m3.com とは何者か:学会サイトを開いたらm3がいた

学会サイトを開いたらm3がいた

m3.comといえば、医師向けのニュースサイトや求人サイト。私もその程度の認識だった。

ところが、ある医学系学会について調べていると、サイトの運営基盤として「m3.com学会研究会」の名前が出てきた。調べてみれば、製薬企業向けマーケティング、治験、人材紹介、電子カルテ、医院承継、病院経営支援、さらに学会の会員管理や会費決済まで、事業は医療界の広い範囲に及んでいた。

m3は単なる医療メディアではない。医師を集めた巨大な会員基盤を、医療と学術の各市場へ接続するプラットフォーム企業である。

そして、「学会が多すぎる」と分かっていても学会が減らない理由も、この構造と無関係ではない。

学会は多すぎないか

京都大学医学部附属病院肝胆膵・移植外科の波多野悦朗教授によるコラム「学会参加を見直す」は、2026年6月、率直な疑問を投げかけた。

「あまりにも学術集会が多すぎないか?」

同じようなテーマを、同じようなメンバーで議論する学術集会が繰り返される。演題募集の締切は延長され、応募を促す依頼が飛び交う。波多野氏は、演題が集まらない学会は統合や縮小を考えるべきだと主張する。

臨床、研究、教育を担う医師の時間は有限だ。学会に参加する医師が移動し、発表資料を作り、座長や査読を引き受ける時間は、どこかから湧いてくるわけではない。患者を診る時間、若手を教える時間、家族と過ごす時間から捻出される。

では、なぜ学会は減らないのか。その問いを考えていた時、私が学会サイトで見つけたのがm3だった。

学会のホームページまでm3なのかと驚きを隠せなかった。

m3はニュースサイトではない

エムスリーは外資ではない。ソニーグループが議決権の34.5%を保有する日本の上場企業である(2026年3月31日現在。同社の開示では「その他の関係会社」に区分される)。

会社自身は、2026年3月期の決算短信で、国内35万人以上の医師会員が医療従事者専門サイト「m3.com」を利用しており、世界では医療従事者向けウェブサイトや医師パネルを通じて700万人以上の医師登録数を有すると説明している。

同期の連結売上収益は3513億円。医師向け情報と製薬マーケティング支援などを含む「メディカルプラットフォーム」だけでも、外部顧客への売上収益は1040億円に上る。

エムスリーの2026年3月期決算短信を読むと、その広がりに驚く。製薬企業向けのマーケティング支援、AI機能を搭載した電子カルテと診療支援システム、画像診断支援を中心とする医療AI、開業医向けの第三者継承支援、企業向け福利厚生、治験を支援するCROとSMO、医師・薬剤師の人材紹介、医療機関の運営サポート、ホスピスと居宅訪問看護、入院患者向けのケア・サポートセット、医療福祉系国家試験の対策事業、さらに欧州での医薬品情報データベースやクリニック向け電子カルテまで並ぶ。

その中に、学会・研究会の会員制コミュニティサイトを運営するエムプラスがある。旧社名は学会研究会jp株式会社で、株主はエムスリーと株式会社アルムである。エムスリーは2011年、学会研究会jpとの業務資本提携に際して、同社の発行済株式の50%を取得したと発表している。

「m3.com学会研究会」は、2000を超える学会・研究会の情報を掲載するだけではない。学会サイトの作成、会員管理、入会承認、会費徴収、イベント参加費の決済、演題募集、査読・採択、学会誌や動画の配信まで支援する。

会医療従事者向け情報専門サイト m3.com 学会研究会 | サービス
医療従事者向け情報専門サイト m3.com 学会研究会をご紹介します。株式会社エムプラスは医療従事者向けの会員集客や情報提供、学会事務局の運営をサポートします。

もはや「学会のホームページを作る会社」ではない。学会事務局の仕事を、会員・決済・コンテンツの一体型システムとして提供している。

一般の患者からは、この接続関係がほとんど見えない。病院の看板にm3と書かれているわけではない。しかし、医師が読む情報、製薬企業から受け取る情報、参加するWeb講演会、応募する求人、所属学会の事務、勤務先の経営支援の背後に、同じ企業グループが存在し得る。

情報、広告、調査、採用、学会運営が一つの会員基盤に集まれば、利用者にとっては便利になる。一方で、医師の関心や行動が複数の事業を循環する経営資源にもなる。どのサービスがどの事業と接続し、編集部門と製薬企業向け事業がどう区分されているのか。巨大化したプラットフォームには、便利さに見合う透明性が必要だ。

医師会員基盤は万能の経営資源になる

プラットフォームの強さは、個別のサービスより、利用者が集まる場所を持つことにある。

医師が集まれば、製薬企業は薬剤情報を届けたい。治験依頼者は参加医師や対象患者を探したい。病院は医師を採用したい。医師は転職先や開業案件を探したい。学会は会員を管理し、参加費を集めたい。

m3は、それぞれの需要を同じ医師基盤へ接続できる。

ある医師がXに投稿していた、エムスリー医療継承チームの医療法人向け営業資料の画像を、筆者も確認した。そこでは、売上高300億~500億円規模の法人に資本提携を提案し、約300施設の支援実績と、34万人以上のm3.com医師会員基盤(資料に記載された数字)を採用網として活用できることが強調されていた。資料の作成時期や真正性についてエムスリーへの確認は取れていないが、記載内容は同社が公表してきた事業展開と整合的である。

医療法人の承継と医師向けニュースは、一見すると無関係だ。しかし、病院を譲り受ければ、そこで働く医師を確保しなければならない。医師会員基盤を持つ企業には、病院M&Aの後まで見据えた強みがある。

エムスリーは2015年に「医療継承ネットワーク」を開始し、2020年には日本医師会と第三者医業承継に関する包括連携協定を締結した。承継後の医師・看護師採用、電子カルテ導入、集患、治験ネットワークへの参加まで、グループのサービスを横につなぐ構想を公表している。

「医療継承ネットワーク」サービス提供開始のお知らせ ~医院M&Aコンサルティングを開始-後継者問題の解決をサポート~ | エムスリー株式会社
エムスリー株式会社の「プレスリリース」について。
日本医師会とエムスリーが医業承継に関する包括連携協定を締結 診療所の第三者医業承継に関するトライアル事業を開始 | エムスリー株式会社
エムスリー株式会社の「プレスリリース」について。

学術活動が産業の入口になる

ここで「m3が医療を支配している」と騒ぐのは雑である。

学会運営には事務が必要だ。会費を銀行振込と表計算ソフトで管理するより、外部サービスを使う方が効率的だ。後継者のいない診療所を承継することも、地域医療を守る選択肢になり得る。

m3が学会を乱立させたわけでも、専門医制度を作ったわけでもない。問題は、公共的・学術的な活動が産業化された後の構造にある。

医師が学ぶ。発表する。講演を聴く。資格を維持する。転職する。治験に参加する。学会費を払う。一つ一つは医療や学術のための行動だが、プラットフォームから見れば、情報配信、広告、調査、決済、人材紹介、システム利用料を生む接点になる。

活動が増えるほど、周辺市場も大きくなる。そして、学会や講習会を縮小すれば、医師の負担だけでなく、会費、参加費、広告、配信、事務局業務も減る。関係者が増えるほど、「多すぎる」と分かっていてもやめにくくなる。

m3はこの構造を作った側ではない。むしろ、医療界が自ら生み出した需要を、最も効率よく束ねた企業と見るべきだ。

学会サイトを開いたら、そこにm3がいた。

その偶然の発見から見えてきたのは、医療や学術活動が、医師の知らないところではなく、医師の日常そのものを通じて巨大な産業へ変わっていく姿だった。

次回は、専門医資格の取得・更新と学会参加が、なぜ学会を縮小できない「撤退不能産業」を作るのかを考えたい。

【参考リンク】

・京都大学附属病院肝胆膵・移植外科 教室コラム#18「学会参加を見直す」(2026年6月24日公開)
・エムスリー株式会社「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年5月1日)
・エムスリー株式会社「支配株主等に関する事項について」(2026年6月12日)
・エムスリー株式会社「企業情報」
・エムスリー株式会社「IRライブラリ(有価証券報告書等)」
・株式会社エムプラス「会社概要」
・株式会社エムプラス「m3.com学会研究会」
・m3.com学会研究会(サービスサイト)
・エムスリー株式会社「学会研究会jp株式会社とエムスリー株式会社が業務資本提携」(2011年4月28日)
・エムスリー株式会社「医療継承ネットワーク」サービス提供開始(2015年7月21日)
・日本医師会とエムスリーが医業承継に関する包括連携協定を締結(2020年1月15日)

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制度の問題は、問題として認識されなければ検証すら始まらない。私のnoteでは、医療、行政、公共サービス、消費者保護など、日常に埋もれたさまざまな「おかしさ」を問題定義の段階から掘り下げています。

George・九条|note
私は大学に所属しない独立研究者です。制度や政策の「それ本当にそうなのか?」を、一次資料や論文まで戻って調べています。・研究の裏側 → 村人A・面白い論文 → 知られざる論文の世界・コロナを文化から考える → コロナ×作品・日本のコロナ政策検...

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