COP31の不都合な真実:それでも、世界は石油で動いている

10月19日に、America Out Loud NEWSにCOP31についての記事が掲載されました。

COP31’s inconvenient truth:The world still runs on oil

COP31’s inconvenient truth: The world still runs on oil - America Out Loud News
Bonn, and the Iran war before it, have reminded the world how fragile the supply chains for electricity and hydrocarbon-...

共同執筆者のロナルド・スタイン(Ronald Stein)氏は米国登録技術士(P.E.)で、1964年に米フルアー社でキャリアを始め、ベクテルなど米大手エンジニアリング会社で長年、製油所の設計・建設に携わりました。現在はハートランド研究所およびCFACTのエネルギー・リテラシー政策顧問を務めています。

本稿は、America Out Loud NEWSの記事を要約したものです。

ボン会合が露わにした、足並みの揃わない世界

2026年6月、ドイツ・ボンで開かれた国連気候変動会議は、本年11月にトルコ・アンタルヤで開催されるCOP31の地ならしとなるはずだった。しかし実際に浮き彫りになったのは、脱炭素に向けた世界の一致がいかに遠いかという現実である。

各国により深い削減を促す「緩和作業計画」では、より強いコミットメントを求めるEUに対し、多くの国が「この場は情報交換のためのものであり、新たな義務を課す場ではない」と反発した。

結論は出ず、COP31に先送りされた。1.5℃目標をめぐる対立はさらに鋭く、EUとスイスはサウジアラビア、中国、インド、ロシアなどが化石燃料の利益を守るために気候科学を損なっていると非難した。

その背後には、国際的な議論が正面から向き合おうとしない問いがある。

  • 1.5℃目標はそもそも達成可能なのか?
  • 数値への固執よりも、エネルギー安全保障と現実的な適応を重視すべきではないのか?
  • 世界経済は、原油を精製した原料から作られる6,000品目以上の製品を基礎とし、輸送用燃料で動いている。電気はiPhoneを充電できても、風力や太陽光で、そうした製品が作れるのか?

今回初めて、気候政策と貿易に関する正式協議も行われた。焦点はEUの炭素国境調整措置(CBAM)で、EUはこれを環境上の必然と位置づけるが、途上国は「気候責任の言葉をまとった保護主義」と見ている。

国連のサイモン・スティール事務局長は閉会にあたり、各国が他国の行動を待つ「あなたが先に主義(you-first-ism)」を嘆いた。だが各国の協力が進まないのは頑固さのせいではない。自国の産業、電力の安定、輸送燃料と石油由来製品のサプライチェーン、そして国民を優先しているからであり、責任ある政府なら、そうせざるを得ない。

なお、COP30(ブラジル・ベレン)では、参加者のプライベートジェットが317回着陸し、EurocontrolのSmall Emitters Toolによる推計では1,541トンのCO₂を排出した。「あなたが先に主義」は交渉姿勢だけでなく、参加者自身の移動手段にも及んでいる。

イラン戦争は好機か、それとも概念の混同か

スティール氏はこれに先立つパリでの準備会合で、イラン戦争が風力・太陽光への移行を「急速に加速させている」と述べた。再エネは安全で安く、海峡封鎖や紛争の影響を受けないという主張である。

しかし、石炭・天然ガス・原油は産業革命以来、エネルギー源であるだけでなく、鉄鋼、セメント、肥料、医薬品、プラスチックの原料として文明を支えてきた。風力・太陽光は発電やEV化による輸送用エネルギーの一部を代替できても、化学原料としての炭化水素を代替する技術はまだない。

戦争で石油・ガスの供給が途絶えたときに必要なのは、安定的で安価な電力と燃料と製品であって、間欠性電源への賭けを加速することではない。夜に発電しない太陽光、風が止めば止まる風力は、危機下では病院、軍事インフラ、食料供給にとって生死に関わる脆弱性となる。

コスト面でも問題がある。「再エネは安い」の根拠とされるLCOE(均等化発電原価)は発電設備単体のコストしか反映せず、バックアップ電源、蓄電、送電網整備、需給調整の費用を含まない。これらを含むフルコスト(FCOE)で見れば、その主張の説得力は大きく揺らぐ。送電網が未整備の途上国では、なおさらである。

ネットゼロを本当に最優先しているのは誰か

実際に期限付きネットゼロを本気で掲げているのは、EUの一部にすぎない。主要排出国の多くは、国益、産業競争力、エネルギー安全保障を優先して電力政策を進めている。

その典型が中国である。年間排出量は約117億トンで、世界の化石燃料由来CO₂の約31%を占める。2030年ピークアウト、2060年カーボンニュートラルを公約しながら、2023〜24年には約94.5GW分の石炭火力新設を承認した。これは2015年以来の高水準である。

この乖離こそが世界の気候をめぐる計算の核心であり、先進国の市民がどれほど犠牲を払っても相殺できない。背景には、中華人民共和国建国100年となる2049年に「製造強国」の先頭に立つという国家目標がある。再エネを大量に導入しつつも、産業の基盤は常時供給できる石炭火力に置き続けているとみられる。

議長国トルコ自身の選択

COP31議長国のトルコは、ロシアのロスアトムが建設・運営するアックユ原発の2026年稼働を最優先課題に掲げている。同国の環境相も「需要を満たし自給を保つため、再エネも化石燃料も使う」と明言している。

これは皮肉ではなく、合理的なエネルギーミックス戦略だ。単一電源の「純粋さ」ではなく、多様化による電力安全保障こそが、責任ある政府が実際に行っていることである。

COPの議論が見落とし続ける「錨」

原油はジェット燃料、ディーゼル、ガソリン、船舶燃料(世界貿易の約9割を担う商船11.6万隻分)、さらに肥料、医薬品、プラスチック、合成繊維の原料となる。風車や太陽光パネルの素材も例外ではない。風力・太陽光は電気を生むが、輸送燃料は供給できない。電力と排出量に偏ったCOPの議論は、この根本的な区別を一貫して見落としている。

2050年カーボンニュートラル政策は、温暖化の主因とされるCO₂の削減だけを見ており、炭素が私たちの使う物質の素材でもあるという役割が抜け落ちている。

求められるのは「炭素排除」ではなく、私たちが実際に暮らす世界の複雑さに見合う「炭素共生」の枠組みである。気候政策が削減対象とするのはCO₂という分子だが、炭素そのものは元素として生命の体をつくり、6,000品目以上の製品と輸送燃料の素材となり、エネルギー源として産業文明を支えている。エネルギーミックスが「どう発電するか」に答えるのに対し、炭素共生はその根底にある「なぜ文明は炭素を差し引くことができないのか」という問いに、元素のレベルで答える。

おわりに

地政学的危機の熱気の中で、気候の緊急性という言葉をまとって作られる電力政策は、他のあらゆる「危機便乗」と同じ厳しさで検証されるべきである。

ボン会合とイラン戦争が示したのは、電力と炭化水素製品のサプライチェーンの脆さだった。正しい対応は、間欠性電源への単一化を急ぐことではない。各国の資源と事情に応じた多様なエネルギーミックスによって強靱性を高めることである。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント