米中間選挙での民主党の勝因は全て他力本願

現地時間3日に投開票された米中間選挙の大勢が判明し、現時点(11月6日午後、JST)で中道の議会メディア『The Hill』は、上院100議席で52対48、下院435議席で241対194と全議席を潔く埋めて、両院とも民主党が勝つ予想をしている。左寄りの『AP』の予想は、上院54対44、下院253対157と若干未定を残したものの、これも両院で民主党の勝利だ。よって、今後の2年間はトランプ大統領にとって苦しい政権運営になるようだ。

ここ10年来のTrump watcherを自認する筆者は先月30日の拙稿で、共和党53対民主党47と大外れの予想をしてしまった。しかも勝つと予想した、現職のカンザス:マーシャル、オハイオ:ハステッド、メイン:コリンズ、そして新人のテキサス:パクストン、アイオワ:ヒンソン、ミシガン:ロジャースの6人は全員そろって討ち死にだ。とはいえ、これらの候補の世論調査はどれもかなりの差で劣勢だったから、筆者の贔屓の引き倒しがちと過ぎた。

歴史的にも中間選挙では政権政党がほぼ負けていて、ここ100年間でも勝ったのは憲法を改正して4選を果たした「ニューディール政策」のF・ルーズベルト、「9.11」で国民が結束していたブッシュ(子)と順調な経済を背景にしたB・クリントンの3例のみ。そこでAIに、ここ10年間の下院選における両党の得票総数について聞いてみたら、以下のように答えてくれた。

年 民主党 共和党 その他 得票総数 備考
2026(中間) 66,200,000 57,600,000 ― 124,000,000 トランプ2.0 推定値
2024 70,571,330 74,390,864 4,581,227 149,543,421 大統領選トランプ勝利
2022(中間) 51,460,335 54,506,035 2,106,446 108,072,816 バイデン1.0
2020 77,545,850 72,837,502 ― 152,636,486 大統領選バイデン勝利
2018(中間) 60,727,598 50,983,895 1,967,161 113,678,654 トランプ1.0
2016 61,749,999 63,173,815 127,076,108 大統領選トランプ勝利

ちなみに24年のトランプは77百万票取った。上表から読み取れるのは、大統領選と重なる年の投票率が中間選挙と比べて2~3割多いこと、26年(推定値)は22年・18年と比べると1割以上多くなりそうなこと、中間選挙で勝った党が次の大統領選で勝つこと、などである。つまりは、中間選挙それ自体が民主党の勝因の1つであったわけだが、民主党のほかの勝因が何だったのか考察してみたい。

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ヴァンス副大統領は4日朝、Xに「我々が負けた理由は戦争だ。大統領自身が昨夜そう述べた」「戦争は短期的にはガソリン価格を少し押し上げた」と記した。これを報じた右派紙『ニューヨークポスト』は、多くの有権者が出口調査で生活費の高騰と政権の腐敗を重要な問題として挙げたこと、そして『NBC』調査で有権者の74%が「決定的な」または「主要な」判断材料として戦争を挙げた一方、外交政策を挙げた者はわずか4%だったとしている。

クラウゼヴィッツの至言「戦争は他の手段をもって行う政治の継続」は「戦争は外交の延長」と同義だから、「戦争が74%」で「外交が4%」なのは意味不明だ。またヴァンスのいう通りガソリンの高値はイラン戦争によるのだから、「生活費の高騰」の元凶も「戦争」だ。これと「トランプ関税」と併せて、オールドメディアがこぞって物価高を喧伝したせいか、出口調査では家計を預かる女性の共和党支持率が民主党に20ポイント近い差をつけられたらしい。

だが、米国の選挙前の各種経済指標はメディア報道の偏向を表してはいまいか。著名な軍事歴史学者であり政治評論家でもあるスタンフォード大学フーヴァー研究所のシニア・フェロー、ビクター・デイヴィス・ハンソンはヘリテージ財団系の『Daily Signal』に要旨以下のように記している。

22年の中間選挙時の経済状況は今よりも悪かった。GDPの伸びは低かったし、インフレ率は今は3.3%だが、当時は9.1%だった。世帯収入も今より1万4000ドル少なかった。ガソリン価格は、その後4ドル/ガロンまで下がったが、7月には5ドルまで上昇し、今とほぼ変わらない。株式相場も大幅に下落した。だが生活費の負担についての不満は誰からも出なかった。

なぜか。それは主要メディアがバイデン政権の経済問題を軽視し続けた一方、現在はトランプ政権の問題を誇張し続けているからだ。なぜなら今日発表されたGDPは前年同期比3.4%の伸びだし、次期は5%に成長する予想だ。製造業活動は過去最高を記録した。世帯収入の中央値は過去最高の8万7000ドルで、貧困率も失業保険の新規申請も過去最低だし、株式市場は史上最高値を更新している。

それが伝わらなかったのは、1つにはメディア報道のせいだが、もう1つは価格を下げることとインフレ率を下げることは同じではないからだ。バイデンはトランプ政権の1.9%のインフレ率を引き継いで就任したが、それを4年間で9.1%まで上昇させた。だが、インフレがなかったので、多少の物価上昇は吸収できた。

一方、トランプは年平均5.1%、つまり21%の物価上昇率でバイデンから引き継いだ。そこでトランプは「我々はあらゆるものを手頃な価格にする」といったが、本当の意味は「インフレ率を下げる」ということだった。彼は25年にまさにそれを実行し、5.1%から2.4%にインフレ率を引き下げた。今年も原油価格の高騰があっても、おそらく3.4%程度(GDPの伸び率とほぼ同じ)に収まるだろう。

つまり、「生活費の高騰」を捉えれば、物価が上がる以上に世帯収入が増えれば、生活難の痛みはカバーされ、それこそが経済成長のサイクルなのだが、主流メディアがそこを伝えていないというのである。ただし、タイムラグの要因もあろう。トランプがしきりに強調するチップ・残業・高齢者医療保険料などの減税効果を有権者が実感する前に、ガソリンや食料品が値上がりするなら不満が出る。「トランプ2.0」在任中に生まれた新生児全員に政府が1,000ドルを給付する「トランプアカウント」も18歳まで引き出し禁止だ。民主党に投票した66百万余人はその「我慢」ができないのである。

政策の効果を実感するまでに時間がかかるのは「トランプ関税」も同じだ。トランプがいくら「21兆ドルの投資」と強調しても、それが雇用増加や収入増に結び付くには年単位の時間がかかるし、建設から稼働に至るまでは徐々にしか効果が実感されないからだ。時間がかかるのは原油価格の下落も同様で、イラン戦争が決着すればすぐに下がるだろうが、それがいつになるかには相手国の都合もある。冷血プーチンと違ってトランプが自国民のみならずイランの無辜の民も慮ってしまう憾みもある。

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だが、縷説した諸々はトランプ大統領の残り任期2年の課題であると同時に、2カ月後に上下両院を握る民主党の課題でもある。左派メディア『セマフォー』は5日、来年1月に米国初の黒人下院議長になる予定のハキーム・ジェフリーズが、250~260になると予想される下院の議席を行使する準備を進めていると報じている。

彼は自身の党員集会で「手頃な価格の米国を実現するために戦うという約束を国と交わした。我々はその約束を守るつもりだ」と述べた。その約束には、共和党の巨大法案で実施されたメディケイド削減の撤回や失効した医療補助金の復活、そしてイラン戦争終結や関税対応(期限切れ対応)などが含まれる。他にもAI対策や「トランプ2.0」がひっくり返したバイデン政権のグリーン・ニューディールをはじめとする諸政策もある。

ジェフリーズやチャック・シューマー上院民主党院内総務は、上下両院で300人を超える議員の3割を占める急進左派とDSA、すなわちAOCや「性は6つある」の新人タラリコ、イスラム教徒初の議員エル=ザイードらの上院組、『NYT』の偽装結婚疑惑報道が、期日前投票があらかた済んだ後で再選となったミネソタ州のイルハン・オマル下院議員ら、野心的な政策を推進しようとする新旧の進歩派勢力にも対処せねばならない。

こうして見ると民主党の勝因が、「中間選挙それ自体」「メディア報道」「イラン戦争」「トランプ批判」といった他力本願ばかりだったと改めて知れる。筆者には、目先の物価高騰(報道)に惑わされて民主党に投票したものの、トランプ弾劾や証拠の有無すら定かでないトランプ一族の汚職告発にばかり血道を上げ、肝心の経済政策はトランプ頼みの民主党に失望する米国民の様子が目に浮かぶ。

米国民は外交に「4%」しか興味がないようだが、民主党には核放棄を伴うイラン戦争の終結はおろか、トランプやルビオが見せたNATOの軍事費増額やヴェネズエラ・グリーンランドの取り込みといった外交手腕など到底望めない。社会問題でも近年最低の犯罪率や、フェンタニル・不法移民の流入阻止も実現した。民主党は国境の壁やICEをなくして、またぞろ不法移民を入れる、犯罪を増やすつもりか。そうなれば28年は例外となり、共和党政権に戻るだろう。

トランプは大勢が判明した3日夜の電話会見で、「民主党の皆さん、おめでとうございます。そして我が国の発展のために皆さんと協力していくことを楽しみにしています」と敗北を受け入れたが、6日には大統領首席補佐官をスージー・ワイルズに代えて41歳のスティーブン・ミラー副主席補佐官を昇格させ、安全保障顧問も兼務させる人事を公表した。

ミラーは高校生当時、黒人の保守派論客ラリー・エルダーの番組に電話を架け、番組にも出演した筋金入りの保守、「トランプ1.0」から大統領を補佐し、「2.0」でも不法移民送還や関税などの議会承認を必要としない事案を担当してきた。つまりこの布陣は、トランプが拒否権や大統領令を駆使して、残りの2年間を乗り切る決意の表れである。

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