イスラエルによるパレスチナへの軍事行動をめぐり、国際社会では経済的な関係を見直すべきだとの議論が続いている。その一つが、ボイコットや投資撤退、制裁を通じて圧力をかける「BDS運動」だ。
日本でも、産業用ロボット大手のファナックや商社などを対象に、イスラエルの軍事産業との関係を見直すよう求める動きがある。なぜ日本企業がターゲットになるのか。そして、日本でBDS運動を行うことには、どのような意味があるのだろうか。
BDS Japan Bulletinへの取材を通じて、日本企業の製品・技術の軍事利用と、企業に求められる説明責任について考える。

イスラエルの砲弾製造施設で稼働する日本製ロボット
BDS Japan Bulletin(以下、BJB)が重点的なキャンペーン対象としている企業の一つが、ファナックだ。
BJBによると、イスラエルの軍需企業エルビット・システムズの砲弾製造施設で、ファナック製の産業用ロボットが複数使用されているという。BJBは、これらのロボットがイスラエルによるガザでの軍事行動に関連する砲弾の製造に使われているとして、同社に説明と対策を求めている。
一方、ファナックは過去の説明で、イスラエルに軍事用途として製品を販売した記録はないとの立場を示しているとされる。
この問題の焦点は、メーカーが軍需企業に直接販売したかどうかだけではない。
BJBによれば、ファナック製品の多くは、システム・インテグレーターなどの中間業者を通じて販売される。同団体は、メーカーが直接販売していなくても、第三者を経由して製品が軍事用途に転用される可能性をどこまで把握し、防止する努力をしているかが重要だと指摘する。
BJBは、2024年のハフポストへの回答などを根拠に、ファナックが第三国経由の販売について、最終的な使用者の把握や販売先の管理を十分に行っていないと批判している。
ただし、製品が軍事施設で使用されていることと、メーカーがその用途を認識していたこと、あるいは軍事行動への法的責任を負うことは、それぞれ別の問題だ。製品の流通経路や販売時期、メーカー側の認識、実施していた管理措置などを確認しなければ、責任の範囲を判断することはできない。
BDSが求めるのは、取引停止だけではない
BDSは、Boycott(ボイコット)、Divestment(投資撤退)、Sanctions(制裁)の頭文字を取った運動だ。パレスチナの市民社会による呼びかけを起点に、イスラエルによる占領やパレスチナ人への権利侵害に関与する企業・機関などに対し、経済的・政治的な圧力をかけることを目指している。
BJBは、日本企業を対象に運動を行う理由について、次のように説明する。
「イスラエルのジェノサイド・アパルトヘイト・戦争犯罪に加担している日本企業や日本の政府に対し、加担をやめるよう働きかけることは、日本の市民として取り組む責任があると考えています」
これはBJBの政治的・法的評価を示すものであり、ジェノサイドの成立などをめぐる司法判断と同一視することはできない。国際司法裁判所(ICJ)は、南アフリカがイスラエルをジェノサイド条約違反で提訴した事件で、2024年に暫定措置を命じた。ただし、暫定措置命令は、ジェノサイドがあったとの最終的な認定ではない。
BJBはファナックに対し、問題についての公式見解を示すこと、製品がエルビット・システムズの施設にある経緯を調査すること、軍事転用を防ぐ措置を講じることなどを要求している。さらに、国際的な人権規範に基づき、戦争犯罪などへの関与が疑われる事業に関わらないための自主的な規定を設けるよう求めている。
つまり、同団体の要求は、すべてのイスラエル企業との取引を一律に停止することだけではない。少なくともファナックのケースでは、製品の流通経路を調べ、軍事転用を防ぐための具体策を講じ、企業として説明することが中心的な要求となっている。
BJBは、企業をキャンペーン対象に選ぶ際、権利侵害への関与を示す強い証拠があること、問題となる権利侵害が深刻であること、社会的関心やキャンペーンの効果が見込めることなどを考慮すると説明する。
日本市場は小さくても、意味があるのか
日本でBDSを行うことに、どの程度の実効性があるのだろうか。
BJBは、日本市場の規模だけで効果を測るべきではないと主張する。同団体によれば、イスラエルの政府・企業は日本でビジネス拡大を進めており、とりわけセキュリティ産業や防衛分野への政府支出の拡大が見込まれる日本市場を重視しているという。
また、日本がアジアにおけるイスラエル企業の事業拠点となれば、他の市場への展開にも影響し得ると指摘する。BJBは、日本企業によるイスラエル企業の買収などを例に挙げ、日本での企業活動が国際的なビジネス展開と結びついていると説明する。
同団体が重視するのは、消費者による不買だけではない。投資撤退、企業への直接的な働きかけ、政府への政策要求も同様に重要だという。ただし、こうした取り組みを機能させるためには、市民の関心を高めることが欠かせないとする。
「市民の関心がないところで一部の市民団体が要請行動を行っても、企業・政府が耳を傾ける可能性は極めて低いからです」
一方、BDS運動が実際にどの程度企業の行動を変え、イスラエル政府の政策に影響を与えてきたのかは、個々のキャンペーンについて具体的な成果を検証する必要がある。日本での活動についても、企業の取引変更や情報開示、政策の見直しなど、確認可能な結果に基づいて評価することが求められる。
企業は製品の使われ方にどこまで責任を負うのか
今回の問題は、特定の企業とイスラエルとの関係にとどまらない。民生用として販売された製品が、第三者を経由して軍事目的に転用された場合、メーカーはどこまで責任を負うのかという、より広い問いにつながっている。
BJBは、工作機械メーカーのDMG森精機が、製品の不正転売を防ぐために移設検知装置の搭載を進めている事例を挙げる。同社は2023年、中国の核開発関連機関で自社製品が使われているとの報道に関連し、2006年からの取り組みと搭載対象の拡大について説明している。
同団体は、このような対応を、製品の不適切な転用を予防するための取り組みとして評価している。
もっとも、大量破壊兵器に関わる輸出規制と、通常兵器の製造に使われる可能性のある製品の管理では、法的な規制やリスクの性質が異なる。個別の事例を比較する際には、対象製品や適用される法令を確認する必要がある。
日本では、外国為替及び外国貿易法(外為法)などに基づき、安全保障上の懸念がある製品・技術の輸出が規制されている。しかし、すべての産業用ロボットが、軍事用途に転用される可能性だけを理由に一律に輸出禁止となるわけではない。
また、法令上の輸出規制に抵触しないことと、企業が人権上のリスクに対応する必要がないことも同義ではない。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」は、企業に対し、自社の事業活動が人権に及ぼす負の影響を特定し、防止・軽減するための取り組みを求めている。
重要なのは、製品が軍事用途に転用されたという事実だけで企業を断罪することでも、直接販売していないという理由だけで責任を否定することでもない。企業がリスクを把握するためにどのような調査を行い、予防措置を講じ、問題が判明した後にどう対応したのかを明らかにすることだ。
日本企業と政府に問われる説明責任
今回、ファナック、伊藤忠商事、経済産業省にも取材を申し入れ、製品の流通管理、イスラエル企業との事業関係、輸出規制の運用などについて質問した。しかし、記事の掲載時点までに、各者から取材の可否を含め回答は得られなかった。
そのため、企業側の認識や具体的な管理措置、政府の制度運用については、今回の取材だけでは確認できていない。BJBの主張をもって、各社の関与や法的責任が確定したと結論づけることはできない。
それでも、日本企業の製品が海外の軍事産業で使用されている可能性が指摘されたとき、企業はどのように事実関係を調査し、説明すべきなのかという問題は残る。政府にも、既存の輸出管理制度がどのようなリスクを対象とし、どこに限界があるのかを説明することが求められる。
BJBは、日本の読者に最も伝えたいこととして、企業や投資家がイスラエルとの経済関係を維持し、政府がそれを承認・促進することが、パレスチナの状況を変えるうえでの障害になっていると指摘する。そのうえで、市民社会によるBDS運動が、経済的・政治的な支援を見直すための重要な手段になると主張している。
BDSを支持するかどうかは、読者それぞれが判断すべき問題だ。しかし、企業の製品がどこで、何のために使われているのか、そのリスクを企業がどこまで把握しているのかを知ることは、運動への賛否とは別に重要である。
問われているのは、遠い国の紛争に日本が関係しているかどうかだけではない。日本企業が国際的な人権規範をどう実践し、政府がどのような制度を設け、市民がその実態をどう検証するのか。BDSをめぐる議論は、日本の企業活動と社会の責任を考える手がかりにもなっている。







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