国債増発を伴う財政政策の問題点  -前田拓生

国債増発懸念を受け、国債利回りが上昇しました。この不景気時に金利上昇は問題です。まぁ現状、1.285%であり、びっくりするほどの高さではないことから、すぐに日本経済をさらに悪化させるということではありませんが、これ以上、財政拡大策を続けるのであれば、深刻な事態を招く可能性があります。


とはいえ、通常「国債」は当該国の通貨建てのみで発行している限り、デフォルト(利払い遅延や元本の償還が不能)リスクはありません。なぜなら、返済が滞る状態が予想される場合には、政府は「徴税権」を使って増税することにより、返済が可能になるからです。また、中央銀行と連携をすれば、たとえ中央銀行が直接国債を引き受けなくても、市場から中央銀行が国債を買い続けることで借り換えがスムーズに行えることになります。ただ一点、問題になるのは、政府債務残高が高まることによって当該国でクーデターが起こる可能性あれば、その時にはデフォルト・リスクが浮上します(しかしその点、先進国ではあまり考慮されることはありません)。このような理由から国債流通利回りは、当該国内において「リスクフリー(無リスク)レート」としても機能するのです。

にもかかわらず、国債利回りが上昇をしたり、格付けが引き下げられたりするのは、どういうことなのでしょうか。

確かに、邦貨建てで発行している限り、国債にはデフォルト・リスクは発生しないことになります(クーデターを除いて)。したがって、その意味では日本のように政府債務残高が歴史的にみて「高すぎる」からといっても、それだけの理由で「利回りが上昇する」ということにはならないはずです。しかし(何らかのリスクに伴う)国債利回りの上昇は、当該国にデフォルト・リスクがない場合でも、起こる可能性があるのです。

それが当該国の「通貨価値に対するリスクプレミアム」です。

現代社会において、先進国の「おカネ(当該国通貨)」には、そもそも何の保証も担保も設定されていません。「ある」のは「(国家的な)信用」だけですから、当該国の信用が低下すれば、通貨価値は減価してしまいます。そして、その通貨が減価すれば、当該通貨で建っている債券は為替差損が生じることになるので、誰もが「持ちたくない」と思うようになるのは「当たり前」といえます。

そのため、通貨自体が下落するような国の債券(国債)には、リスクプレミアム(上乗せ金利)が付くことになり、利回りが上昇することになるのです。つまり、国債のデフォルト・リスクに対するリスクプレミアムではなく、当該通貨に対する減価リスクが、国債を保有することに対するリスクになるので、それに対してリスクプレミアムが要求されると考えるのが正しいといえます。

さらに、「国債の増発」とはその裏で「通貨の増発」を意味します。通貨の「量」が増加すれば、当然、通貨の購買力(1単位のおカネでモノを買う力)が低下するため、通貨自体は減価するので、その点からも当該国通貨が売られることになります。そうすると上述の理由から当該国債に対するリスクプレミアムが要求さえることになります。ここで「通貨量の増加」が物価を押し上げるくらいに景気を刺激してくれればよいのですが、実際には、単に銀行部門に資金が滞留することも多く、そうなった場合には、いわゆるホームレスマネー(「利」だけを求めているため、帰るべきところを失ってしまったおカネ)となり、世界をさまようことになります。つまり、おカネが本国から出奔してしまうわけであり、当該国の景気を刺激することなく、通貨の減価だけをもたらすことになってしまいます。

このような現象を「キャリートレード」というのですが、日本でも「円キャリートレード」という事態により、円安が進み、日本国債の格付けも下げられたことは記憶に新しいところです(現状は「ドル・キャリートレード」が問題になっています)。

ここで「円安になるならそれも良いのでは」と考える人もいると思います。円安になれば、輸出企業に恩恵があり、外需拡大から景気の浮上が考えられると・・・。

確かに外需効果はあるかもしれませんが、それは世界経済が順調な場合であり、現時点では、外需そのものを期待できない状態にあります。

一方、日本はエネルギーも食物も工場製品における原材料も、多くを輸入によって賄っています。円安はこれら要素生産物の単価を押し上げることになってしまいます。景気低迷期における原材料価格の高騰は、すなわち「スタグフレーション」を招くので、中小企業等の経営を圧迫することになります。これは原油価格が140ドル/バーレルを超えた当時の日本の状態と同じです。

つまり、ここでの円安、特にドルにではなく、オーストラリアドルなどの資源国通貨に対する円安は、日本経済において恩恵よりも打撃になる可能性の方が高くなるわけです。

以上から、景気を浮上させるために国債増発を伴う財政政策を行えば、行うほど、円に対するリスクプレミアムからの金利上昇、および、悪い意味での円安を招き、一層、景気を悪化させる可能性が高まることになると思われます。

コメント

  1. norisan123 より:

    為替を論じる時は必ず雇用も論じてください。円高では製造業の工場は海外にシフトし地方には益々働く場所がなくなります。本社の技術、事務は日本に残りますがそれだけでは雇用が維持されません。日本に工場がなくても、働きたい人が働ける雇用を確保する為には工業高校を廃止して商業高校にシフトするとかソフトウエアやサービス等の3次産業の雇用の場を増やすとか社会のインフラを変える必要がありますが、そんなの直ぐにはできないでしょう。つまりここ1-2年で雇用を改善するためには円安に誘導して日本で製造業が成り立ち企業も収益をあげて失業している人を工場に採用するしかないでしょう。事実、アメリカも韓国も中国も自国通貨を安く誘導して経済を回復させているでしょう。この世界不景気の中で日本だけですよ円高を放置して国民を苦しめているのは。1ドル120円になれば日本のデフレも失業もすべて解決しますよ。そうならないのはアメリカがドル安を続けて自国の経済回復を優先して日本の円安を許さないからだと思いますよ。

  2. 前田拓生 より:

    norisan123さん、コメントありがとうございます。

    >アメリカがドル安を続けて自国の経済回復を優先して日本の円安を許さないからだと思いますよ。

    おっしゃる通りだと思います。その点に関しては日本の政治力の問題に加え、藤井財相の市場との対話のなさが問題だと、私も思っています。

    この点に関しては前回の投稿に書きました。

    http://agora-web.jp/archives/823644.html

    >つまりここ1-2年で雇用を改善するためには円安に誘導して日本で製造業が成り立ち企業も収益をあげて失業している人を工場に採用するしかないでしょう

    確かに手っ取り早いとは思いますが、「円安誘導」というのは、ずばり「円売り介入」ということですよね。円売り介入だけに日本がその気になればできなくはないのですが、口先介入とは違い、実弾で円安にすれば、世界的に批判の的になるのは必定だと思います。

    そこをどう考えるかがポイントですが、今の日本には世界的な批判を抑えるだけの政治力はないのではないでしょうか。。。

  3. norisan123 より:

    直接の円売り介入でなくても日銀が量的緩和を続ければ90円後半まで誘導できると思います。アメリカFRB議長は事あるごとに米国経済の不安定性を意図的に強調してドル安誘導に協力していると思います。みんな知っているのですよ自国の経済を回復させる為には自国通貨を安くすることを。知らないのは藤井財務相と白川日銀総裁だけというのが日本の悲劇です。ですから国民皆が”円安がいい、円安がいい”と叫びつづけて政府、日銀に思いを伝えるべきです。拠って知識人はデフレを脱却するまえからインフレを恐れて円高が良いと言ってはいけないのです。別の視点から今期待しているのは、民主党小沢幹事長以下国会議員を含む600人もの中国詣でで中国重視を鮮明にしたことです。アメリカ政府は慌てて日本いじめを止めて円安を許すと思います。結果ゴールドマンサックスなど米国の投資銀行はドル買いへの転換をすると思います。よって私はもう84円以下の円高はないと思いますので後は迅速に100円に戻ることを願うばかりです。為替は世界貿易の武器ですから政府は頭を使って戦うべきです。

  4. edogawadamo より:

    なるほど、国債とその国の通貨はコインの裏表であると。今までもやもやしていた国債増発のリスクについてクリアになった気がしました。

    しかし、コメント欄はいただけないですね。結局、日本にとっては円安が良いって結論ですか?
    いつまで経っても、輸出型製造業の工場労働者の視点でしか日本の経済を語れないのは情けない限りです。産業構造の転換の必要性なんて20年前から言われているのに未だに変われないのは、事あるごとに当面の救済策をやって問題を先送りしてきたせいでしょ。

    また、池田さんが以前の記事(http://agora-web.jp/archives/821176.html)で述べているように、輸入財の価格低下と貨幣現象としてのデフレーションをごっちゃにしてはいけません。世間でいう「デフレ」は多分に前者の方で、幾ら日銀がインフレにするぞ(円安にするぞ)と叫んでも何も変わらない。更に言えば、仮に1ドル120円に出来たとしても、生産部門の海外移転の潮流は止められないでしょう。

  5. 前田拓生 より:

    >アメリカFRB議長は事あるごとに米国経済の不安定性を意図的に強調してドル安誘導に協力していると思います。みんな知っているのですよ自国の経済を回復させる為には自国通貨を安くすることを。

    現在の米国の行動はおっしゃる通りです。また、この「量的緩和」は2000年代に入ってから不良債権を何とか処理するために日銀が初めに行ったことでもあります。

    この量的緩和は効果もありますが、反対に大きな逆効果もあることがわかっています。だから日銀は敢えて「広い意味での量的緩和」という言い方で3カ月物の金利誘導でお茶を濁しているわけです。

    「円高が良い」というわけではありませんが、現状の日本の政治力では「市場との対話」というくらいの為替政策しかできないと思います(現在、これもやらないのは問題ではありますが・・・汗)。実弾を伴う行動をとることと世界全体から批判を受けることになるでしょう。世界が一斉に自国通貨を低めるようなブロック経済化した場合、もっとも打撃を受けるのは「持たざる国、日本」なのです。

    通貨が高いということで日本は苦しみましたが、通貨が高いからこそ豊かになったともいえると私は思います。

  6. 前田拓生 より:

    edogawadamoさん、コメントありがとうございます。

    >幾ら日銀がインフレにするぞ(円安にするぞ)と叫んでも何も変わらない。

    そうなのです。そこがあまり理解されていないのが残念です。が、多くの人がわかっていません(汗)。

    池尾先生もおっしゃっているように、金融システムは必要条件ではありますが、十分条件ではないので、ここがいくら頑張ってみても、実体経済は良くならないのです。つまり、実体経済が悪い場合、企業においても前向きな資金需要がないので、銀行部門は海外に資金を流出させる以外に使い道がなくなってしまうわけです。

    金融緩和政策が功を奏する場合というのは、ある程度、経済が安定しつつある時に、援護射撃的に「常に資金は十分あるよ」という政策をとっている時だけなのです。

    そうでない状況でおカネをじゃぶじゃぶにすれば、それは世界のどこかでおかしなバブルを起こすだけになってしまいます。それが原油や原材料であれば、コストプッシュ・インフレになり、土地や株式に流れれば、資産バブルになるだけで、実体経済を良い方向に導くインフレにはならないことになります。

  7. norisan123 より:

    現実に起きている事、起きる事に注視しましょう。円高で日本の自動車メーカーは海外での生産を増やし、部品も現地で調達している為に、日本での部品メーカーの雇用が回復していません。80円半ばの円高が続くと製造業の利益が下方修正され日本の税収が来年も再来年も増えず赤字国債だけが増えて財政破綻が近づきます(このニュースだけで円は強烈に独歩安になると思いますが、、)。財政破綻を避ける為、政府は法律を改正して公務員の給料を下げるでしょう。一般会計出費の約20兆円が公務員給料です(数字は記憶覚えで確認していません)。民間人の給料はとっくに下がっていますが、給料だけ下がって借金の額は下がらないのですから公務員もやっと悲惨さに気がつくでしょう。これでも未だ円高がお好きですか?私の友人のアメリカ人は20年前からアメリカ本土から製造業の工場がなくなることを想定して子供たちに機械工学科や電気工学科などハードウエア業の就職につながる学科を専攻しないように指導しています。これが変化に対応した準備ですが米国の自動車は駄目になってしまいました。

  8. 前田拓生 より:

    norisan123さんの意見は大かたの日本人の平均的な考え方だと理解しています。したがって、そこに私が意見を述べるつもりはありません。また、「好き」「嫌い」で議論をしているわけでもありません。

    >製造業の利益が下方修正され日本の税収が来年も再来年も増えず赤字国債だけが増えて財政破綻が近づきます(このニュースだけで円は強烈に独歩安になると思いますが、、)。

    もし、このニュースだけで円安に行くのであれば、また、製造業の下方修正によって円安になるとすれば、それはファンダメンタルズからの円安ですから、そうなってしかるべきだと思います。

    現状、ドルに対しては強くても、今後、ユーロやその他資源国に対して大幅に円が安くなった場合、それは日本経済にとって大きなダメージになると私は思っています。しかも、その可能性は非常に高いように感じます。

  9. norisan123 より:

    政府、日銀がこれから大した事をしなくても他力本願で円安に向かうと想定しています。豪州、米国、欧州の順で景気が回復して金利上昇がはっきりすると、金利上昇が全く見込めない円は独歩安になるでしょう。豪ドルではもうその兆候はでていますよね。どんな理由にしろ依然として輸出加工産業型の日本にはここからの20-30%の円安はインフレにも無縁で企業の収益回復と雇用回復が伴い経済が安定してくると思います。内需主導型に社会が切り替わっていない今の状況では円高は失業者を増やすだけです。円安の影響の是非は、そうなった時に(半年後?)検証しましょう。1つの懸念は米国の金利が上がった時でも円安が進まない場合が想定されます。それは外交等の問題がこじれてアメリカの日本いじめが続き円安を許さない場合です。90年代半ばに米国議会とクリントン大統領が日米貿易摩擦に怒って78円までの円高に追い込まれました。今回はそうならないと思いますが、国家間の政治問題は予測困難なので安心できません(円安期待者にとって)。この表題への投稿はこれで終了です。

  10. norisan123 より:

    政府、日銀がこれから大した事をしなくても他力本願で円安に向かうと想定しています。豪州、米国、欧州の順で景気が回復して金利上昇がはっきりすると、金利上昇が全く見込めない円は独歩安になるでしょう。豪ドルではもうその兆候はでていますよね。どんな理由にしろ依然として輸出加工産業型の日本にはここからの20-30%の円安はインフレにも無縁で企業の収益回復と雇用回復が伴い経済が安定してくると思います。内需主導型に社会が切り替わっていない今の状況では円高は失業者を増やすだけです。円安の影響の是非は、そうなった時に(半年後?)検証しましょう。1つの懸念は米国の金利が上がった時でも円安が進まない場合が想定されます。それは外交等の問題がこじれてアメリカの日本いじめが続き円安を許さない場合です。90年代半ばに米国議会とクリントン大統領が日米貿易摩擦に怒って78円までの円高に追い込まれました。今回はそうならないと思いますが、国家間の政治問題は予測困難なので安心できません(円安期待者にとって)。この表題への投稿はこれで終了です。

  11. edogawadamo より:

    >そこがあまり理解されていないのが残念です。が、多くの人がわかっていません(汗)。

    困ったもんですね(汗) 喩えて言えば、お金がガソリンで実体経済がエンジン。エンジンが故障していたら、ガソリンを幾ら継ぎ足してもちゃんと回る筈が無い。さらにジャブジャブ注ぐと、ガソリンがタンクから溢れだして、余計なところでバブルの火の手が上がるって事ですよね。

    簡単な話だと思うんですが、事象の断片だけを見て本質に無関心な人、あるいは数手先が読めない人に幾ら説明しても、言葉尻を捉えた反応しかなく、結局堂々巡りになるんですよね。まあ背景には、自分たちが変化に対応できていないという現実から逃避し、災いの元凶をあたりやすい対象に求める感情があるのでしょう。しかも正義のために魔女狩り(日銀バッシング)をしているつもりだからたちが悪い。

    私も次のバブルは、天然資源(石油やレアメタルなど)に火がつくような気がします。そうなったら日本は輸出部門の低迷どころの騒ぎじゃなくなるでしょうね。

  12. 前田拓生 より:

    edogawadamoさん、わかりやすい解説、ありがとうございます。

    おっしゃる通りだと思います。

    また、天然資源系がやばいですよね。現状、食物系がターゲットになっているという話もあります。投機資金だけにどこをターゲットにするのかはわかりませんが、世界的にジャブジャブになっているので、非常に危険だと思っています。

    今の「円高」を十分に活かして、それこそ、国家戦略的に何かをしなければ、将来はないでしょう。国内で魔女狩り(日銀パッシング)をしている場合ではないはずです。