梁大臣がなんであんな発言をして回ったのか、不思議に思って調べてみたら

先に結論
  • 簗和生農相が10月14日夜に辞表を出しました。入閣からわずか28日。高市政権で不祥事による閣僚辞任は初めてです。引き金は「自分を応援しなかった首長の町の道路予算は大幅にカットした」発言と、支持者をバスでタダ送迎した公選法違反の疑い。さらに買収容疑まで出てきた。
  • でも根っこは、栃木3区で14年続いてきた「保守どうしの内戦」です。簗氏は2012年に県連の公募で東京から来た候補。選対の要だった県議と決裂し、首長選のたびに「簗派 対 反簗派」の代理戦争をやって、簗派が負け続けた。
  • 勝った33歳の渡辺真太朗氏は、渡辺美智雄・喜美の一族とは無関係です。しかも自民党籍を持つ保守。むしろ渡辺家の血筋(喜美氏の甥の那須塩原市長)は今、簗氏の盟友。皮肉でしょ。
  • 「コテンパン」の中身は2つの市町です。選挙区全体では4,508票差。ところが渡辺氏の地元・那須烏山市では8,642票対2,760票の約3倍。その那須烏山市と那珂川町こそ、簗氏が「予算をカットした」と名指しした自治体です。
  • 国交省は「働きかけはなかった、県事業を足せば増えている」と言うけど、それは減った側にしか当てていない物差し。市町が自分でやる事業で比べると、簗氏を応援した2市町は増え、応援しなかった3市町は減っている。この差の理由を国交省は説明していません。増えた側も同様のことがあるのにもかかわらず増えているかもしれない。
  • 「中国系メガソーラーと戦ったから潰された」はデマです。簗氏が国会で上海電力系の計画を取り上げたのは12年前の2014年。その発電所はとっくに動いています。辞任の理由は本人の発言と選挙運動で、太陽光は1ミリも関係ない。
  • 正直な但し書き:簗氏が実際に予算を削らせた証拠は出ていません。5市町の比較だけで因果は断定できない。確実なのは、配分が決まる前に国交省へ問い合わせ、結果を自分の手柄のように地元で語り、有権者を脅すように使ったことです。

こんにちは。永江です。

簗農相が辞めました。日経によると、14日夜に首相官邸で辞表を提出。本人は「国会審議、農林水産行政にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない」と言っています。

で、ニュースは「失言大臣がまた1人」で終わっているんだけど、わたしが気になったのはそこじゃない。自民党が単独315議席を取った歴史的大勝の選挙で、なんで自民公認の簗氏が髙市がごり押ししたのに小選挙区で落ちたのか。しかも相手は渡辺王国の跡取りでもなんでもない、33歳の無所属の新人ですよ。

調べたら、「予算カット」発言は突然の暴言じゃなくて、14年分の地元の確執がそのまま口から出たものでした。順番に書きます。

① 簗和生とは何者か

まず本人のプロフィール。学歴と職歴は本人の公式サイトで確認しました。

項目 内容
生年月日 1979年(昭和54年)4月22日。現在47歳
出身 東京都小金井市 (Wikipediaのみ。公式サイトに記載なし)
高校 私立桐朋高等学校
大学 慶應義塾大学商学部
大学院 東京大学大学院 経済学研究科 修士課程修了
職歴 衆議院議員秘書(自民党・岡部英明氏)→ シンクタンク研究員(株式会社日本経済研究所)
選挙区 栃木3区(大田原市・矢板市・那須塩原市・那須烏山市・那須町・那珂川町)
当選 6回(2012年初当選。2012年と2026年は比例復活)

東京の進学校から慶應、東大大学院、シンクタンク。絵に描いたような「地元出身じゃないエリート」です。栃木との接点は、2012年8月に自民党県連の公募で「東京都在住のシンクタンク研究員、当時33歳」として選ばれたところから始まります(下野新聞)。

政府・党の役職はこんな感じ。2017年に国交政務官、2021年に党農林部会長、2022年に文科副大臣、2025年10月から党筆頭副幹事長、そして2026年9月17日に農水相で初入閣。所属は旧安倍派で、公式サイトには保守団結の会、日本会議国会議員懇談会、神道政治連盟国会議員懇談会(事務局次長)、責任ある積極財政を推進する議員連盟(副代表)などが並んでいます。

② 渡辺王国と、喜美氏が自民党を出ていった理由

栃木県北は長いこと「渡辺王国」でした。「ミッチー」こと渡辺美智雄元副総理と、その長男の渡辺喜美氏。喜美氏は父の秘書で、父の急死で地盤を継いで1996年に自民公認で栃木3区から初当選しています(選挙ドットコム)。

その喜美氏が2009年1月、麻生政権のときに自民党を出ます。行革担当相を2008年に退いたあと、公務員制度改革に及び腰な政府・与党への批判(特に麻生さんにたいして)を強めていて、辞書的には「官僚制度改革の停滞への不満」が離党理由(コトバンク)。本人は後年、金融担当相としてリーマン・ショック後の対策を麻生首相に提案したけど危機対応はなってなかった、とも振り返っています(テレビ東京)。同じ年の8月に「みんなの党」を結成。

つまり保守を捨てたんじゃなくて、自民党の改革の遅さにキレて出ていった。で、当主が抜けた3区の自民党支部長は空席になります。

③ 王国の崩壊と、「渡辺家」のその後
年 何が起きたか
2012年 自民県連が2月に支部長を公募、8月に簗氏を擁立。12月の衆院選で喜美氏(みんなの党)に約3万5千票差で敗れ、比例復活で初当選
2014年 みんなの党が公示直前に解党し、喜美氏は無所属で出馬(県選管の届出票)。簗氏が勝って初の小選挙区議席。王国の崩壊
2017年 喜美氏の妹・美由紀氏(希望の党)らを破り簗氏3選
2019年 喜美氏の甥・渡辺美知太郎氏が那須塩原市長選で、簗氏が推す候補を破って初当選
2023年〜 美知太郎氏が簗氏と手を組み、以後は盟友関係。2026年衆院選でも簗氏を支援
出典:下野新聞「簗農相『予算大幅カット』発言の背景は?」(2026年10月。本文はブログ転載で確認)

ここ、めちゃくちゃ皮肉なところで、渡辺家の人間は簗氏を支え、渡辺家と無関係の渡辺さんが簗氏を倒したんですよ。だからこれは「渡辺王国の逆襲」じゃない。簗氏の外側にはじき出された県北の保守が、別の旗の下に集まった話です。

④ 地元との確執。首長選のたびに代理戦争、そして負け続けた

簗氏の足元が崩れたきっかけは、選対の要だった県議との決裂です。三森文徳元県議。那須烏山市と那珂川町を地盤にする自民の実力者で、2012年と2014年は簗陣営の選対本部長でした。初当選のときは「3区の新しい時代の扉を開けた」と喜んでいた人です。

それが2017年ごろから確執が表に出てくる。2017年衆院選の後には後援会の総連合会長が不在になって、2019年2月まで空席。後援会のトップがいない現職議員って、あんまり聞かないですよね。

そこから先は、地方選のたびに代理戦争です。

時期 選挙 簗派 反簗派 結果
2019年4月 那須塩原市長選 市議会前議長 渡辺美知太郎氏 反簗派が勝利
2022年3月 大田原市長選 現職・津久井富雄氏(簗氏の後援会総連合会長) 相馬憲一氏 相馬氏が10,049票対9,860票で勝利(選挙ドットコム)
2023年4月 県議選(那須烏山・那珂川) 沼田邦彦氏 三森文徳氏(川俣市長・渡辺真太朗氏が支援) 簗派が勝利、三森氏は引退
2024年10月 衆院選 簗氏 渡辺真太朗氏 簗氏が178票差で辛勝
2025年10月 那珂川町長選 前町長が推す前町議 益子純恵氏(渡辺氏が支援) 反簗派が勝利
2026年3月 大田原市長選 前市議・引地達雄氏 現職・相馬憲一氏 反簗派が大勝
出典:下野新聞(上記)、栃木県第3区(Wikipedia)

2023年の県議選だけは簗派が勝っています。でもここで負けた三森氏の陣営に、川俣那須烏山市長と、のちの渡辺真太朗氏がいた。反簗の人脈が一本にまとまったのがこの選挙です。しかも勝った沼田氏も、その後簗氏と離反している。勝っても味方が離れていくって、なかなかですよ。www 人望がないとかいわれるのはこのへんかな。

そこに裏金。2018〜22年の5年間で計1746万円の還流を受けていたことがわかり、2024年に党役職停止6カ月。2024年衆院選では比例との重複立候補も認められませんでした。

⑤ 若い渡辺氏はどこから出てきたのか

よく「渡辺一族と関係ない若い渡辺が出てきてコテンパンにした」と言われるけど、どこからともなく現れたわけじゃありません。地元保守が数年かけて育てた「反簗の受け皿」です。

年 歩み
1992年 那須烏山市に生まれる。のちの最大の票田がこの地元
2016年 学習院大学経済学部を出て足利銀行に入行 【要確認】
2018〜21年 銀行を辞め、福田富一知事の後援会事務所で働く。県政の保守人脈とつながる
2022〜24年 松下政経塾で学ぶ
2023年4月 県議選で、簗氏と決裂した三森氏を川俣市長とともに支援。ここで反簗陣営の一員に
2024年10月 公示12日前に無所属で出馬表明。三森氏が後援会顧問、那須地区の建設業界が支援。簗氏に178票差まで迫る
2025年10月 那珂川町長選で益子純恵氏の当選に貢献。反簗の首長がまた1人増える
2026年2月 那須烏山・大田原・那珂川の3首長と三森氏の支援で初当選。当選後、首相指名で高市氏に投票する方針
出典:Shintaro Watanabe(Wikipedia)、下野新聞(当選記事・背景記事)

ポイントは、真太朗氏が自民党籍を持っていて、高市首相を支持する保守だということ。松下政経塾の後輩じゃん。自民支持の有権者は、保守をやめずに「簗氏だけ」を外せる。野党の候補じゃこれは絶対にできません。

⑥ 自民圧勝の中で、なぜ自民公認が負けたのか
候補 党派 得票
渡辺真太朗(33) 無所属・新(自民党籍あり) 58,483票
簗和生(46) 自民・前(比例復活) 53,975票
伊賀央(61) 中道改革連合・新 20,611票

全国では自民が単独で3分の2超の315議席(共同通信)。その「高市旋風」の中で落ちた。首長は真っ二つで、渡辺氏側に川俣那須烏山市長・相馬大田原市長・益子那珂川町長と三森元県議。簗氏側に渡辺美知太郎那須塩原市長と平山那須町長。

終盤の2月6日には高市首相が自ら那須塩原市に入って、簗氏を「私の知恵袋」と呼んで応援しています。総理が来ても勝てなかった。中央の人気では、地元の人間関係の断絶は埋まらないということですよ。簗氏は投開票日、下野新聞の取材を拒否して「公正公平な記事の扱いがなされていない」と秘書経由で説明しています。

選挙後の2月25日、県連は党公認でない渡辺氏を応援したとして、三森元県議を党員資格停止1年、相馬大田原市長・川俣那須烏山市長・坂村下野市長を戒告にしました。対立は選挙で終わらず、制度の上でも固定されたわけです。

公平のために書いておくと、渡辺陣営もきれいではありません。簗氏のポスターを無断で剥がして渡辺氏のものに貼り替えたとして、渡辺氏を支援する那須烏山市議と渡辺氏の父が器物損壊容疑で書類送検されているようです (英語版Wikipedia経由)

⑦ 「カットした」2市町と、国交省の説明の穴

ここが本題です。簗氏が名指ししたのは、まさに自分が大敗した2市町でした。

市町 渡辺氏 簗氏
那須烏山市 8,642票 2,760票
那珂川町 4,379票 2,481票
出典:下野新聞(上記背景記事)

5月24日、大田原市での党支部の懇親会で「那須烏山市と那珂川町の本年度の道路予算は大幅にカットした」(共同通信)。理由は首長が「自民党の国会議員は要らない」という行動を取ったから、と語ったとされます(時事通信)。出席者は「会場が少しどよめいた」「脅しのような発言だと思う」と証言しています。

ちなみに選挙中の2月1日にも、与党議員がいなくなった地域は予算がごっそり削られる、という趣旨の街頭演説の動画を自分のFacebook(w)に上げていました。発言は突発じゃなかったわけです。

国交省の言い分

国交省は10月6日に精査結果を出しました(国土交通省)。要点はこうです。

区分(想定国費・百万円) 2025年度 2026年度 増減
那須烏山市エリア合計 325 392 +20.5%
 うち市の事業 142 105 −26.2%
 うち県の事業 183 287 +56.6%
那珂川町エリア合計 262 319 +22.0%
 うち町の事業 49 23 −54.1%
 うち県の事業 213 297 +39.6%
  • 簗氏が2市町の配分を問い合わせたのは2026年2月中旬ごろ。予算成立(4月7日)の前。その場では「わからない」と答えた
  • 報道の「那須烏山市64%減」は、国交省が簗氏に説明するため一部の事業だけを整理した数字。新規3事業を含めると26.2%減
  • 簗氏による減額の働きかけや圧力はなかった(時事通信)。照会は副大臣と官房長が受け、担当部局には伝わっていない(共同通信)

で、国交省の結論は「県の事業を足せば2市町への配分はむしろ増えている、だから問題ない」。……いや、ちょっと待って。

その物差し、減った側にしか当ててないよね

「県事業を足せば増えている」という物差しを、国交省は減額された2市町にだけ使っています。じゃあ増額された側、簗氏を応援した那須町と那須塩原市は県事業込みでどうなのか。そこは一切出していない。比べられるのは「市町が自分でやる事業」の増減だけで、そこではこうなります。

市町が自ら行う道路事業の交付金の前年度比。青が簗氏を応援した首長の市町、赤が渡辺氏を応援した首長の市町。
市町 首長の支援先 市町事業の交付金 出所
那須町 簗氏 約34%増(約1,650万円) とちぎテレビ・東京新聞
那須塩原市 簗氏 約11%増(約1億2千万円) とちぎテレビ・東京新聞
大田原市 渡辺氏 約23%減 日本テレビ
那須烏山市 渡辺氏 26.2%減 国交省
那珂川町 渡辺氏 54.1%減 国交省
出典:那須町・那須塩原市・大田原市は自治体の公表を報じた記事の数字、那須烏山市・那珂川町は国交省の「想定国費」。出所は揃っていない。矢板市は比較から外した

きれいに向きが分かれている。国交省の説明に欠けているのは、少なくとも3つです。

  1. 同じ物差しで比べていない。減額側には県事業込みの総額を出し、増額側の県事業込みは出していない。増額側も県事業込みで同じように増えていたら、「市町事業の向きが支援・非支援で逆」という事実だけが残る
  2. 市町事業の増減の理由を説明していない。「要望や進捗、重点配分対象の有無等を総合的に勘案」と言うだけで、なんで非支援の3市町で減って支援の2市町で増えたのかには答えていない
  3. 否定の根拠が聞き取りだけ。配分決定前の照会が影響していないことを、配分作業の記録などで示していない

もちろん、5つの市町の比較だけで「簗氏が削らせた」とは断定できません。交付金は毎年要望や進捗で動くものだし、数字の出所も揃っていない。でも「偶然です、働きかけはありませんでした」で済ませるには、説明が足りなさすぎるでしょ。

そして、どっちに転んでも簗氏がアウトなのは変わりません。本当に削らせたなら論外。削らせていないなら、配分前に問い合わせて、結果を自分の手柄みたいに地元で吹聴して、有権者を脅す材料に使ったことになる。本人はあとで「高揚感があり少し誇張した表現をしてしまった」と言っています(共同通信)。誇張で済む話じゃないですよね。

⑧ 問題発言と不祥事の「系譜」

今回のは初犯じゃありません。並べるとパターンが見えます。問われると答えず、撤回もしない。

時期 何があったか 本人の対応
2021年1月 選択的夫婦別姓に賛同する意見書を採択しないよう、同党の都道府県議会議長に求める文書に有志50人の1人として連名 ―
2021年5月20日 LGBT理解増進法案を議論した党会合で、性的少数者について「種の保存」に背くという趣旨の発言(共同通信など) 非公開の会議だとして回答拒否。2023年の衆院文科委でも「仮定のこと」として答弁を控える(しんぶん赤旗)
2024年2月 派閥裏金事件で5年間計1746万円の不記載が判明。役職停止6カ月 政倫審の出席要請に応じず。2024年12月に起訴猶予
2026年2月1日 選挙中、与党議員がいなくなると予算が削られるという趣旨の演説動画をFacebookに投稿 ―
2026年5月24日 2市町の道路予算を「大幅にカットした」発言 当初は「大臣就任前の活動」と回答拒否。10月5日に撤回
2026年9月18日 農水相就任会見でLGBT発言を問われる 「公の場での発言は差し控える」
2026年10月 熊本地震被災地の視察で同行記者を「クソみたいな質問をしてくる記者」と首長らに語ったと週刊文春が報道(共同通信) 「明確に覚えていない」
2026年10月 2024年・2026年の出陣式で支持者計約200人をシャトルバスで無料送迎したと週刊文春が報道 担当者が事前に選管に確認した → のちに撤回
出典:簗和生(Wikipedia)、共同通信、しんぶん赤旗

シャトルバスの費用は選挙運動費用収支報告書に載っています。無料送迎が財産上の利益の供与にあたるかは、法律家の間でも見方が割れています。ここは白黒をつけずに置いておきます。

⑨ なぜ高市首相にこんなに可愛がられたのか

裏金の処分歴があって、LGBT発言も撤回していない人を、なんで初入閣させて、問題が出ても「働いて仕事で返せ」と続投させたのか(時事通信)。理由は4つに整理できます。

  1. 思想の同志:保守団結の会。2020年に稲田朋美氏の勉強会から伝統的家族観を重視する議員が分かれてできた会で、安倍元首相と高市氏が顧問。保守派議員の共著書では簗氏が「『保守団結の会』の誕生」の章を書いています(飛鳥新社リリース)。創設にかなり深く関わった1人とみられます
  2. 政策の同志:積極財政。「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の副代表(公式プロフィール)。高市政権の財政路線とドンピシャというかイエスマン。または太鼓持ち
  3. 上司と部下:農林部会長。2021年に党農林部会長になったとき、直属の上司の政調会長が高市氏
  4. 総裁選での忠誠。2025年10月の総裁選決選投票で高市氏に投票し、「確固とした国家観を持ち、私と政治信条を共にしている」と理由を語っている。2024年の総裁選でも決選投票は高市氏 (1回目は茂木氏)。以後は筆頭副幹事長として高市総裁を支えた

ここからはわたしの見立てです。高市氏は党内の多数派じゃないし、推薦人集めにも毎回苦労してきた人。数の少ない「本物の同志」を厚遇したくなるのはわかる。でもその分、身内の不祥事に甘くなって判断が遅れた。続投指示から1週間で事実上の更迭ですからね。

⑩ 「中国系メガソーラーと戦ったから潰された」はデマ

辞任前後からSNSで広がったのがこれ。「簗氏は上海電力のメガソーラーと戦った英雄で、だから親中勢力に潰された」(posfieのまとめ)。調べました。

簗氏が実際にやったこと

2014年6月4日の衆院農林水産委員会で、簗氏は地元・那須烏山市の計画を取り上げています。国会会議録から要点を引きます。

私の地元の那須烏山市において、中国系企業である上海電力日本株式会社が大株主である会社が太陽光発電所の建設の動きを始めています。土地は廃業したゴルフ場で、……四十八メガワット規模の施設……問題にされているのは、この事業者が土地利用、開発行為に必要な県や市との事前協議を済ませていなかったということであります。
衆議院 農林水産委員会 第18号(2014年6月4日)簗和生委員の発言より抜粋 国会会議録

地元の事前協議の問題をもとにした、まっとうな質問です。そこは評価していい。

で、その発電所はどうなったか
項目 内容
名称 SJソーラー那須烏山(定格出力47.52MW、廃棄したゴルフ場を活用)(上海電力日本 公式)
場所 那須烏山市横枕。旧「星の郷ゴルフ&ホテル烏山」跡地(ゴルフ会員権ニュース 2014年6月)
FIT認定 2013年2月28日
運転開始報告 2021年4月 (FIT認定情報ポータル。第三者の集計サイト)

もう動いてるんですよ。簗氏が質問したのが12年前、稼働してから5年以上。いま潰すべき「計画」なんて存在しない。

そもそも辞任の理由は、本人が認めて撤回した「予算カット」発言と、陣営のバス送迎です。太陽光は1ミリも関係ない。しかも簗氏を責めたのは野党だけじゃなくて、萩生田幹事長代行は「おごり」と批判し、地元の県連幹部も説明責任を求めていた(共同通信)。保守系の論客にも辞任を求める声がありました。全員が親中勢力なんですかね。ww

12年前のまっとうな質問と、今回の有権者を脅す発言は、まったく別の話です。混ぜちゃダメ。

⑪ 簗氏はなぜ地元で勝てないのか

ここまでをまとめると、こうなります。

  1. 地元に根がない。東京で育って東京の学校を出て、33歳で公募で来た。最初は県議の組織を「借りて」戦っていた
  2. その組織の要と決裂した。選対本部長だった県議と仲違いし、後援会のトップが約1年半いなかった
  3. 地方選で敵を増やした。首長選のたびに自派を立てて負け、勝った首長が全員「反簗」で固まった。2026年衆院選では6市町のうち3市町の首長が相手についた
  4. 裏金で信用を落とした。しんぶん赤旗の現地取材には、裏金問題で支持者が逃げたという声が出ている
  5. 力で従わせようとした。選挙中から「与党議員がいなくなれば予算が削られる」、選挙後は反簗の町を名指しして「カットした」。地元紙の取材も拒否
  6. 総理の応援でも埋まらなかった。全国の高市人気より、地元の人間関係のほうが強かった

国政では「保守の論客」として重用された。でも選挙区ではずっと「上から来た人」のまま、地元の保守とぶつかり続けた。今回の失言は、その14年分の確執が「予算」という言葉で噴き出したものだと思います。

最後に

今回いちばん思ったのは、「自民か野党か」で政治を見ていると、この件は1ミリもわからないということです。

栃木3区で起きていたのは保守どうしの内戦でした。負けたのは自民公認、勝ったのも自民党籍の保守。渡辺家の人は負けた側にいて、渡辺家と無関係の渡辺さんが勝った。そして負けた側の現職が、自分に投票しなかった町の予算を「切った」と自慢した。

道路予算は税金で、議員の財布じゃありません。本当に削らせていなくても、「俺に逆らうと予算が減るぞ」と思わせた時点で民主主義としてはアウトです。そして国交省も、「偶然です」で済ませるなら、増えた側の内訳も同じ物差しで出すべきでしょ。

辞めて終わり、じゃなくて、そこはちゃんと説明してほしいですね。

異世界漫画好きなんですが、これ面白いです。全巻買ってます。勇者とかでてこないよ。可愛い女子と美味しそうな創作料理と差別問題かな

ホビージャパン
¥682(2026/10/15 15:24時点)
この記事の検証について
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原典確認済み(24件):簗氏の公式サイト(生年月日・高校・大学・大学院・議員秘書・研究員)/自民党サイト(選挙区・当選回数)/国交省の精査結果(照会時期・予算成立日・交付金6区分の数値・64%の算出根拠)/栃木県選管の2014年届出票(喜美氏の無所属出馬)/国会会議録 2014年6月4日(上海電力系計画・48MW規模・事前協議未了・外資参入の質問)/上海電力日本の公式サイト(那須烏山発電所の出力47.52MW・ゴルフ場跡地)。

報道・二次情報ベース(57件):辞任・発言・謝罪・国会答弁の経緯(日経・Bloomberg・時事・共同)/2026年・2024年衆院選の得票、市町別得票、首長の支持、県連の処分、地方選の構図、三森氏との確執、後援会会長の空席(下野新聞。背景記事はサイトが自動取得を拒否したため、検索抜粋とブログ転載で確認)/那須町・那須塩原市・大田原市の交付金増減(東京新聞・とちぎテレビ・日本テレビ)/シャトルバス、記者への発言、「誇張」の釈明(共同通信)/渡辺喜美氏の経歴と離党理由(選挙ドットコム・コトバンク・テレビ東京)/保守団結の会、高市氏との関係/メガソーラー擁護論の広がり(posfie)。

確認できなかった主なもの(13件・本文に【要確認】):簗氏の出身地が小金井市/後任が武部新氏(方針の報道段階のため本文では触れず)/ポスター撤去の書類送検(とちぎテレビ原文未確認)/週刊新潮の「対立相手の排除工作」報道(本文では触れず)/上海電力系発電所の運転開始2021年4月(第三者集計サイト。資源エネルギー庁の公表データでの照合が必要)/簗氏が保守団結の会の創設に深く関わったこと(共著書の章題からの推測)/渡辺真太朗氏の経歴の細部(英語版Wikipedia)/2021年1月の夫婦別姓文書への連名/2024年12月の起訴猶予/政倫審への不出席/2024年総裁選1回目で茂木氏に投票/2025年2月の高市氏講演会への出席(本文では触れず)/就任会見でのLGBT発言への回答(ブログ経由の要約のみ)。


編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年10月15日の記事より転載させていただきました。

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