2026年の大みそか、NHK紅白歌合戦の司会席に『VIVANT』の「兄弟」が並ぶ。10月9日に発表された第77回紅白の司会は、堺雅人、二宮和也、芦田愛菜、そしてNHKの鈴木奈穂子アナウンサー。堺と芦田は初挑戦、二宮は個人では2017年以来9年ぶりとなる。
この豪華な顔ぶれにSNSでは歓迎の声が相次ぐ一方、意外な組み合わせに疑問を呈する声も上がった。話題の中心にあるのは紅白という音楽番組よりも、TBSの日曜劇場『VIVANT』なのである。
「乃木兄弟」がNHKにやって来る
堺が演じる乃木憂助と、二宮が演じるノコル。2人は現在放送中の『VIVANT』で義兄弟の関係にある。司会発表を受け、二宮はXに「二宮和也は全勢力をかけて堺雅人に協力する」と投稿。ドラマの名ぜりふを踏まえた遊び心に、ファンから歓声が上がった。

一方で、日刊スポーツはXの反応として「がっつり#VIVANT乗っかりとは…」という声や、NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』の出演者を起用すべきではないかという趣旨の意見を伝えている。

確かにタイミングは絶妙だ。よりによって現在、他局で大きな話題を集めているドラマの顔が、年末のNHKの看板番組でそろう。キャスティングの理由をNHKが『VIVANT』人気と明言したわけではない。それでも「TBSで育った熱狂を紅白に持ってきたのでは」と見る人が出るのは自然だろう。
俳優たちに罪はない
ただし、この起用を「便乗」と決めつけるのも短絡的だ。堺は『半沢直樹』やNHK大河『真田丸』などで存在感を示してきた実力派。二宮は嵐として紅白の司会を5回経験し、個人でも司会を務めている。芦田は知性と落ち着いた受け答えで知られ、鈴木アナには生放送を支える経験がある。司会陣の組み合わせとしては、むしろ堅実である。
堺は発表コメントで、二宮について「共演したドラマ同様、尊敬する心強い弟」と語った。本人たちが番組をまたいだつながりを楽しんでいるのだから、視聴者が喜ぶのも当然だ。

そもそも、公共放送が民放で活躍する俳優を起用してはいけないという決まりはない。テレビ局の縄張りを越えて才能が集まることは、視聴者にとってむしろ歓迎すべきことだ。問題にするなら出演者ではなく、その人気を借りる側の企画力である。
『豊臣兄弟!』ではなく『VIVANT』なのか
今回、少し皮肉なのは、NHK自身が大河ドラマ『豊臣兄弟!』を放送していることだ。豊臣秀長と秀吉の兄弟を描く大河がある年に、紅白で話題になるのが別の局の「兄弟」。これでは「自前のドラマよりTBSの方が宣伝上手なのか」と言いたくなる。
もちろん、大河出演者を毎年紅白の司会に据える義務はない。無理に自局番組と連動させれば、それこそ内輪受けになる。しかも、大河と『VIVANT』では視聴者層も作品の魅力も異なる。比較すること自体が乱暴な面もある。
ただ、NHKが長年積み上げてきたのは、ドラマ、ドキュメンタリー、音楽、教育番組を自ら制作する力だったはずだ。今回の話題が『VIVANT』の固有名詞に集中するなら、公共放送の象徴である紅白が、結果として他局の作品の話題性に押されてしまったようにも見える。
視聴率を追いかける公共放送
NHKにも大みそかの視聴者を確保する理由はある。動画配信やSNSで娯楽が細分化し、家族全員が同じテレビを見る習慣は弱まっている。そこで知名度の高い俳優を並べ、放送前から話題を作る戦略は理解できる。
もっとも、「紅白はもう誰も見ない」という嘆きも事実とは違う。ビデオリサーチによると、2025年の紅白の関東地区平均世帯視聴率は後半35.2%。2024年の32.7%から上昇している。

紅白には今も強い集客力がある。2025年の紅白は、NHK ONEでの放送当日の同時配信と2026年1月7日までの見逃し配信を合わせ、749万回再生された。テレビだけでなく配信でも楽しまれる番組になりつつある。

だからこそ問いたい。受信料を主な財源とする公共放送は、瞬間的な話題や視聴率の追求と、公共放送ならではの番組づくりをどう両立させるべきなのか。NHK自身は、特定の利益や視聴率に左右されず、確かな情報や多様な番組を届ける使命を掲げている。

紅白も娯楽番組だから、面白くなければ見てもらえない。ただ、人気俳優を集めることと、歌を通して世代や価値観をつなぐことは同じではない。
「局の壁」を越えた、その先は
今年の紅白のテーマは「こえていこう、歌とともに。」。NHKの小池明久実施本部長は、幅広い世代が楽しめる番組にすると説明した。

なるほど、民放とNHKの壁はすでに越えたようだ。しかし、司会の話題が『VIVANT』の再現シーンや小ネタへの期待で終わってしまえば、紅白は巨大なドラマ同窓会になりかねない。
堺も二宮も芦田も、力量に疑いはない。演者の華やかさに頼るだけでなく、普段なら出会わない音楽と視聴者を結びつけてほしい。大みそかに求めたいのは、TBSのヒット作を借りた話題づくりより、NHKにしか作れない「歌の番組」である。
今年の紅白が『VIVANT』以上に語られるなら、この起用は大成功だ。逆に、年明けの感想が「あの兄弟、面白かったね」だけなら、いちばん得をしたのはTBSかもしれない。







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