洋の東西を問わず--池尾和人

池尾 和人

マンキューのブログで紹介されていたロゴフ・ハーバード大学教授の論説を読んでみた。私なんかは,ロゴフ的な見方に共感するけれども、米国の大勢はそうではないというのがロゴフの判断で、次のように書いている。

Deep down, our leaders and policymakers have convinced themselves that for all its flaws, the old system was better than anything we are going to think of, and that simply restoring confidence will fix everything, at least for as long as they remain in office.

[池尾・仮訳]内心では、われわれの指導者と政策担当者は、次のように自分たち自身を信じ込ませている。すなわち、古いシステムは、その欠陥にもかかわらず、われわれが検討しようとしているいかなるものよりもましである。そして、コンフィデンス(自信、信認)さえ回復すれば、(少なくとも彼らが職に留まっている間は)すべては解決される。


こんな風に考えたがる傾向というのは、根強くあって、日本でもやはりそうなんだろうね。旧リフレ派をはじめとして、「構造改革なんか不要だ。なぜならば、日本の古いシステムは、その欠陥にもかかわらず、われわれが検討しようとしているいかなるものよりもましだから。」という主張を実質的にしている(あるいは、信じている)輩には事欠かないからね。

でも、その帰結は、ロゴフによれば、

Within a few years, western governments will have to sharply raise taxes, inflate, partially default, or some combination of all three.

[池尾・仮訳]数年以内に、欧米の政府は、税金を急激に引き上げるか、インフレを起こすか、部分的にデフォルト(債務不履行)するか、これら3つの何らかの組み合わせをとるしかなくなるだろう。


本当に、人ごとじゃないよね。

コメント

  1. truf より:

    古いシステムとはグローバルインバランスのことですね。
    >The fact is global imbalances in debt and asset prices had been building up to a crescendo for years, and had reached the point where there was no easy way out.

    >The right lesson from Lehman should be that the global financial system needs major changes in regulation and governance.
    どのような規制やガバナンスが必要なのかを考えるのは難しい問題でしょうが、グローバルインバランス問題をうまく解決した世界経済というものはどういうものになるのでしょうか?

  2. hogeihantai より:

    米国では週末に行われたフットボールの負け試合を月曜日の朝になって、ああすべきだった、こうすべきだったと後講釈する人を憐憫と軽蔑の意をこめてmonday morning quarterbackと呼びますが、ロゴフはそう呼ぶにふさわしいのでは?彼は次の様に述べています。

    global imbalances in debt and asset prices had been building up to a crescendo for years, and had reached the point where there was no easy way out.

    危機が起きる前に彼が警告を発していたなら大したものだがそうではないのでしょう。リーマンブラザーズの破綻についても他人の解釈については述べているが、ロゴフ自身は破綻させるべきだったか、救うべきだったか具体的な対処方法を述べていない。monday morning quarterbackの面目躍如である。

  3. kazikeo より:

    今年1月にサンフランシスコで経済学系の学会の連合大会がありました(新しくPhDをとった者達の就職市場を兼ねているので、多くの学会が一箇所に集まってミーティングを開く)。その際のAEA(アメリカ経済学会)/AFA(アメリカ・ファイナンス学会)の合同昼食会での講演者は、ロゴフでした。彼が、そうした栄誉ある機会を与えられたのは、グローバル・インバランスが持続可能でないことを以前から警告し続けてきたからです。因みに、そのときのタイトルは、Global Financial Crisis in Theory and Practice でした。
    --池尾

  4. hogeihantai より:

    ロゴフさん、済みません。そんなに偉い方とは存じませんでした。許してください。