米中間選挙に係る世論調査と選挙戦、そして議席予想

米中間選挙の投開票日11月3日まで一週間を切った(28日現在)。選挙対象は下院全435議席、上院100議席中35議席(共和党20/53議席、民主党13/45議席、民主党寄り無所属2/2議席)、全米50州のうち36州の知事選(民主・共和各18州)、そして各州議会議員の選挙である。

世論調査

各メディアは予備選当初から最近まで、どこの世論調査も軒並み民主党有利と報じて来た。が、10月20日に「Wedgewood Polls(WP)」が、自社の調査結果は「完全に捏造された世論調査会社」がいかに世論を操作できるかを示す「実験的なプロジェクト」だった、即ち「捏造だった」と発表した。「WP」の数字はNYT、Politico、MS NOW、Newsweekなど信頼に足るとされる世論調査でも言及された。

「WP」が自白に追い込まれたのは、同業の「FiftyPlusOne(50+1)」による「WP」の悪事の暴露が迫っていたからだ。「50+1」によれば、「WP」の調査研究に関する「50+1」の調査結果について「WP」にコメントを求めたところ、返答の代わりにデータを捏造していたことを認める前述の声明をSNSで発表したというのである。

日本の各メディアによる内閣や政党の支持率調査も、社によって二桁の差すら出る。調査方法や質問の仕方によって答えが変わるからだ。例えば「日本は唯一の被爆国です」と前置きし「非核三原則の変更に賛成か、反対か」と問えば多くの者は「反対」と答えるだろう。が、「米国の核の傘は日本の安全保障上有効だとされています」とした後に同じ質問をすれば「賛成」と答える者が増えるだろう。

とはいえ、質問の仕方に左右されるのは専ら無関心層・無党派層であって、日本の岩盤保守2-3割と岩盤左翼1割の強固な層は何があろうと主義を変えまい。民主党と共和党の二大政党が根付いている米国も同じで、共和党には熱狂的なトランプ支持者MAGAがあり、民主党には急進左派DSA(米国民主社会主義者)がある。数こそMAGAが圧倒的に多いが、影響力のあるDSAの反ユダヤ主義が若者層に蔓延している。

つまり、大して強固ではない左右の有権者や無党派層の投票意識を引き出すには、「McLaughlin」調査の設問、即ち「自由市場資本主義を支持する共和党候補を選ぶか、大きな政府による社会主義を支持する民主党候補を選ぶか」を問うことが有効なのではないか。あるいは「増税か、減税か」でも良いかも知れない。

トランプ支持の表明を憚る傾向が強かった16年の大統領選では、世論調査会社「トラファルガー・グループ」が「あなたの隣人は誰に投票すると思うか」と質問して「隠れトランプ」を炙り出し、見事トランプ当選を的中させた。そうした手法を採ったのは「庭にトランプの看板を立てたくない」というトランプ支持者が少なからずいると判ったからだ。共和党の支持率が低いのは、今もその傾向が残っていることの証左だろう。

本音隠しの選挙戦

こうした「本音隠し」の傾向がこの中間選挙でも、終盤に両党で現れ始めている。アイオワ州の上院選で民主党トゥレク候補は、州議会議員当時に共和党案に賛成したことをアピールして国境警備強化を訴えるCMを流し、また党が農業関連法案やデータセンター関連法案の成立を妨害していると批判、トランプ弾劾については「全く興味がない」と述べる有様で、どちらの候補か判らない。

対する共和党のヒンソン候補も、下院議員としてはイラン戦争を支持したが、今は反対に転じ、ロシアとの取引にも反対している。またミシガンの共和党候補マイク・ロジャースは、イラン戦争の縮小を求める広告を流しつつも、イランの核開発計画を標的にしたのには正当な理由があったと主張する。但し、カナダへの338条関税は「よく考えられていなかったのかも知れない」と批判した。

カナダへの関税に関しては、この夏にカナダ・オンタリオ州ウィンザーを結ぶ「ゴーディ・ハウ国際橋」​が開通したミシガン州と同様に、少なからぬ影響を受けるメイン州の共和党スーザン・コリンズ候補が政権に働き掛けたのを考慮してか、トランプは23日、カナダへの追加関税の対象の一部を修正した。

民主党はこれを「コリンズ議員を救おうとするトランプ氏の土壇場での試みは、米国の有権者が同氏の有害な関税政策を拒否していることを認めるものだ」と批判する。が、国益と比較考量した結果なら、党内野党のスーザン・コリンズに与することも厭わない、如何にも実利主義のトランプらしい朝令暮改ではなかろうか。

ミシガンに戻れば、24日にそこを訪れたオバマ元大統領も、ここ10年ほど「オバマは戦争を長引かせ、市民の自由を侵害し、記録的な数の強制送還を監督し、市民より企業を優遇する経済・医療制度を維持し、オバマケアも不十分だ」などと批判を繰り返して来た民主党エル=ザイード候補に、熱い応援演説を贈った。

否、オバマの方はエル=ザイードを持ち上げる「応援演説」というよりも、むしろトランプの「批判演説」という方が的を射ている。これに米国メディアは右も左も「元職は現職大統領を批判しない」という永年の不文律を破ったと大騒ぎだ。自分は僅か386日の間に衆参両院を過半数割れにしたくせに、瞬く間に解散した衆院で118議席も増やした現職を、頻りに腐すどこかの前首相を彷彿させる。

オバマはトランプを「現代において前例のないほどの混乱、残虐行為、腐敗、無能が2年間続いた後、もう十分だと言う機会が訪れた」と痛烈に批判した。物価上昇の原因は政権の(関税)政策とイランとの戦争にあるとし、「現大統領は一連の誤った決断を下した」「最も重要なのは、誰も望んでいない、誰も投票していない不必要な戦争を始めると決めたことだ」とこき下ろした。

だが、オバマも民主党候補も決して語らないことがある。それは25年7月にトランプ政権が成立させた関税収入を含む税制改革法案(One Big Beautiful Bill Act:OBBBA)に基づく、チップ・残業・高齢者社会保障・米国製自動車購入費用の控除などの一連の大減税や関税と相俟った企業の設備投資に係る費用の初年度一括償却による減税、そしてそれに伴う現下の投資ブームのことだ。

更に、バイデン政権が流入させた1500万人ともいわれる不法移民のうち100万人を送り返し、新たな流入は今年になって月に1万人以下に大幅減少したこと、またそれとの因果関係は不詳ながら、25年の暴力犯罪と財産犯罪の件数が、加重暴行と自動車盗難のどちらも前年比約30%減少したことや新規の失業保険申請件数が57年ぶりの低水準になったことも、オバマや民主党は一切語らない。だからこそトランプは齢80の老体に鞭打って接戦州を回り、声を枯らしている。

そしてイラン戦争だ。オバマのいうようにトランプ共和党唯一の弱点というべき物価高の原因は、詰まるところ関税とイラン戦争に伴う原油高に行き着く。関税による物価高は、縷説した減税や雇用増などで相殺され、おつりが来よう。即ち、物価が上がっても手取りや雇用が増えれば「行って来い」だ。この循環こそが経済を成長させる。

オバマはミシガンで「イランは核兵器を保有していなかった、我々は彼らの核開発計画を抑制する取引を成立させた」「ミサイルを発射する必要はなかった。外交を行ったんだ」と声高に叫んだ。が、彼が「成立させた」イラン核合意(JCPOA)を、チャック・シューマー(現民主党上院院内総務)が当時、「私が理想とするものとは違った」と酷評したことは拙稿「『イラン核合意』とは何だったのか」に詳述した。

シューマーが述べた「当初の10年間の深刻な弱点は、査察を随意に行えないことだ」「米国が望む通りに査察を要求できないことも問題だ」が、JCPOAの瑕疵の核心だ。果たして事態はその通りになった。即ち、26年2月末まで行われた交渉でイランは「60%の濃縮ウランを1000ポンド保有している」と述べた。JCPOAが認めたのは「15年間のmax.300kgの3.67%以下の濃縮ウランの保有」なのだ。

60%の濃縮ウランは数週間で核兵器に使える90%まで濃縮できる。その核弾頭を敵地まで飛ばすミサイルも、イランが3月20日に約3800キロ離れたインド洋の米英共用のディエゴ・ガルシア基地に向けて2発発射し、開発が進んでいたことを証明した。2発とも基地に損害を与えなかったが、従来の自主規制2000kmを遙かに超えて、EUを震撼させた。

更にオバマは、16年1月に4億ドルとも6億ドルともされる金員を米ドル以外の通貨でイランに現金で送った。国務省はそれを78〜79年にかけて起きたイラン革命前からの経緯で生じた「イランに対する米国の負債」の清算金17億ドルの一部としたが、当時人質になっていた米国人の身代金との説もある。

トランプがしばしば指摘する17億ドルはこれを指す。が、これと別に15年に結ばれたJCPOAの履行に伴い、海外で凍結されていた最大約1500億ドルともされる資産へのイランによるアクセスが、制裁の解除によって可能になった。但し、実際の金額は、イランの対外債務や18年に離脱した米国に凍結された分などを差し引いた500億ドル程度だったとされる。

とはいえ、相当な金額がイランの手に入ったことには相違なく、イランはそれを原資にウラン濃縮やミサイル開発、更にヒズボラ・ハマス・フーシ派などの代理テロ組織への資金援助を行ってきたと考えられる。トランプが18年にJCPOAを離脱したことで、中国、インド、韓国、日本などの海外銀行の資産は拘束され続けているが、離脱なかりせば代理組織にまで核兵器が行き渡っていた可能性も否定できない。

オバマ批判はこの辺にして、何を言いたいかと言えば、共和党とその候補は、オバマが「不必要な戦争を始めることを決めた」と述べたのを逆手にとって、「トランプ政権がこの戦争を始めていなかったら、イランは核兵器を完成させ、それを代理テロ組織にも供与し、世界を恐怖に陥れていただろう。それは偏にオバマが失敗したJCPOAのせいだ」とのCMを最後の数日でも流すべきなのだ。イラン戦争と関税から逃げれば共和党の勝利は危うい。

議席予想

最後に議席の予想だが、数の多い下院は手に余るので上院に絞る。『CNN』の上院予想は、共和党46議席=改選20のうち13議席、民主党・無所属44議席=改選15のうち12議席はほぼ決まりとしていて、残る10議席の現議席は共和党7議席と民主党3議席である。これは他メディアの予想も似たり寄ったりだ。

この10議席うち現職はアラスカの共和党サリバン、カンザスの共和党マーシャル、オハイオの共和党ハステッド、ジョージアの民主党オソフ、メインの共和党コリンズで、共和党4議席と民主党1議席で、残るテキサス、アイオワ、ミシガン、ノースカロライナ、ニューハンプシャーの5州の議席が新人同士の争いとなる。なお、世論調査でカンザスとアイオワ以外の共和党候補は民主党候補の後塵を拝している。

が、筆者は民主党候補の陣営が同姓同名のサリバンおじさんを連れてきたアラスカも含めて現職が勝つと思うので、共和党が50議席、民主党が45議席を取る。従い民主党が残り5議席を確保しても50対50となり、VPバンスの1票で共和党が多数を維持する。番狂わせがあるとすればカンザスとオハイオだ。カンザスではマーシャルが、民主党ハミルトンの20年前の出来事をCMで流して防戦している。オハイオのブラウンは元上院議員だが74歳と高齢だし、応援に乗り込んだオバマが逆効果になるだろう。

最後に新人同士の争い。テキサスの2人は丙丁付け難いが、テキサス人が性が6つあると主張した民主党タラリコに入れるとは思えないのでパクストンの辛勝、アイオワはトゥレクの脱民主党が呆れられてヒンソンの勝ち、ミシガンもオバマの自己陶酔演説が裏目に出てロジャースの逆転勝ち、ノースカロライナとニューハンプシャーは共に世論調査で大差をつけている民主党クーパーと民主党パパスが勝って、共和党が3議席、民主党が2議席を占めると予想する。

以上の結果、上院は共和党が53議席、民主党が47議席を占め、選挙前と同じ数になるが、前述のオバマが失敗したJCPOAのCMを流せば共和党の勝利が更に確実になる。

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