日本のAI開発を遅らせず、クリエイターも守る「対価還元型フェアユース」

10月9日付、朝日夕刊の「現場へ!著作権ウォーズ」連載最後の⑤「AI普及 仕組み作り模索」と題する記事は、新興の著作権管理会社ネックストーンの荒川裕二 代表取締役COO(最高執行責任者)の以下のコメントで結んだ。

音楽家も過去の楽曲に学んできたが、AIの無断学習は量が膨大で、破壊的な規模だ。AI事業者には作り手に対価を支払う責任がある。

AIによって進んだ創作活動の民主化を止めることはもはやできない。作り手の権利をしっかり守りながら、技術が生み出す自由を広げることが新たな文化を生み出すことにつながる。

作り手の権利を守りながら、技術が生み出す自由を広げ、新たな文化を生み出すための施策として、拙著『AI時代と著作権 なぜ日本は、創っても儲からないのか―国破れて著作権法あり2―』で、対価還元型フェアユースの導入を提言した。

「対価還元型フェアユース」とは

日本の著作権法30条の4は、AIによる情報解析などを一定の条件下で認め、AI学習を許容することに重点を置いている。しかし、生成AI時代に必要なのは、学習の自由だけではない。クリエイターへの対価還元、市場形成、透明性、国際競争力を同時に実現できる制度である。

筆者が提案する「対価還元型フェアユース」とは、AIによる学習、検索、要約、生成などの利用を一定範囲で認めながら、そこから経済的価値が生まれる場合には、クリエイターや権利者に適正な対価を還元する仕組みだ。

米国型フェアユースは、利用の目的や性質、市場への影響などを総合的に考慮し、技術革新や表現の自由を支える柔軟な制度である。しかし、利用が公正と認められれば、原則として無償で利用でき、その利益を権利者に還元することまでは制度の目的としていない。

これに対し、対価還元型フェアユースは、その柔軟性を受け継ぎつつ、ライセンス契約や拡大集中許諾制度(ECL)、補償金制度などを通じて、利用によって生まれた価値を創作者にも循環させることを目指す。AIの発展と創作活動の持続可能性を両立させる、日本独自の制度モデルである。

フェアユースの利点

フェアユースの最大の利点は、新技術への適応力にある。法律に利用形態を細かく列挙しなくても、裁判所が個別の事情に応じて柔軟に判断できるからだ。生成AIのように技術革新の速度が極めて速い分野では、こうした仕組みが重要となる。

筑波大学の潮海久雄教授も、日本の著作権法は個別の権利制限規定を設ける方式であるため、企業や市民が原則として侵害者となりかねない制度設計だと指摘し、米国型フェアユースの必要性を論じている。

日本では、新しいサービスを提供するために個別の法改正が必要となる場合が多い。一方、フェアユースのような権利制限の規定があれば、適法性を判断したうえでサービスを早期に開始できる。

筆者は、こうした制度の違いが日本企業と米国企業の間に大きな時間差を生み、約20年もの遅れにつながりかねないと考える(下図参照)。資金や技術で米中の後塵を拝する日本のAI事業者が、法制度面でもハンディキャップを負うことは避けなければならない。

サービス名 ①  米国での

サービス

開始

②米国での

フェアユース判決

③日本での合法化(施行年)=

サービス可能化

④=③-①
リバースエンジニアリング 1970年代※ 1992年 2019年 40~50年
画像検索サービス 1990年代※ 2003年 2010年 10~20年
文書検索サービス 1990年 2006年 2010年 20年
論文剽窃検証

サービス

1998年 2009年 2019年 21年
書籍検索サービス 2004年 2016年 2019年 15年

新技術・新サービス関連サービス合法化の日米比較
※裁判例から推定した。

ただし、AI学習の自由を無制限に認めればよいわけではない。新聞社などの権利者団体は、商業目的の大規模学習や、既存作品を再現するような利用について、著作権法30条の4の適用を限定するよう求めている。

国内の新聞社や米ニューヨーク・タイムズが生成AI企業を訴えた事例でも、有料記事の学習や再現が市場に及ぼす影響が問題となっている。

生成AI時代のフェアユース

荒川氏の指摘するとおり、「AIの無断学習は量が膨大で、破壊的な規模なので、著作物の市場を奪い、創作者の収益機会を損なう利用には、適切な歯止めが必要」である。

そこで筆者は、著作権法に新たな「公正利用」の規定を設けることを提案する。公正な利用かどうかは、利用目的や営利性、著作物の性質、利用部分の質と量、既存または将来の市場への影響などを総合的に考慮して判断する。その際、権利者に相当な対価を支払うなど、価値還元の措置を講じているかどうかも判断要素とする。

さらに、政令で定める場合には、相当な補償金の支払いを義務づける。技術革新と著作物の円滑な流通を促しながら、権利者の正当な利益も守るためだ。

AIの利用を一律に禁止すれば、技術革新や新たな文化の創出を妨げかねない。逆に、利用の自由だけを優先すれば、創作を支える経済的基盤が失われる。重要なのは、AIの発展を止めることではなく、そこから生まれる利益を創作者にも還元する制度を整えることである。

「公正な利用」を認める。しかし、そこから経済的価値が生まれるなら、創作者にも適正に還元する。「価値を創れば、価値を還元する」。これこそが、生成AI時代にふさわしい著作権制度の新たな原則であり、技術革新と創作活動の持続可能性を両立させる道だと考えた。

荒川氏の指摘するとおり、「AIによって進んだ創作活動の民主化を止めることはもはやできない」ので、「作り手の権利をしっかり守りながら、技術が生み出す自由を広げ、新たな文化を生み出すことにつなげる」ための提案である。

具体的に拙著 第9章「生成AI時代、日本が変えるべき法制度」では、30条の6(公正利用)として著作権法に追加する条文案も示した。

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『AI時代と著作権 なぜ日本は、創っても儲からないのか ―国破れて著作権法あり2―』
みらいパブリッシング、2026年10月14日発売、オンライン書店で予約受付中。

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