黒坂岳央です。
最近、「工夫すれば誰でもFIREできる」という趣旨の発信をよく見かける。サイドFIRE、バリスタFIRE、コーストFIRE。次から次へと新しい「〇〇FIRE」が生まれ、FIREはいつの間にか手の届く夢として売られるようになった。
筆者はここに大きな勘違いがあると思っている。これらの〇〇FIREは、すべて労働収入が前提だからだ。働かなければ生活できない状態は、FIREではない。
自分が指摘したいのは言葉の定義の違いというつまらない話ではない。こうした〇〇FIREという言葉は、記事や動画の再生数を稼ぎ、コンサルティングやスクールを販売するためのマーケティング商品になっているのではないかと思うのだ。

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真のFIREは「働かなくていい」
FIREとは経済的自立と早期退職を意味する。ここでいう自立とは、働いていないことではなく、働かなくても生活が破綻しないことだ。仕事は「生きるための手段」ではなく、「自己実現や趣味」に昇華される。
生活費のために毎月正社員だろうが、カフェバイトだろうが働かなければ生きていけない人は、どれだけ投資をしていても自立とはいえない。違いは労働の有無ではなく、労働の必要性にある。
この基準で見れば、答えは明白で「〇〇FIRE」は全部労働必須である。サイドFIREは副業収入、バリスタFIREはアルバイト収入がなければ生活が回らない。コーストFIREに至っては、現在の生活費をすべて労働でまかなう。厳しく言えば「投資している労働者」でしかない。いや、非正規雇用なら正社員よりも立場は厳しい。これではFIREでもなんでもない。
〇〇FIREは情報商材の商品
では、なぜこれほど〇〇FIREが増えたのか。理由は単純で、売れるからである。だが本来のFIREは高嶺の花だ。数字を出せばすぐ分かる。
子供のいる家庭なら、生活費は年600万円程度かかる。4%ルールでも1億5000万円、40年以上の取り崩しに耐えるよう3%で見積もれば2億円が必要だ。よく聞く「資産1000万円でもFIRE」は、4%で取り崩しても年40万円にしかならない。
一方、会社員の生涯賃金は2億円前後、高収入のエリートでも3億円程度だ。20代、30代のうちに2億円を残すのは、給与だけではまず無理である。現実のルートは起業、投資、相続などに限られる。FIREとは本来、誰にでもできるものではないのだ。
ところが「FIREには2億円必要なので普通の会社員には無理」と言われて、セミナーに申し込む人はいない。一方で「資産1000万円でもFIREできる」と言われれば、自分にもできるかもしれないと思う人が出てくる。
このように条件を緩めて、夢を売れば客は増える。その夢を入り口に動画の再生数を稼ぎ、投資スクールやコンサルを売る。〇〇FIREとは、FIREという高級ブランドの名前を借りたアウトレット商品のようなものだ。
自分は他人が投資をしながら働く生き方を否定するつもりはない。労働時間を減らして自由な時間を増やすのは合理的な選択だろう。
問題は、それにFIREという名前を付けて売ることにある。これでは本来、FIREしてはいけない側の人間もミスリードされると考えるからだ。
FIREを売る側は責任を取らない
最も危険なのは、値下げされたFIREを信じて安定した仕事を手放す人が出ることだ。これが先ほどいった「FIREしてはいけない側の人たち」である。
テレビでも時々、「FIRE卒業」「会社員への出戻り」といった話題が取り上げられる。生活費のために再就職せざるを得なかったのなら、それはFIREを卒業したのではない。最初からFIRE出来ていなかったのだ。仮に資産が2億、3億円あれば、相場が多少崩れたくらいで働きに戻る必要はないのだ。
FIREを煽った発信者は再生数と売上を手にするが、退職に失敗した人が失った収入とキャリアの責任までは取らない。損をするのは、いつも夢を買った側で、夢を売る側は収益を確保した時点で「利益確定」して本物のFIREを達成してしまう。
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事業で数億円を築いた人の多くは、FIREするために起業したわけではない。仕事に打ち込んだ結果、気づけば働く必要がなくなっていただけだ。
そう。皮肉なことに、FIREを夢見て会社を辞めた人は生活費のために働きに戻り、FIREなど意識せずに働き続けた人がいつの間にか経済的自立を手にする。FIREとは目指してなるものではない。仕事の結果として、勝手についてくるものなのである。
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