
クレジットカードが海外で勝手に使われているかもしれない。そんな通知が届いたら、誰でも慌てるでしょう。ましてカード会社に電話したのに、期待した対応が得られなかったら、腹も立ちます。
お笑いコンビ・サンドウィッチマンの富澤たけしさんが、そんな経験をラジオで明かし、話題になっています。
10月10日放送のニッポン放送『サンドウィッチマン ザ・ラジオショーサタデー』での発言を、日刊スポーツやSmart FLASHが報じました。
この騒動、単なる芸能人の怒り話ではありません。10月1日に企業のカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化されたばかりの日本で、消費者の正当な苦情とカスハラの境界線を考える格好の材料になっています。
カード会社の対応に富澤さんが憤慨
報道によると、富澤さんは自宅でゲームをしていたところ、海外でのカード利用を知らせるメールを受け取りました。
身に覚えのない利用だったため、カード会社に連絡したものの、担当者の反応を素っ気なく感じたといいます。
富澤さんは利用状況を調べてもらい、必要ならカードを止めるなどの対応を期待していました。しかし、担当者からはメールの送信元を知りたいのかと尋ねられ、さらに「どうされますか?」と判断を求められたそうです。
これでは不安が募るのも無理はありません。
富澤さんは、不正利用を疑う事態そのもの以上に、担当者の応対に腹が立ったという趣旨の話をしています。
ただし、注意したいのは、これはラジオで語られた富澤さん側の説明だということです。実際の通話内容の全容は明らかになっていません。また、不正利用が実際に成立したかどうかや、その後のカード会社の対応についても、報道からは分かりません。
それでも、利用者が不安を抱えて問い合わせたのに、十分な安心を得られなかったという点は重要でしょう。
正当な苦情まで「カスハラ」になるのか
Smart FLASHは、富澤さんに共感する声がある一方、利用者も何をしてほしいのか明確に伝えるべきだという意見が出ていることを紹介しています。
確かに、コールセンターの担当者も超能力者ではありません。利用者の希望を聞き取ってから手続きを進めなければならない場合もあります。
しかし、カードの不正利用が疑われるという緊急の相談で、専門的な知識のない利用者が、最初から適切な対処方法を理解しているとは限りません。
何をすべきか分からないからこそ、専門の窓口に電話するのです。
富澤さんの説明通りであれば、不正利用を心配している利用者に対し、確認方法や対応の選択肢を十分に案内できていなかった可能性があります。
もっとも、担当者側の事情も分からない以上、一方的に対応が悪かったと決めつけることはできません。
一方、窓口の対応に不満があるからといって、利用者が暴言を吐いたり、長時間にわたって担当者を責め続けたりすることまで正当化されるわけではありません。
今回の富澤さんについても、実際の通話で担当者に暴言を浴びせたと断定できる情報はありません。ラジオで怒りを表現することと、実際にカスハラ行為をすることは別問題です。
カスハラ対策は企業の免罪符ではない
厚生労働省によると、2026年10月1日から、企業にはカスハラを防止するための措置が義務付けられました。
同省はカスハラの判断について、顧客等の言動であること、社会通念上許容される範囲を超えること、労働者の就業環境が害されることという3つの要件を示しています。
つまり、顧客が不満を訴えたり、説明を求めたりしただけで、直ちにカスハラになるわけではありません。
従業員を理不尽な要求や人格攻撃から守ることは当然必要です。
しかし、企業がカスハラ対策を強化することと、顧客への説明責任を果たすことは別問題です。
例えば、不正利用が疑われる相談なら、担当者が利用履歴の確認方法を案内し、カードの利用停止について選択肢を示す。担当者だけで判断できなければ、適切な部署につなぐ。
こうした体制が整っていれば、利用者の不安も軽減され、担当者への不満が大きくなることも防げるでしょう。
企業が考えるべきなのは、顧客の怒りをどう封じ込めるかだけではありません。なぜ顧客が怒る状況になったのか、業務の仕組みに問題はないかを検証することです。
カスハラ対策が、顧客からの正当な苦情を排除するための口実になっては本末転倒です。
客も神様ではないが、企業も殿様ではない
日本クレジット協会の統計によると、2025年のクレジットカード不正利用被害額は510.5億円に上ります。前年より減少したとはいえ、依然として深刻な問題です。
しかも、カード会社を装ったフィッシングメールも後を絶ちません。
消費者庁は、不審なメールに記載されたリンクからカード情報を入力しないことや、身に覚えのない請求があればカード会社に連絡することを呼びかけています。
利用者には冷静な対応が必要です。しかし、カード会社にも不安な顧客を適切に案内する責任があります。
特に、金融サービスは一般の消費者と事業者の間に大きな情報格差があります。
専門知識を持つ企業が、その知識を持たない利用者に判断を丸投げするようでは、顧客サービスの意味がありません。
一方で、消費者も自分が客であることを理由に、従業員へ何を言っても許されるわけではありません。
カスハラ対策の義務化は、企業が従業員を守るための大きな一歩です。ただ、それが「面倒な客には対応しない」という方向に進めば、消費者との信頼関係は失われてしまいます。
昔は「お客様は神様です」と言われました。しかし、お客様も神様ではありません。
だからといって、企業が殿様になっていいわけでもないのです。
富澤さんの怒りをきっかけに考えるべきなのは、誰が悪かったかという犯人探しだけではありません。客も従業員も無用なストレスを抱えずに問題を解決できる仕組みを、企業が作れているかどうかです。







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