なぜ中国は成長し、日本は停滞しているのか - 『チャイナ・アズ・ナンバーワン』

池田 信夫

★★★★☆ (評者)池田信夫

チャイナ・アズ・ナンバーワンチャイナ・アズ・ナンバーワン
著者:関 志雄
販売元:東洋経済新報社
発売日:2009-09-25
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著者は私の元同僚だが、経済産業研究所が経産省の北畑官房長(当時)によって解体され、初期の研究員がほとんど辞めたとき、あいさつで「日本も社会主義だということがよくわかった。中国のほうが先に社会主義を卒業するのではないか」といって笑いを誘った。

本書はタイトルだけ見ると、ありがちな「中国バンザイ本」と混同されかねないが、中身は中国の光と影を客観的なデータにもとづいてバランスをとって描いたものだ。特に著者が5年前に言ったように、中国は日本と意外に似ている点が多い。古く非効率な国有企業が大量に残る一方、「郷鎮企業」とよばれる新しいベンチャー企業も数多く生まれ、「双軌制」とよばれる二重構造ができている。政府は前者を補助金などで保護する一方、新しい企業の市場を沿岸部の経済特区などに限定し、その影響が全土に及ばないように規制している。

その結果、移行経済でよくみられるソフトな予算制約(SBC)という現象がみられる。これは経営の破綻した国有企業を地方政府などが補助金で救済するため、国有企業がそれを当てにして経営の効率化を進めず、企業の新陳代謝が進まない現象だ。日本の「失われた10年」の最大の原因も、銀行が不良債権処理を先送りしたためにSBCが生じたことだと考えられている。しかし中国と日本の違いはそこからだ。著者は、中国が成功し、日本が失敗した原因を次のように結論する:

中国の経験が示唆しているのは、改革を成功させるには、旧体制を破壊するよりも新体制を育成するほうが戦略的にもっと有効だということである。日本の改革に当てはめると、成熟産業よりも成長産業、大企業よりもベンチャー・ビジネスに目を向けなければならない。

日本が停滞しているのは、古い企業が残っているからではなく、新しい企業が育たないからである。不況になったら公共事業でゼネコンを救済し、古い企業に人材を閉じ込めてきた自民党の経済政策が、日本の潜在成長率を1%以下に低下させてしまったのだ。中国の場合は資金が古い企業に偏在していることがひずみをもたらしているが、日本では資金は余っている。問題は、新しい企業に優秀な人材が行かないことだ。長期停滞を脱却するためには、正社員の過剰保護を改め、柔軟な労働市場で人材を再配分する必要があろう。

コメント

  1. bobby2009 より:

    外資企業が中国内の安価な労働力を利用して加工貿易(生産して輸出)を行う場合、自分で外商独資企業を設立せずに、郷鎮企業へ「委託生産加工」するスキームが、日本・台湾・韓国の製造メーカーで非常に多く利用されてきました。
    郷鎮企業による委託生産加工のしくみは非常に単純です。郷鎮企業が工場の箱(建物)と労働者を用意して、所定の加工費(工場の家賃と加工に関わる人件費プラスアルファ)を契約した外国企業へ請求します。
    一方の外国企業側は製造機械を無償で郷鎮企業へ提供し、労働者へ技術指導を行い、郷鎮企業へ注文を出し、必要な材料を全て無償支給し、自分で製造の管理を行い、完成品を輸出して、所定の加工費を郷鎮企業へ支払います。

  2. bobby2009 より:

    (続き)
    上記の説明で明白なように、郷鎮企業側はリスクも工場経営の苦労もほとんど無く、毎月自動的に儲かるしくみです。郷鎮企業が急速に伸びたのは不思議ではありません。
    しかし対米貿易黒字が北京政府で問題視されはじめた頃から、郷鎮企業による委託生産加工というスキームは抑制の方向へ舵が切られました。輸出金額に占める郷鎮企業側の絶対利益額の比率が非常に低いので、北京政府にとっては大きな頭痛の種になってしまったからです。
    現在は、郷鎮企業を委託生産加工という(加工賃を人件費プラスアルファで稼ぐ)形態から、独資企業(材料を自分で購入し、自分で生産を行い、完成品を外国企業へ輸出販売する普通の製造業)形態へ急速に移行する過度期といえます。

  3. bobby2009 より:

    (続き)
    中国が発展している理由は、北京政府の(経済発展という)目的意識がはっきりしており、指導者が変わっても基本線がブレない事だと思います。「継続は力なり」と言いますが、・ス殀小平から胡錦濤まで、改革開放をずっと続けてきた事が、なによりも大きいのではないでしょうか。

  4. i_have_a_pen3 より:

    本文の趣旨には賛成です。
    今でこそ、日本のアニメが認められつつありますが(私はアキバ系でもなんでもないのですが)、別に補助金つけて成長した産業でもなく、白い目で見なれながら、海外に評価されて認識した文化だと思います。
    こういう事例は、よく、日本企業に売り込みに行ったけどダメで海外に活路を見出して、逆輸入で評価されて・・・なんて話を良く聞く話を良く聞く話というのは、私的には、日本人は他人の評判を気にするブランド志向で、個人で、その物の価値を評価できない民族なのかなと思う所はあります。
    なので、疑わしき新しいものよりは、古きブランド物をという思考が、日本の新規参入に対する厳しさであり、逆にそれをクリアできるものが世界ブランドとして確立できるのかなと。
    私の会社でも、世界中に物を売っていますが、日本の会社程うるさいものはないし、逆に、それをクリアできれば何処でも出せるって、なんだかなぁ~と思っています。
    結局のところ、日本人は責任取りたがらないし、最先端な部分で稼いで、保守的で排除されなければならない部分を温存している構造が続いているのかなと、常日頃思う次第であります。

  5. oil_king より:

    人口という重要なファクターを抜きにして、「中国が日本に勝る」と考えるのは『あながちな』誤りだと思います。GDPベースで中国が日本を上回り、2倍3倍…となる事は容易に想像がつきますが、【GDP/一人当たり】が逆転されるのはいつの事になるのか?想像もつきません…。

  6. oil_king より:

    ↑の私のコメントは記事を途中までしか読まず、全く的外れな暴走したコメントでした。本当に恥ずかしい限りです。本記事の主旨には全く同感です。現政権には『新しい企業の成長の妨げになる社会主義的要素』を排除し「正社員の過剰保護を改め、柔軟な労働市場で人材を再配分する」を政策を望みます。大変失礼しました。