
- 東京の流行:8月という異例の早さで始まって、ピークは10月上旬(定点当たり約16人)。最新の第43週は8.35人で、いまは下り坂。主流はA型(H1N1)。
- ワクチン:受診が必要なインフルをおおむね3〜4割減らし、重症化も減らす。ただ家族からの感染を防ぐ効果は、B型では約56%なのにA型でははっきりしなかった。
- 熱が出たら:48時間以内に受診。抗ウイルス薬で症状は約1日早く和らぎ、ゾフルーザは家族にうつす確率を約3割下げた。
- 家族:未接種なら約5人に1人がうつる。発症後すぐにマスクと手洗いを始めた世帯では感染が減った試験がある。高リスクの家族がいれば予防投与も医師に相談できる。
- 正直な但し書き:今季の日本でのワクチン効果の実測値はまだない。街中でのマスクの効果は論文をまとめるとほぼ確認できない。家庭内では効果あり
こんにちは。永江です。
最近バタバタと周囲でインフルエンザの被害が出ているのでこのエントリーを書きました。
最初にお断りしておきます。わたしは医者でも感染症の研究者でもない。この分野ではド素人です。ワクチンはほとんど打ってますがコロナは5回目以降はやめました。インフルエンザワクチンは遅ればせながら2週間前に打ちました。
なので今回は、自分の意見や思い込みは書きません。ワクチンと薬とマスクについては、査読(専門家の審査)を通った論文を一つずつ読んで精査し、そこから抜粋しました。東京の流行状況は、厚生労働省・東京都・国立感染症研究所の公表資料です。
数字はできるかぎり原典に当たりました。ただ一部は、論文の要旨(抄録)や製薬会社の発表で確認したものです。どこまで確かめたかは、最後の「この記事の検証について」に正直に書いておきます。あなたやご家族の体調、薬の使い方は、必ずお医者さんに相談してくださいね。
周りでインフルにかかった話をやたら聞くので、「いま東京ではA型が猛烈に流行ってる」と思い込んでたんですよ。で、ちゃんと数字を見たら、ちょっと違った。
ついでに「ワクチンって本当に効くの?」「熱が出たらどうすればいい?」「家族がかかったら?」も、論文で全部確かめてみました。
今シーズンのインフルは、とにかく始まりが早かった。全国の流行入りは8月中旬(第34週)。コロナ前の例年は第45週前後なので、2か月以上早いです(感染研IASR速報)。
東京都は9月17日に注意報を出しました。ピークは第40〜41週(9月28日〜10月11日)で、定点当たり約16人。最新の第43週(10月19〜25日)は8.35人で、2週続けて注意報レベル(10人)を下回っています(厚生労働省 第43週発表)。
| 週(2026年) | 期間 | 東京都・定点当たり | 全国・定点当たり |
|---|---|---|---|
| 第39週 | 9/21〜9/27 | 9.51 | 7.17 |
| 第40週 | 9/28〜10/4 | 15.87 | 11.35 |
| 第41週 | 10/5〜10/11 | 15.88 | 12.81 |
| 第42週 | 10/12〜10/18 | 9.16 | 9.08 |
| 第43週 | 10/19〜10/25 | 8.35 | 9.49 |
流行しているのは、ほぼA型です。都内の今季のウイルス検出88件のうち、85件がA(H1N1)pdm09、3件がA(H3N2)。B型はまだ見つかっていない(東京都感染症情報センター)。全国のH1N1は9月時点で、すべてが免疫の効きにくい変異(G155E)を持っていました。
つまり「猛烈に流行中」ではなく、「早く来て、もう山は越えた」が正確なところ。ただし安心はできない。感染研は、H1N1が落ち着いた後にH3N2やB型が増えて、昨シーズンのように冬にもう一度山が来る可能性を指摘しています。次の第44週分は11月6日(金)に公表予定です。
いちばん知りたかったのは「打っても結局かかるんでしょ?」という話。論文を読むと、答えは「かかることはある。でも減る。ただし減り方は型で大きく違う」でした。
B型には比較的よく効く。一方、残念ながらA型にはそれほどでもない。前シーズンの米国の成人では、救急・急患の受診を防ぐ効果がB型63%(52〜72)に対して、A型は33%(30〜36)でした(米CDC、JAMA Netw Open 2026)。いま東京で流行っているのはA型なので、ここは期待しすぎないほうがいい。
参考になるのが前シーズン(2025/26)。この年は、ワクチンに入っていないH3N2の新しい変異株(サブクレードK)が世界中で流行した、いわば「ハズレ年」です。それでも効果はゼロにならなかった。
| 論文(査読済み) | 何を防いだか | 効果(95%信頼区間) |
|---|---|---|
| 米CDC、JAMA Netw Open 2026 | 救急・急患の受診(全年齢) | 35%(33〜38) |
| 同上 | 入院(全年齢) | 27%(21〜34) |
| カナダ、Eurosurveillance 2026 | 新変異株Kによる外来受診 | 37%(20〜50) |
| 欧州9研究、Eurosurveillance 2026 | A型、全年齢 | 25〜45% |
| 同上 | A型、子ども | 47〜72% |
ざっくり言うと、ハズレ年でも、病院にかかるほどのインフルになる確率が3〜4割下がった。子どもではもう少し高く出ています。
で、今季(2026/27)のワクチンは前季より流行株に合っています。日本の3株はWHOの推奨株と同等で、前季にずれたH3N2は新変異株Kに更新済み(厚労省 製造株資料)。一方、いま主流のH1N1は、人によっては抗体が効きにくい変異を持っている。今季の日本での実測値はまだ出ていません。
意外だったのがここ。米国の研究(Grijalvaら、JAMA Netw Open 2024)は、2017〜2020年の3シーズン、家族がインフルにかかった世帯を追跡しました(論文(PMC))。
- 未接種の同居家族が感染した割合:18.8%
- ワクチンの感染予防効果:全体で21.0%
- 型別では、A型5.0%(有意差なし)、B型56.4% いまはA型ですw
同じ屋根の下で濃く接触すると、A型はワクチンだけでは防ぎきれない。そして今の主流はそのA型。なので、後で書く「家の中の対策」が大事になります。
重症化を防ぐ効果には、研究の積み重ねがあります。38本の研究をまとめたレビューでは、入院した成人のうち接種していた人は、集中治療室に入る確率が26%、亡くなる確率が31%低かった(レビュー抄録)。
一方、健康な大人の「熱がちょっと低い」「早く治る」といった軽症の範囲での差は、はっきりしませんでした。ここは盛らずに書いておきます。接種から抗体ができるまでは約2週間かかるので、流行が早い今季は、まだなら早めに打つのが合理的だと思います。
熱が出たら、早めに受診して検査と処方を受ける。論文から読み取れる基本はこれです。抗インフル薬の効果は、発症から48時間以内に飲む前提で確かめられているから。
じゃあ、どれくらい効くのか。代表的な2つの試験を紹介します。
| 試験(査読済み) | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| CAPSTONE-1(Haydenら、NEJM 2018) | 12〜64歳の健康な患者。ゾフルーザと偽薬を比較 | 症状が和らぐまでの中央値は53.7時間対80.2時間。タミフルと同等 |
| CENTERSTONE(Montoら、NEJM 2025) | 5〜64歳の患者にゾフルーザ。家族への感染を比較 | 5日以内の家族感染は9.5%対13.4%(オッズで32%減) |
つまり、症状は約1日早く和らいで、家族にうつす確率も約3割下がる。ゾフルーザは1回飲むだけで、体の中のウイルス量をタミフルより早く減らしました。
ただし、都合のいい話だけじゃない。
- 家族に「症状が出る」感染に限ると、減り方は統計的に有意ではなかった。
- 飲んだ後に、薬が効きにくい変異ウイルスが出ることがある(CAPSTONE-1で9.7%、CENTERSTONEで7.2%)。CENTERSTONEでは、その変異株が家族にうつった例は確認されていない(香港大学の発表)。
- どちらの試験も製薬会社がお金を出しています。
薬は「インフルを一瞬で消す魔法」じゃなくて、「1日早く楽になる」くらいのもの。それでも、高齢者や持病のある人、同居にそういう人がいる場合は、早めの受診の意味がグッと大きくなります。投与後にウイルスを出す量が減るから家族内感染率も下がるわけです。
息苦しい、胸が痛い、水分がとれない、意識がおかしい、一度下がった高熱がぶり返す。こういう症状があれば、すぐに受診してください。
さっきの米国の研究では、家族がインフルになると、未接種の同居家族の18.8%が感染していました。うつる場合は、潜伏期間の中間値は2日だから、最初の人の発症から次の人は数日以内に症状が出ることが多いようです。じゃあ家族は何をすればいいのか。
マスクについては、「どこで使うか」で論文の結論がきれいに分かれました。
| 論文(査読済み) | 場面 | 結果 |
|---|---|---|
| Cowlingら、Ann Intern Med 2009(香港) | 家族がかかった世帯。マスク+手洗い | 発症から36時間以内に始めた世帯で、家族の感染がオッズで約3分の1(0.33) |
| Suessら、BMC Infect Dis 2012(ベルリン) | 家族がかかった世帯。マスク、またはマスク+手洗い | 早期に始めた世帯の解析で、家族の感染がオッズで0.16 |
| コクラン・レビュー(Jeffersonら、2023) | 一般の生活の場。マスクあり対なし | インフルエンザ様疾患はほぼ変わらず(リスク比0.95) |
家族が寝込んだ家の中では、マスクと手洗いを早く始めると感染が減った。ただし、どちらの試験も参加者全体で比べると差ははっきりせず、効果が見えたのは「早く始めた世帯」に絞った解析です。
一方、街中で日常的にマスクをする効果は、まとめて分析するとほぼ確認できなかった。「マスクしてれば街中で無敵」みたいな話は、論文的にはかなり怪しいww 同じレビューでは、手洗いのほうが呼吸器の病気を約14%減らしています。
ここから言えるのは、「家族がかかったら、その日のうちにマスクと手洗いを始める」ことだと思います。
- 患者は別の部屋で過ごし、看病する人を1人に決める
- 同じ部屋にいるときは患者も家族もマスク。こまめな手洗いと換気
- タオルや食器を共用しない
- 家族に熱やのどの痛みが出たら、48時間以内に受診する
家族が薬を飲んで発症を防ぐ「予防投与」もあります。日本で行われたBLOCKSTONE試験(Ikematsuら、NEJM 2020)では、患者の同居家族がゾフルーザを1回飲むと、発症が偽薬の13.6%から1.9%に減りました(試験計画書内の要約、塩野義製薬)。日本ではゾフルーザの予防投与が承認されています。オンラインクリニックでも扱っているところが多いですね。調べたら8000〜13000円。家族が罹患したが受験や仕事でどうしてもかかりたくない人は考えるのもありかな。
高齢者や持病のある家族がいるなら、医師に相談する価値はあります。予防目的の処方は健康保険の対象外(自費)になるのが一般的です。
学校を休む期間は法律で決まっています。学校保健安全法施行規則第19条で、「発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで」は出席停止。大人の職場も、この基準にならうことが多いようです。
子どもや未成年は、異常行動にも注意が必要です。厚生労働省は、薬を飲んだかどうかや薬の種類にかかわらず、発熱から少なくとも2日間は窓や玄関を施錠するなど、家の外へ飛び出さない対策を求めています(厚労省通知、2019年)。
「猛烈に流行中」だと思って調べ始めたら、実際は「早く来て、もう山は越えた。でも冬にもう一山あるかも」でした。思い込みで書かなくてよかったですわ。
ワクチンは万能じゃない。薬も魔法じゃない。マスクも街中では効果がほぼ確認できない。でも、それぞれ「確実に少しずつ減らす」ことは論文で示されている。なので、まだならワクチンを打つ。熱が出たら48時間以内に受診。家族がかかったら、その日のうちに部屋を分けてマスクと手洗い。地味だけど、結局これがいちばん効くってことです。
いよいよ冬っぽくなってきまして、ついにこいつ履き出しました。かなり気に入っていて冬はこれです。街でコレはいてるおっさんがいたらわたしです。いままで被ったことありません。w
- 厚生労働省 インフルエンザの発生状況(第43週、2026年10月30日)
- 国立感染症研究所 IASR速報「2026年夏季におけるインフルエンザの流行入り」
- 東京都感染症情報センター インフルエンザの流行状況
- 厚労省 2026/27シーズン向けワクチン製造株資料
- Influenza Activity and Estimated Vaccine Effectiveness During the 2025-2026 Influenza Season(JAMA Netw Open)
- Interim 2025/26 influenza vaccine effectiveness, Canada(Eurosurveillance)
- Eurosurveillance Vol.31 Issue 7(欧州9研究)
- Estimated Effectiveness of Influenza Vaccines in Preventing Secondary Infections in Households(PMC)
- Does influenza vaccination attenuate the severity of breakthrough infections?(抄録)
- Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza(CAPSTONE-1、抄録)
- Roche:CENTERSTONE試験のNEJM掲載
- 香港大学:CENTERSTONEの発表
- CENTERSTONE試験計画書(BLOCKSTONEの要約を含む)
- 塩野義製薬:ゾフルーザの予防投与承認
- Facemasks and hand hygiene to prevent influenza transmission in households(Cowlingら、抄録)
- ECDC:Suessらのベルリンの家庭内試験へのコメント
- Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses(コクラン・レビュー2023、PMC)
- 厚労省 抗インフルエンザウイルス薬の使用上の注意に関する注意喚起(2019年)
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年11月2日の記事より転載させていただきました。




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