「記者クラブ開放」の約束は嘘なのか - 池田信夫

池田 信夫


このビデオでも報告されている通り、きょうの鳩山首相の記者会見について、鳩山氏は事前にフリージャーナリスト上杉隆氏に対して、次のように答えています:

私が政権を取って官邸に入った場合、上杉さんにもオープンでございますので、どうぞお入りいただきたいと。自由に、いろいろと記者クラブ制度のなかではご批判があるかもしれませんが、これは小沢代表が残してくれた、そんな風にも思っておりまして、私としては当然、ここはどんな方にも入っていただく、公平性を掲げて行く必要がある。

ところが今日の会見は「内閣記者会との協議」によって開放は拒否され、海外メディアと雑誌社が数社、参加しただけでした。


上のビデオに登場した「ビデオニュース・ドットコム」の他、インターネット報道協会も内閣記者会(官邸クラブ)と首相官邸、民主党に会見出席要望書を送ったが、回答はなかったとのことです。内閣記者会(官邸クラブ)の幹事社である共同通信社は、J-CASTニュースの取材に対して、次のようにコメントしています:

民主党の方からはインターネットメディアに関する要望はありませんでした。首相会見に記者クラブ以外の媒体社が出席できるようにするには、規約を変えなくてはなりません。今回は特例としますが、引き続き協議を続けていく予定です。

この回答はおかしい。記者会見を行なうのは首相官邸であり、内閣記者会はそこに家賃も電気代も払わないで居候しているだけで、何の権利もない団体です。本来は記者会見に誰を入れるのかを決めるのは官邸であり、クラブと「協議」する必要はなく、ましてクラブが拒否する権利もない。「規約を変えなくては」云々に至っては笑止千万です。居候の規約に何の拘束力があるのか。

深刻なのは、この閉め出しを決めたのがクラブだけではなく、官邸の意向でもあるらしいということです。『週刊朝日』編集長の山口一臣氏によれば、大手紙の経営者が「新聞、テレビなどのメディアを敵に回すと政権が長く持ちませんよ」などといって民主党を脅し、平野博文官房長官は周辺の記者に「記者クラブ開放は俺がつぶす」と言っていたそうです。これが事実だとすれば、首相の約束を官房長官が破ったことになります。

記者クラブは、韓国が盧武鉉政権時代に廃止した今、世界中で日本にしか残っていない奇習です。「スペースがない」などというのは理由にならない。新しい官邸の会見場は広く、クラブ加盟社はカメラマンや助手を入れると1社5人以上も会見場に入っており、しかも9割以上の記者は何も質問しない。内閣記者会を解散し、普通の国のように政府がチェックして記者証を発行した記者はすべて参加できるようにすべきです。

これはメディアだけの問題ではありません。こんな簡単な改革もできない政府が、数兆円の無駄使いを官僚の抵抗を排して削減できるとはとても思えない。このままずるずると既得権との妥協を重ねると、ネット世代を味方につけて改革を実行するオバマ政権とは逆に、これまで民主党を応援してきたウェブメディアも離れるでしょう。

追記:情報が錯綜しており、混乱の原因は民主党が情報管理を内閣広報室に丸投げしたことにあるようです。ニューズウィークに17日の段階の情報をまとめました。

コメント

  1. masboku より:

    昨日の大臣就任記者会見を見ていて滑稽に思ったのは、既成メディアが「省庁の会見禁止」について「言論統制」なのではと執拗に質問する姿についてだ。これなどいかにメディアがろくに取材源をもたず官僚のいいなり、彼らにとって都合のいい御用聞きのような存在だったかが垣間見られてあきれた。こうした御用聞きメディアがいかに歪んだ世論形成に組してきたのかを真剣に反省すべきときだ。メディア論のこれまた御用学者は「ファシズムだ」などとわけのわからないことをわめき散らす始末。海外では官僚は黒子に徹底している。記者クラブという「インナーサークル」からの解放問題と相まってこの辺の動向についてしっかり監視していかなければいけないと思う。

  2. 松本徹三 より:

    民主党は当面来年の参院選での勝利を最大の目標にし、「これにマイナスになるようなことは一切しない、従って既存メディアとは事を構えない」という方針を採るのではないかと思います。

    先に米重さんが「今度の衆院選をインターネット選挙元年にしよう」とアゴラの読者に呼びかけられた時には、私は「既に時間がないし、誰を応援してよいか分からないような選挙では、気分も乗らない」と冷ややかに対応したことを憶えていますが、「今から準備して、今度の参院選をこそ『インターネット選挙元年』にする」というのはどうでしょうか?

    つまり、それぞれの政治家に対して、「再販問題や電波の割当・電波料の問題で、既存メディア保護政策を取り続けるつもりかどうか」「記者クラブ開放に賛成か反対か」「インターネット上で政策論を闘わせ、いかなる質問にも答えていく用意があるかどうか」等々の質問を突きつけ、これによって採点をしていく。(無回答は勿論0点です。)採点の良い政治家や政党にはネット上で応援し、採点の悪い政治家や政党には批判を繰り広げるということです。

    ずいぶん手荒なやり方ですが、こうでもしないと既存メディアの厚い壁は到底破れないと思います。

  3. st_uesugi より:

    松本さんのご提案に大賛成です!
    メディアとしてこれぐらいのことをやるのは特に手荒なやり方でもないと思いますよ。
    ぜひやりましょう!

  4. アンチ巨人、アンチナベツネ より:

    この件に関して、山口一臣氏のブログに出てくるマスメディアから民主党への圧力「新聞、テレビに逆らったら、政権が長く持ちませんよ。」と、山本直治氏の近著に出てくる「マスメディアの人たちは、自分の高待遇を十分、認識していて、公務員の待遇を本気でケシカランと思っている人には会った事がありません。マスコミには強い労組が存在し、既得権保持の活動に余念がないうえに、規制に守られ、全員が定年まで高収入を享受し続ける。仕事ができない窓際族がたくさんいる、腐った業界である。」が全てを表していますね。池田先生や三橋貴明さんの本をいかに多くの国民が読むか、ですね。ただ、一度気づいた人は、日本のガンが何か、について永遠に考えが変わることはありません。この記事のアクセスが多いことは希望です。以下、山口さんのブログです。TVでも言ってね。
     
      http://www.the-journal.jp/contents/yamaguchi/2009/09/post_90.html