9)。種はすでにまかれている。

そして、それらを2から3の候補に絞り込み、単なる比較検討にとどまらず、「候補地同士」のダービーに持ち込もうとしているのではないか。複数の地点が並走すれば、一つの地点の首長や知事が、全国の圧力を一身に受けることはなくなる。北海道の知事が恐れた「北海道だけの問題」という構図も崩れる。

手挙げ方式は、首長の孤独な決断に依存し、その限界は寿都・神恵内・玄海で明らかになった。申し入れ方式はそれを国の責任に置き換える試みである。問われるのは、国が「申し入れ」の後も、交付金ではなく応答と責任で前面に立ち続けられるかどうかだ。

「正しい情報さえ届けば理解される」という理解欠如モデルに立った、見かけだけの「対話活動」は、いたずらに地元の人々を巻き込み、疲弊させるだけである。先行した調査地の人々は、そのことを身をもって知った。方式を改めるだけでは足りない。国・NUMOや専門家が「教える者」の位置を降り、住民の素朴な問いに正面から応え、引き返す道も含めて示す——その血の通った対応があって初めて、この問題は前に進む。

【出典】

※1)日本経済新聞「北海道2町村、核ごみ概要調査候補地に 知事は『反対』」(2024年11月22日)
※2)衆議院「寿都町、神恵内村における文献調査開始問題に関する質問主意書」(2020年11月27日付経産大臣回答を引用)
※3)北海道新聞 社説「核ごみ調査拡大 『国主導』の内実問われる」(2026年9月)
※4)佐賀新聞「玄海町・脇山町長が退任会見」(2026年8月7日)
※5)佐賀新聞「元町課長の日高大助氏が正式出馬表明」(2026年5月14日)
※6)佐賀新聞「<玄海町長選・回顧>『核のごみ』論戦深まらず」(2026年7月27日)
※7)神奈川新聞(共同)「核ごみ調査認めた現職敗北」(2026年7月26日)
※8)JBpress「南鳥島が『核のごみ』の最終処分場選定『文献調査』に名乗り」(2026年7月)
※9)資源エネルギー庁「南鳥島で始まった文献調査に注目」(2026年7月)
※10)茨城新聞「常陸大宮に核ごみ文献調査 経産省申し入れ」(2026年8月31日)
※11)東京新聞「文献調査受け入れは『市長に委ねる』と常陸大宮市議長」(2026年9月)
※12)ABEMA TIMES「常陸大宮市 受け入れ判断を保留」(2026年9月)

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