「金利が3%を超えたのなら、株より国債のほうが得ではないですか?」最近、こうしたご相談が目に見えて増えてきました。10年物国債の表面利率は約30年ぶりに3.1%となり、個人向け国債も固定5年で2%を超えています。
ただし、「株は危ないから国債へ」も「やはり株一択」も、判断を誤るもとになりかねません。大切なのは、どちらかを選ぶことではなく役割を分けることです。
この記事では、証券会社と投資助言の現場でお客様の資産と向き合ってきた立場から、国債と株の利回りを同じ物差しで比べてはいけない理由を整理し、目的別に役割分担させる考え方をお伝えします。

植田和男日銀総裁 日本銀行HPより
国債3.1%、配当は2%台――17年ぶりに起きた「逆転」
財務省は10月6日の入札で、10年物国債の表面利率を3.1%に決めました。1996年以来、約30年ぶりの高さです。この10年物国債の利回りは「長期金利」と呼ばれ、住宅ローンの固定金利などを決める目安にもなる、いわば「お金を長く貸すときの値段」にあたります。
背景にあるのは日銀の利上げです。日銀は9月18日、政策金利を1.25%程度へ引き上げました。31年ぶりの水準で、原油高や円安により物価の上振れを抑える狙いがあると報じられています。
個人向け国債も様変わりしました。10月15日発行の固定5年は年2.4%、10月に募集が始まった次の回は年2.39%です。ほんの数年前まで、最低金利の0.05%に張り付いていた商品とは思えません。
一方、東証プライム市場の平均的な予想配当利回り、つまり「株価に対して1年間に受け取れる配当の割合」は2%台前半にとどまります。日本経済新聞によれば、株の配当利回りが長期金利を下回る「逆転」は今年に入って起き、17年半ぶりの出来事となりました。安全なはずの国債のほうが、株の配当より利回りが高くなったわけです。
お金の流れも変わりつつあります。個人向け国債の今年4~8月の発行額は前年同期より約6割多く、過去最高のペースで売れています。
それでも私は「株は危ないから国債」も「株一択」も勧めません。答えは、お金を「いつ使うか」で置き場所を分けることにあります。
配当利回りと国債利回りを、同じ物差しで比べてはいけない
「利回りが高いほうを選べば良い」。一見もっともですが、ここに落とし穴があります。2つの利回りは、意味合いがまったく違うからです。
国債の利回りは、満期まで持てば手にできる「約束された上限」といえます。確実ではあるものの、それ以上は増えません。しかも利子には約20%の税金がかかり、NISAも使えないため、2.39%の手取りは約1.9%になります。
一方、株の配当利回りは、リターンの「入口」にすぎません。企業が利益を伸ばせば配当は増え、株価も上がります。三菱UFJ信託銀行の資料では、1960年から2021年までのTOPIX(東証株価指数)の配当込みリターンは年率7.3%で、同じ期間の物価上昇率2.8%を大きく上回りました。もちろん良いことばかりではなく、リーマン・ショックの2008年には、TOPIXが1年で約4割下落しています。
100万円で比べてみましょう。固定5年の個人向け国債なら、5年間で受け取る利子は税引き後で約9.5万円。少ないようでも、ほぼ確実に手にできる金額です。株は年7%で増えれば5年で約40万円のプラスになりますが、途中で3〜4割下落する年があっても不思議ではありません。
注意したいのは、同じ国債でも種類によって性格が違う点です。個人向け国債は、国が額面で買い取るため元本は減りません。しかし、発行から1年間は原則として換金できません。途中で換金すると、直近2回分の利子相当額が差し引かれます。一方、市場で売買される一般の国債は、金利が上がると価格が下がる仕組みです。「国債なら絶対に安全」というわけでもないのです。
物価との関係も見ておきます。8月の消費者物価は前年比1.9%の上昇で、今は国債の利回りが株価の配当利回りを上回っています。ただし固定金利の国債は、この先物価が上振れしても利率は変わりません。
つまり、国債は「確実さ」を買う商品、株は「成長」を買う商品です。数字の大小だけで優劣は決まりません。
「守りの資金」がある人ほど、株で負けない
証券会社で個人のお客様を担当していた頃、相場の急落で株を手放さざるを得なかった方には、共通点がありました。生活費や数年以内に使う予定のお金まで、株に入れていたことです。下がったときにそのお金が必要になり、安値で売るしかなかったのです。
反対に、生活の何年か分を預金で持っていた方は、慌てて売る必要がありませんでした。結果として相場の回復を待つことができ、資産を大きく減らさずに済んでいます。
投資情報部で企業に取材していた時代にも、同じ構図を目にしました。手元資金に余裕のある会社ほど、不況でも配当を守り、次の成長投資に踏み切れたのです。
今の日本企業は、この「余裕」を株主還元に回しはじめています。ニッセイ基礎研究所の集計では、TOPIX構成企業が2025年4〜12月に設定した自社株買いの総額は、14.2兆円に達しました。自社株買いは配当利回りの数字には表れない、もう一つの株主への還元にあたります。稼ぐ力も高まっており、TOPIX全体のROE(自己資本利益率、株主のお金でどれだけ利益を上げたかを示す指標)は、コロナ禍の時期を除いて2016年以降8%を上回ってきました。
この点で特に気がかりなのは、NISAで投資をはじめたばかりの方です。NISAの口座数は2025年末で2,821万口座に増えましたが、その多くは本格的な暴落をまだ経験していません。初めての大きな下落で慌てて売ってしまうかどうかは、手元に「守りの資金」があるかどうかで大きく変わります。
株で成果を上げる最大の条件は、下落局面で売らずに済むこと。そのために必要なのが「守りの資金」です。守りがあるからこそ、残りのお金で安心して攻められるのです。
国債で十分?株一択?目的別の役割分担と「借金」の点検
ここで、よく聞く2つの反論にお答えします。
まず「国債で十分では?」という声。5年以内に使うお金や、絶対に減らしたくないお金なら、その通りでしょう。ただ、20年先の老後資金まで固定金利だけで持てば、企業の成長も、物価上昇に強い株も取り逃がしてしまいます。
次に「長い目で見れば株が勝つのだから株一択では?」という声。若く収入が安定している方にとっては、一理あります。しかし、使う時期が迫ったお金を株に置くと、暴落時に売らざるを得なくなる。先ほどお話しした失敗の典型例です。
そこで、ご自身に当てはめていただきたいのが次のチェックです。
【株を持つべき人】
1.10年以上使う予定のないお金がある。
2.生活費の半年〜1年分を預金で確保している
3.資産が2〜3割減っても売らずに待てる
【株を持たなくていい人】
1.5年以内に使い道が決まっている
2.生活防衛資金がまだ用意できていない
3.変動金利のローンを抱え、家計に余裕がない
これを踏まえると、役割分担はすっきり整理できます。生活防衛資金は預金に、5年以内に使うお金は個人向け国債に、10年以上先に使うお金はNISAを使った株式や投資信託に。メガバンクの普通預金金利も11月から0.5%に上がるため、預金ももはや「ただの置き場所」ではありません。
たとえば30代の子育て世帯なら、数年後の教育費は国債や預金に置き、老後資金は株式中心で積み立てる。住宅ローンの返済が残る50代なら、まず繰り上げ返済と運用のどちらが有利かを比べ、家計の守りを固めてから株の比率を決める。退職を控えた60代なら、当面数年分の生活費を預金と国債で固め、残りを株で長く運用する。年齢が同じでも、お金を使う時期によって配分は変わってきます。
最後に、多くの方が見落としがちな点を付け加えます。金利のある世界は、お金を借りている側にも同じように訪れるということです。三菱UFJ銀行と三井住友銀行は9月、住宅ローンの変動金利を0.25%引き上げました。仮にローン残高が3,000万円なら、利息は年に約7.5万円増える計算です。国債で利息を受け取っても、ローン利息増でそれが消えてしまっては意味がありません。資産の置き場所を考えるときは、借金の金利と比べて、家計全体での点検が欠かせません。
国債の利回りが株の配当を上回った今こそ、守りと攻めを分けて考える好機といえるでしょう。守りの資金は、攻めの原資になる。この新しい常識を、ご自身の家計で確かめてみてください。
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藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役
千葉県出身。横浜市立大学経営学科卒業後、1990年に太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。個人・法人の資産運用を担当し、バブル崩壊後の市場を第一線で経験する。のちに本社投資情報部でプラント・機械・IT・半導体など幅広い業種を担当し、年間数百件におよぶ企業取材を通じて成長株分析に強みを培う。1999年の台湾地震では、TSMCをはじめとする現地半導体メーカーを取材し、アジア市場リスクを日本の投資家へ発信した。
2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。
公式サイト https://www.risingbull.co.jp/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年10月21日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。







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