トランプ大統領「欧州よ、お前たちこそ偽善者」

トランプ米大統領は10月9日、ロシアのプーチン大統領との電話会談後、対ロシア制裁の一部を解除し、ロシア産のディ―ぜル燃料(軽油)を輸入することで米露が合意したと明らかにすると、ウクライナのゼレンスキー大統領を始め、欧米主要国からトランプ氏のディ―ルを批判する声が高まっている。米議会からもトランプ氏のディ―ルに対して、「 導入されたばかりの対ロ制裁法に矛盾する」として、6人の共和党上院議員が民主党と連携し、トランプ大統領宛てに書簡を送り、取引の中止を求めている。

トランプ大統領が提案した「エネルギー停戦」について、ワルシャワ安全保障フォーラムの参加者に向けてオンライン演説を行うゼレンスキー大統領、2026年10月12日、ウクライナ大統領府公式サイトから

ゼレンスキー大統領の怒りはある意味で理解できる。同大統領は「ロシアに戦争資金を提供するものだ」と指摘し、トランプ氏の心変わりに改めて激怒している。ウクライナを支援する欧州連合(EU)の主要国もトランプ氏のロシアとのエネルギー・ディ―ルを「プーチン大統領への不当な贈り物」と受け取り、ウクライナが厳しい冬を迎える直前にロシアへ巨額の資金が流れることを激しく非難している

カラス EU外交安全保障上級代表(外相に相当)は「この合意が実際に発効しないことを望む」と強い不快感を吐露。トランプ氏が主張する「エネルギー停戦」についても、「(精製施設が1つしかないウクライナに対し、ロシアには32の主要施設がある。製油所を対象とする停戦は完全にロシア側を利するものだ」と指摘。「EU加盟国は冷静を保ち、凍結資産を活用してウクライナへの支援を増強し、ロシアへの圧力を維持し続けなければならない」と団結を呼びかけている。

ちなみに、欧州連合(EU)の外相理事会は今月12日、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対する第22回目の制裁パッケージを正式に承認した。今回の追加制裁は、2022年の侵攻開始以来、過去最大規模。新たに1,569(または約1,600)の個人および団体が制裁対象に指定された。これにより、EUの対ロシア制裁リストの総数は従来の約3,000から4,500件以上へと50%以上急増した。今回の制裁は、ロシアの戦争遂行能力を根本から削ぐため、ロシアの防衛・軍事産業複合体のサプライチェーンを明確な標的にしている。カラス氏によると、追加対象の半数以上が弾道ミサイル製造チェーンに関連しているという。

ところで、トランプ氏が対ロシアの制裁をここにきて一部解除して、ロシアにディ―ゼル輸出を認めた理由はかなり明らかだ。米国内のディ―ゼル不足、それに伴う価格高騰がある。来月3日に中間選挙を控えるトランプ氏としてはロシアからディ―ゼル燃料を緊急輸入することで価格高騰を抑えたいという狙いがある。純粋なアメリカ・ファーストの原則に基づく決定だ。自国中心のエゴイズムと批判できるが、「外交は国益を守ること」という視点からいえば、トランプ氏の決定は典型的な外交と言える。それを批判できる国はないだろう。

トランプ大統領 ホワイトハウスHPより

トランプ・ファンだったハンガリーのオルバン首相(当時)は、EUの対ロシア制裁を無視してロシアから原油・ガスを輸入したことでブリュッセルから何度も批判を受けてきたが、「私はブリュッセルの首相ではなく、ハンガリーの首相だ。国民の生活の安定を重視することは当然だ」と言い返してきたことを思い出す。

トランプ氏は自身の得意のディ―ル外交を批判する欧州に対し、「お前たちこそ偽善者だ」とかなり強い表現で批判している。トランプ氏は自身のSNSで「欧州の偽善だ」と猛烈に反発している。曰く、「EUこそ戦争開始以降、ロシアから数千億ドルものエネルギー(石油・ガス)を購入し続けてきたではないか。私はインフレと燃料高に苦しむアメリカ国民のために正しい選択(アメリカ・ファースト)をしただけだ」と自身の正当性を主張している。米国のベッセント財務長官も11日、「欧州はディーゼル燃料の価格について救済措置は得られないふりをしつつ、プーチンへの資金提供を続けている。偽善だ」と批判したばかりだ。

モスクワが作成した資料によれば、開戦以来、EU加盟国は総額2860億ユーロ相当のロシア産石油・ガスを購入してきた。ロシアが対欧州へのエネルギー取引に関連する資料を公表することは珍しいが、この場合、明らかにディ―ゼル燃料取引で批判を受けるトランプ氏への擁護が狙いであることは明らかだ。

ロシア側の報告では、2022年以降、EU諸国に対して3200億米ドルを超える原油および天然ガスを販売している。エネルギー担当のアレクサンドル・ノヴァク副首相はテレビ番組で、「2022年から現在までの期間で、その額は3207億米ドル(約2860億ユーロ)に上る」と述べた。同副首相の試算によれば、欧州諸国は今年に入ってからの9ヶ月間だけでも、213億ドル相当のロシア産石油・ガスを購入したことになる。

EUはウクライナでのロシアによる大規模攻勢の開始以来、ロシアに対して数多くの制裁を科してきた。しかし、フランスを含む多くの国が、依然としてロシア産エネルギー、とりわけ液化天然ガス(LNG)で需要を賄い続けている。また、スロバキアやハンガリーなど一部の国は、パイプライン経由で輸送されるロシア産石油の購入を認める例外措置の恩恵も受けている(この試算には、インドやトルコといった第三国で処理された後、間接的に欧州へ流入するロシア産石油・ガスは含まれていない。これらの国々は中国と同様、2022年以降、ロシア産原油の購入量を大幅に拡大させている)

なお、トランプ氏の支持者である共和党上院議員6人が、民主党議員6人と共に、ロシアとのディーゼル燃料に関する合意を破棄するようトランプ大統領に求めた。

12人の政治家が発表した書簡によると、このディーゼル燃料に関する合意は、ウクライナに対する戦争の資金源となる燃料をロシアに供給するものであり、米国市民に何ら利益をもたらさないという。書簡は、「ロシア産ディーゼル燃料を世界市場で自由に販売する機会をモスクワに与えることは、米国の安全保障上の利益を損なうものであり、プーチンによる残虐かつ違法な戦争に対して自国を守り続けているウクライナの人々への裏切りである」と指摘している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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