中国貿易における貿易権の重要性は、如何に?- 小谷 まなぶ

小谷 まなぶ

 中国では、貿易を行うためには、貿易権という資格がなければ、国際貿易を自社名義で行えないという規定があります。


 その規定については、中国ビジネスを行なっている多くの日本企業の方にしられています。そのような企業からの問い合わせで多いのが、『どうしても、貿易権の取得をして中国ビジネスをしたいのですが・・』という話をよく聞きます。
 
 現実的な話をすれば、貿易権の取得をして、自社名義での通関を行なうということは、いろいろ手間がかかります。まずは、専門的な知識、資格を持ったスタッフの雇用をしなければなりません。国際貿易会計の分かっている会計、通関書類を作成できる通関士など、貿易権を取得しても、現地のスタッフに恵まれなければ、作業が円滑に行かず、結局は、貿易実務自体で、トラブルが続きで、最後に困惑してしまった経営者も何人も見たことがあります。

 そのような、ことを考えてか、中国のメーカーでも、あまり貿易権というものにこだわっていないということが言えます。貿易は、外貿公司(貿易代理店)に外注して行なう。取引条件のいい外貿公司を探して行なえばいいと思っている業者もたくさんあります。
 
 その理由としては、その企業が、貿易権を取得して、実際に、その貿易権をつかって自社名義での通関作業を行なうためには、、外貨処理、増値税などの税務処理、その他、外?核??などの書類処理など、実は、書類記載で、ミスが出れば、ペナルティーが与えられるほど、厳しい書類作成、管理が多数あります。
 
 そのような専門知識を持っているスタッフの雇用をするには、コストがかかります。また、万一、トラブルが起こった場合には、雇用したスタッフが、知識がなかったり、また、それぞれの関係役所に顔が利かなかったりすると、問題解決できないケースがあります。

 実は、貿易権を使った、自社名義での通関作業というのは、簡単に出来る仕事ではありません。その事は、中国企業も理解しており、よっぽど、海外との取引が多い企業でない限りでは、貿易権の申請資格があっても、取得しようとしていないのが現状です。貿易権の申請をしていても、現実は、自社で、そのような専門スタッフの雇用などのコスト、また、人材の問題で、専門の業者に委託しているケースをよく見ます。

 日本側からは、中国では、貿易権を取得すれば、貿易が誰でもできるのではないかというイメージを持っている企業が多いように思いますが、実際には、中国で自社名義で貿易権を持って、通関作業をするには、長年のビジネススキルと関係、そして、専門資格の有無などが関係しており、一からの仕組みを作り上げ、貿易権を使った業務進行させるためには、相当の苦労があることが言えます。

 ですから、よほど取引金額が大きい、または、輸出通関件数が多いなどの貿易業務の専門性がある仕事を行なっていない企業でない限り、条件のいい外貿公司(貿易代理店)に貿易実務をアウトソーシングしたほうが、メリットがあると言えます。
 
 それと、皆さんがよく聞かれるのは、B/L上の名義が、自社で行ないたいという話を頂きますが、B/L上の輸出者は、必ずしも、実際に貿易権を持って通関している業者でなくてもいいのです。
 
 方法としては、実際には、貿易権を持っている企業の名義で中国側の通関を行ないますが、貿易権のある企業と、貿易権のない企業の間で、委任契約を結び、B/L(船荷証券)上の書類には、貿易権のない企業をシッパー(輸出業者)として記載することはできます。
 その理由としては、B/Lを発行するのは、船会社であって、海関(税関)局でないからです。中国の海関局(税関)に提出する書類は、必ず、貿易権を持っている企業の名義が必要です。しかし、B/Lは、船会社が発行して、外国の取引先(売り先)に渡す為の書類ですから、B/Lの用紙上にどのように書いてほしいか、指示することができます。
 
 ここにポイントがあります。貿易権がなくても、B/L上には、シッパーとして書くことが出来るのです。

 役所(税関)に提出する書類は、貿易権のある企業名義で行なう。B/Lは、船会社が発行するもので、船会社は、民間企業なので、B/Lの名義が必ず、貿易権を持っている企業でなければならないということを指定しているわけではないのです。

 実は、この辺に貿易のからくりがあります。

 貿易権が私があまり重要じゃないと言った理由に、貿易権は、中国側の税関に対する書類処理をするために必要な会社名義であって、売り先のお客様に出す書類(B/L、I/V、P/L)には、関係ないということです。

 サプライヤーがばれては困るなどと言って、貿易権をもった商社を中国の現地法人を作りたがる日本の商社が多いですが、書類を外国のお客様に手渡すのは、船会社が作成したB/Lと、売り手が作成したインボイス(I/V)とパッキングリスト(P/L)です。
 
 海外の売り手に提出するインボイスとパッキングリストは、A4の紙上に書いて作成するものですから、この書類は、中国の貿易権との縛りはまったくありません。
 そう考えれば、お分かりだと思いますが・・・

 結論として、中国側の通関作業を行なう業者と、B/LとI/V P/Lを作成する業者の名義が違って、まったく問題ないのです。

 すなわち、書類上だけの処理、作成さえ、きちんと行なえば、貿易権の持っていない企業でも、海外から見れば、その会社の名義で貿易を行っているように見せることが可能です。

 私が、中国で商売する上で、重要なのは、貿易権よりも、増値税領収書の発行権、一般納税人としての資格を取得することで、後は、貿易は外注という考えでビジネスをすれば、良いと思います。

※ 一般納税人資格とは、増値税領収書の発行権のことです。増値税というのは、17%付加価値税 輸出入をするには必ず課税される税金です。

 今日は、貿易権と、B/Lの名義というテーマでビジネスノウハウを書いてみました。

コメント

  1. yukiokb より:

    貿易権については、その通りだと思いますが、中国における深刻な問題である模倣品、偽造品の対策を考慮すると、貿易業務をアウトソーシングすることが必ずしも合理的とは言えません。

    模倣品、偽造品の輸出を海関で差止めるには、根拠となる知的財産権の保護登録を行うことに加え、模倣品、偽造品の輸出に携わる輸出業者や、逆に自社で使用している輸出業者を海関のデータベース(俗にブラックリスト、ホワイトリストと称されています)に登録することが効果的です。

    ホワイトリストに登録されている輸出業者の扱う自社の輸出貨物は、知的財産については海関をフリーパスで通るからです。

    その一方で、ホワイトリストに登録されている輸出業者が模倣品、偽造品の輸出を行う場合も、同様に、知的財産については海関をフリーパスで通ってしまいます。

    このリスクを回避するには、自社で対外貿易権を取得し、自社で輸出業務を行うことが最善です。