本日(3月24日)の日本経済新聞「経済教室」で、岩田規久男氏が米国のM2が急増していることを指摘して、あたかも米国では金融緩和の実があがっているかのように論じています。しかし、M2のような「狭い」指標で、米国の金融緩和の程度を判断できるとは思われません。M2が増えているのは、ファンドを解約した資金が預金に振り替わっているといったことに過ぎないとみられます。
2006年以降FED(米国連邦準備理事会)は、M3はM2以上の情報を提供するものではないという理由で、より広義の貨幣集計量であるM3のデータ公表を停止しています。それゆえ、M3のデータは民間推計しかありませんが、引用の図のように2008年になって米国のM3の伸び率は急速に低下しており、ユーロM3と同じ傾向を示しています(それにしても、2005年頃までのM2とM3の動きをみていると、FEDがM3公表は不要と判断したことも分からないわけではありませんが、その直後から両者の乖離が始まっているというのは皮肉なものです)。
2008年の半ばは、M1の方がM2よりもさらに伸びています。また、図にはありませんが、ベースマネーの伸び率の方がM1よりも大きくて、M1に関する貨幣乗数は1を下回るに至りました。
狭義のマネーほど伸び率が高いというのは、流動性への逃避が起きているということにほかなりません。1980年代以降、米国では金融革新が進んで、貨幣代替的な金融商品が数多く登場することになり、貨幣ストックをうまく定義することが著しく困難になりました。そのために、それ以降、FEDは貨幣ストックをそもそも重視しなくなっています。そして、ごくごくシンプルな貨幣集計量であるM1とM2しか公表しなくなっています。
こうした米国の金融構造においては、M2は狭義流動性に過ぎないので、金融危機の中で増えたということだと思います。残念ながら、米国のFEDが金融緩和にとくにうまく成功しているということではないようです。
追記:2009.03.26
ファイナンシャル・タイムズの直近の記事は、米国のM2の構成要素である貯蓄勘定の残高が記録的な増加を示していると伝えている。ただし当然に、その解釈は、一般投資家が金融システムに対する信認を失ったままで、安全を求めてキャッシュに逃げ込んでいるからだというものである。