
現在、世界の産業や文化はAIの活用に邁進し、いかにして先行者利得を独占するかに狂奔している。そのAIに関わる設備・システムは、レアアースと呼ばれる希少金属を重要素材とする電子部品で構成されており、AIの普及に伴ってレアアースの需要は一気に高まり、国レベルの戦略物質として地政学的重要性を持つに至っている。
レアアースの生産には、鉱物資源そのものの確保のほかに、生産現場の労働条件・環境条件が大きく影響する。現在市場に出回っているレアアースは、特定の国での劣悪な条件下の労働と環境汚染を続けながら、その犠牲の上で生産されており、極言すれば、搾取と環境汚染で成り立つ生産体制ということができよう。そういう生産をベースに戦略的価格で取引されるレアアースを使った電子機器によって構成されているのが、現在のAIシステムである。
AIを活用しようとする世界では、AIの機能・性能・有効性ばかりが注目され、素材生産過程での労働条件などの人権問題や環境汚染について疑問を投げかける論説はほとんど表に出ていない。
しかし、上述のように、レアアースは、「国民の人権の抑圧と環境汚染の下で生産された違法製品を、国や市場が『お墨付き』を与えて洗浄して売り出した(=ロンダリングした)製品」ということである。資金面での違法性を浄化するのをマネー・ロンダリングというのと対比すれば、AI世界は、「レアアース・ロンダリング」と言っても過言ではない状況の上に成り立っていると言えよう。
レアアース生産国は、その国の地政学的立場から、やむを得ずロンダリングに協力させられている国か、または、意図的に人権や環境に目をつぶって(つぶらせて)レアアース生産を牛耳り、戦略的手段に使う目的を持った国が中心となっている。
そういうレアアースを奪い合って獲得し、それを使って生産・建設されるAIデバイスやデータセンターが先進国の急成長・大収益を支えているのである。
先進国は、自分の手を汚さずに、他国を汚損した結果を収奪して得られたレアアースを使って大儲けをする空間に住んでいるわけであり、近い将来、是正を迫られる事態に至るのは避けられないものと予想される。
AIの機能は最大限に活用して人間社会の進歩を図るべきであるが、そのAIの背景にある不適正な空間は正していかなければならないであろう。
本稿では、レアアースに関わるロンダリングの状況と、それを是正するためにどういう考え方を採用していったらよいかについて論考したい。
レアアース・ロンダリングの状況
現時点でのレアアースの種類、使用分野・数量、生産国・生産量、生産に伴う人的・物質的条件など、レアアース供給に関わる状況を以下に示す。
1. レアアースの種類と主要使用対象分野
レアアースの主要用途を表1に示す。

表1 7種の中重希土類の主な用途
出所:JOGMEC「中国によるレアアースに対する管理強化に係る動向」などからジェトロ作成
AIにおけるレアアースのニーズの中心は、演算装置である半導体チップそのものよりも、AIが作動するデータセンターの冷却・ポンプ・電源などのインフラに使われるモーター用磁石、およびロボットやフィジカルAIに使われるモーター用磁石としての需要が大きい。
2. レアアースの主要生産国・生産数量(USGS)
2025年のレアアース生産量で圧倒的な1位となっているのが中国で、生産量は約27万トン、世界全体の約39万トンに対して69%に相当する。
2位はアメリカの約5万1,000トン、3位はオーストラリアの約2万9,000トン、ミャンマー(ビルマ)が約2万2,000トンで続く。ミャンマーでの生産は実質的に中国企業によって運営されている。
上位数か国だけで世界生産の大部分を占めており、レアアースの鉱山生産が特定の国に集中していることが分かる。
3. レアアースの生産に伴う副産物
レアアース1トンを生産する際に発生する副産物の量を図1に示す。

図1 レアアース生産に伴う副産物
本図はハーバード大の推計であるが、中国環境科学院のデータ※1)では、1トンのレアアース精鉱を生産するのに、約7トンの硫酸、200〜300m³の廃水、1〜1.4トンの放射性廃棄物が出るとされている。
いずれにしても、レアアース精製過程では大量の強酸・強アルカリが使用され、廃液に放射性物質(トリウム、ウラン)や重金属(鉛、カドミウムなど)が含まれる。
これらの副産物を、健康基準・労働基準・環境基準を満たしながら処理・無害化・保管するのは並大抵のことではなく、生産コストの大幅上昇とレアアース製品の価格高騰を生じさせることになる。
米国は、1980年代前半まで、レアアースの最大の生産国だったが、環境意識の高まりを受けて対策コストが増加し、企業の撤退が相次いだ。その隙をついて中国が安価な人件費と緩い環境基準を武器にして、急速にアメリカに取って代わった。アメリカは、いわば、規制の緩い中国に生産拠点を移して、人権と環境の問題を中国に付け替えたようなものだった※2)。
しかし、今、そのしっぺ返しを中国のレアアース輸出規制の形で受けているということになる。
このことは、同時に、次のような事実をも物語っている。
すなわち、環境意識の高まりを受けて対策コストがかさみ、レアアース生産から撤退していった米国の企業が、求められた対策を実施しながら現在まで生産を続けていた場合のレアアースの価格はどうなっているであろうか。その価格こそが人権や環境の基準を満たしつつレアアースを生産する真っ当な価格であると考えるべきだ、ということである。
一例として、2025年から生じている欧州産と中国産のジスプロシウムの価格差(図2)を見てみよう。価格差はほぼ10倍になっており、これが、人権や環境の基準とそれに伴う規模の制約までを含めた生産コストから決まってくる価格の現実と考えられる。

図2 欧州産と中国産の価格差
それはすなわち、現在のレアアースの価格は、中国を中心とするレアアース供給国の人権・環境を犠牲にした上に成り立っている価格であり、そういうレアアースを用いて安価に生産されたAIシステムも「倫理的に調達された(Ethically Sourced)製品」とは言えないということである。
そのことを関係国の政府や世界市場が不問に付し、戦略物質や重要製品であるという「お墨付きを与える」ことによってロンダリングされて、社会インフラの中に浸透してきているわけである。
AI世界は、レアアース・ロンダリングの上に成り立っている不適正空間なのではないか?
是正はできるのか?
世界は、レアアース・ロンダリングをあてにしたAI急成長をやめるべきだ。
と言っても、世界の趨勢がAI活用に向かって爆走している以上、日本も同等以上には成果を出していかねばなるまい。そうであるならば、「人権と環境を抑圧し犠牲にできる国」でしか生産できない安値製品ではなく、真っ当な労働条件と環境対策の下で生産される(=倫理的に調達された)高値のレアアースを使ってAI産業を成り立たせられるような高度な産業体制を作るべきであろう。そして、そのこと自体を競争力の源泉として世界に働きかけるようなやり方を取っていくべきではないか。
今のレアアース生産体制が市場を席巻している状況では、「人権と環境を抑圧し犠牲にできる国」でないと主たる生産国にはなれないのだが、AIを活用する世界としては、人権と環境を犠牲にしない持続可能なサプライチェーンを構築し、ロンダリング製品を調達しないという決意を持って、その結果生ずるであろうレアアースの価格高騰や供給逼迫を甘受すべきである。
AIを構成するすべての材料資源をサーキュラーエコノミー(CE、循環経済)※3)の検討対象として取り上げ、設計当初から資源の回収・再活用を計画し、一次資源の投入量を最小限に抑えることによって、資源供給段階での不適正状態を脱却していくことが重要と考えられる。AIシステムをCE思想で設計する、ということである。
そういう公正なサプライチェーンの下で構築できる設備の範囲こそが、AIシステムの活動領域のはずである。今、レアアースを必要とする分野は、AI向け電子機器に限らず、多くの民生品向け電子機器もあり、当然その中での適正配分というものが必要になってくる。また、AIにだけ特別に大量の化石燃料発電の電力を振り向けるわけにもいかない。
原子力発電を使わずにAIの拡大を進めることは、電源全体のパイを狭め、AI世界に割り当てられる電力量をますます制限することになって、AIの作動を制約することになろう。米中の大手AI企業はAIデータセンターに原子力発電所を併設する動きを取り始めている。データセンターは24時間稼働なので、太陽光や風力では対応できない。
今注目されているフィジカルAIが実用的に普及すると、さらに大量の小型強力モーターが必要であり、ネオジム・ジスプロシウムなどモーター用のレアアースの需要が急増し、自動車用・ロボット用その他のモーター需要と競合して、世界中で逼迫することになろう。
最近、AI開発のリーダーメンバーから、開発のスピードを落とすべきだという考え方が提示されるようになり始めた。これは、AIが社会から受け取れる資源に限界があることを開発当事者が感じ始めたことが背景にあるのではなかろうか。
同じことは、データセンターや半導体製造工場の冷却に不可欠な水資源についても言える。水も不足や枯渇が懸念されており、ここもロンダリングが入り込むリスクを抱えている。
以上を総括すると、AIの限界は、AIシステム自身の中にあるというよりも、地球と人類という限られた資源の中でAIに正当に振り向けられる資源の量の範囲内での作動に限られる、ということであり、それらの外的要因がAIの今後の進展をコントロールすることになるだろう、ということである。
【参考文献】
※1)繁田慎吾「レアアースの精製の克服すべき問題」2025.11.22
※2)日本経済新聞「レアアースの新鉱脈 下 環境配慮の採掘・生産に力」2026.8.14
※3)野田由美子「サーキュラーエコノミーが未来を拓く」『学士會会報』No.980(2026-V)







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