
昔は安く買えた中古の洋服が、今では新品よりも高く売れる。中には、数十万円、数百万円という値段がつく商品まであります。
10月13日に放送されたTBS系『マツコの知らない世界』では、古着とヴィンテージの魅力が特集されました。
番組には、ヴィンテージファッションに精通する十倍直昭さんと、古着好きのモデル・俳優の佐藤菫さんが出演。若い女性に人気の古着店、タイでの買い付け現場、価格が高騰するJ-POPアーティストのTシャツ、さらには1000万円を超える希少なヴィンテージ品などが紹介されました。
【参考】TBS『マツコの知らない世界』2026年10月13日放送
かつて古着といえば、新品を買うより安く済ませるための選択肢という印象がありました。しかし現在では、希少価値のある古着が高額で取引される一方、一般的な中古衣料品の売買も拡大しています。
なぜ古いものが新しいものより高くなるのでしょうか。そして、古着を投資対象として買う時代は本当に到来したのでしょうか。
1兆円を超えたファッションリユース市場
古着ブームは、一部の愛好家だけの現象ではありません。
矢野経済研究所が10月13日に発表した調査によると、2025年の国内ファッションリユース市場規模は、前年比10.2%増の1兆4100億円に達したと推計されています。2026年には1兆5300億円に拡大する見通しです。
ただし、この数字は古着だけの市場規模ではありません。中古のバッグ、靴、宝飾品、時計なども含まれており、ファッション関連の中古品市場全体を示しています。
【出典】矢野経済研究所「ファッションリユース市場に関する調査を実施(2026年)」
市場拡大の背景には、物価高による節約志向があります。
新品の衣料品が値上がりするなか、状態のよい中古品を安く購入したいという消費者が増えています。フリマアプリの普及によって、個人同士で簡単に売買できるようになったことも大きな要因でしょう。
しかし、最近のヴィンテージブームは、こうした節約志向とは異なる方向にも広がっています。
希少なデニムやスウェット、バンドTシャツなどが、単なる衣料品ではなく、コレクションの対象になっているのです。
昔のコンサートで販売されたTシャツは、当時のファンにとっては数千円程度の記念品だったかもしれません。
ところが、それから何十年もたち、現存する商品が少なくなると、熱心なコレクターが高い価格をつけるようになります。
服の機能や素材よりも、歴史的な背景や希少性に価値が生まれているわけです。
古着の価値を決めるのは希少性と物語
経済学的に考えると、ヴィンテージ品の価格が高くなる仕組みは、それほど不思議ではありません。
需要が増えても供給を増やせないからです。
人気の新作Tシャツであれば、メーカーは追加生産できます。しかし、特定の年代に製造されたオリジナル商品は、同じ歴史を持つものを新たに作ることができません。
世界に残っている数が少なければ、コレクター同士の競争によって価格が上昇します。
これは絵画や骨董品、希少なワインなどと共通する仕組みです。
さらに、ヴィンテージ品には「物語」があります。
著名なアーティストが活躍した時代、伝説的なコンサート、ファッション史に残るデザインなど、その商品に結びついた文化的な背景が価値を高めます。
同じような柄のTシャツを現在の技術で再現することは簡単です。しかし、当時実際に販売されたオリジナルには、単なるデザイン以上の意味があります。
人々は布や縫製だけにお金を払っているのではなく、その商品が持つ歴史や文化にもお金を払っているのです。
しかも、インターネットの普及によって、こうした価値観は国境を越えて共有されるようになりました。
かつて国内の古着店だけで売買されていた商品も、海外のコレクターが欲しがるようになれば、需要が拡大する可能性があります。
今回の番組がタイの買い付け現場を紹介したことも、古着の流通が国際的なビジネスになっていることを象徴しています。
「値上がりする古着」には投資リスクも
ただし、ヴィンテージ品を投資対象として考える場合には注意が必要です。
株式や債券とは異なり、古着には継続的な配当や利息がありません。
購入したときよりも高く売れなければ、基本的に値上がり益は得られないのです。
しかも、その価格は流行に大きく左右されます。
あるアーティストが再評価されれば、関連するTシャツの価格が急騰するかもしれません。しかし、数年後に人気が落ちれば、買い手が見つからなくなる可能性もあります。
特に問題なのは、価格の透明性です。
上場株式なら、取引所で市場価格を確認できます。一方、ヴィンテージ品は個々の商品によって状態が異なり、取引件数も限られます。
店頭に100万円という値札がついていても、その金額で実際に売れるとは限りません。
販売価格と買い取り価格には差があり、状態や市場動向によって査定額が大幅に変わることもあります。
さらに、偽物や復刻品の問題もあります。
ヴィンテージTシャツでは、タグの仕様や縫製、プリントの技法、生地の状態などが鑑定の材料になります。しかし、専門知識のない消費者が本物を見分けるのは容易ではありません。
高額商品になればなるほど、真贋やコンディションをめぐるトラブルが大きな損失につながる恐れもあります。
古着は、値上がりすることが保証された金融商品ではありません。
投資目的で高額な商品を購入するなら、その商品を本当に欲しがる人がどれほど存在するのか、将来も需要が続くのかを冷静に判断する必要があります。
古着ブームは本当に環境に優しいのか
古着人気のもう1つの理由として、環境意識の高まりがあります。
大量生産・大量廃棄を繰り返すファッション産業では、衣料品の廃棄が大きな課題となっています。
環境省の資料によると、2025年に家庭から手放された衣類のうち、国内外でリユースされたものは35%、リサイクルされたものは7%でした。残る58%は焼却などで処分されています。なお、リユースには海外への輸出も含まれています。
まだ使える衣服を再利用することには、資源の有効活用という意味があります。
しかし、古着を購入することが無条件で環境に優しいとは限りません。
世界各地から古着を買い付け、日本に輸送し、流行に合わせて頻繁に買い替えるのであれば、輸送や消費による環境負荷も発生します。
安いからといって大量に古着を買い込み、結局ほとんど着ずに処分するのであれば、本末転倒です。
本来のサステナブルファッションとは、新品か中古かを問わず、1着の服を長く大切に使うことではないでしょうか。
今回の『マツコの知らない世界』は、古着が単なる節約の手段から、文化的な価値を持つ商品へと変化していることを印象づけました。
ただし、古着市場が拡大することと、個々の古着が値上がりすることは別問題です。
1000万円を超える希少なヴィンテージ品が存在するからといって、押し入れに眠っている古いTシャツが高額で売れるわけではありません。
むしろ、テレビ番組で高額商品が紹介され、誰もが値上がりを期待し始めたときこそ、冷静な判断が求められます。
古いものだから価値があるのではなく、そこに価値を見いだす買い手がいるから高くなるのです。
ヴィンテージの世界には歴史や文化を楽しむ魅力があります。しかし、服を着る楽しみが、いつの間にか値上がりを期待する投機に変わってしまっては、少し寂しい気もします。







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