千葉商科大学大学院教授(前衆議院議員)/片山さつき
ついさきほど、近年まれにみる年末ぎりぎりまでずれ込んだ予算編成を終えた、主計局の後輩と、携帯電話で話しました。丁度、乾杯の途中だった彼は、実に淡々とした声調子でした。
この予算編成では、長年の恒例であった「大蔵原案・財務原案の内示→復活折衝→政府案決定」という55年体制の下での舞台がなくなり、政府案1発だけになりました。したがって、大臣におっしゃっていただくセリフを用意する手間も、復活折衝で大臣の応接室にひしめく与党議員のお相手も、例年に比べればほとんど必要なかった、、。
ある意味で、査定当局側からみて楽になった面があるかもしれません。政権交代後、9月29日に閣議決定された22年度予算編成の方針は、勇ましかった、、。「無駄遣いや不要不急な事業を根絶していくため、すべての予算を組み替え、新たな財源を生み出す。これにより財政規律を守り、国債マーケットの信認を確保していく、、。」
選挙中、鳩山総理は「予算の中に1割以上の無駄がある。私たちは、事業仕仕分けなどを行うことで、見つけることができる」と、豪語され、公共事業や補助金等での無駄排除で9,1兆円、特別会計の埋蔵金や政府資産の売却で5兆円、租税特別措置の見直しで2,7兆円を生み出す、とマニフェストで謳い上げていました、、。
フレームから見てみましょう。一般会計から、国債費と地方交付税を除いた、一般歳出は、10月の半ばに改めて要求された55兆円から、約2兆円削られて、53兆4542億円。自民党時代の21年度予算より、1,7兆円増えています。最大の増加要因は、社会保障関係費。約1割伸びて、27兆2686億円。一般歳出の半分を初めて超えました。
最も減ったのは、公共事業関係費。自民党政権時代のマイナス3%ですら、「痛みだ、つらい」と日本中に怨嗟の声を巻き起こしましたが、今度はマイナス18%、いっきに1,3兆円カットですよ、、。
もっとも、21年度予算で、「経済緊急対応予備費」としてつけた、公共にも回せる予算を名前まで半分継承して、「経済緊急対応・地域活性化予備費」として、全く同額の1兆円を計上していますから、実質マイナス4%位かもしれませんが、、。
いずれにせよ、予算配分に「めりはり」ということを言い出して久しいのですが、ここまで「激変」させるからには、「コンクリートから人へ」のスローガンだけではすまされません。政権与党は経済の巡航運営が最大の責務。経済的な効果の測定を前もってしておかないと、4月以降、実際の予算配布が始まって、何が起こるか、、。予算成立翌月のある朝新聞を見ると、「政府、2番底対応補正予算検討開始へ」、、。ありそうな気がする、、。
今回の選挙マニフェストの目玉政策。概算要求では、約4,4兆円が要求されていましたが、その財源として期待された21年度1次補正予算の引きはがしは、景気悪化で21年二次補正予算を組まなければならなくなった(これは通常の注意を払えば、想定範囲内だったはずですが)ので使えず、鳴り物入りの事業仕分けは、予算の透明化、国民の予算への関心向上等の効果はありこそすれ、目標とされた「3兆円」には遠く及ばず、、。
21年度予算で私たちも党内から協力して、無駄撲滅を行いました。その結果も活かした「政策の棚卸、、3年以上継続している事業の見直し」、「広報経費・委託経費・タクシー代の32%カット」、「予算執行調査の反映」、「会計検査院指摘事項の反映」、「随意契約の見直し」等をすべて合計すると、削減額7、256億円、、。事業仕分けによる削減額6770億円とどっちがどうなんでしょうか、、。子供じみた単純比較をするつもりはありませんが、「無駄遣いを放置して借金漬けにした政権」とさんざん非難した自民党時代の無駄削減と大差ないのでは、、。
そして、国債の新規発行額を21年度補正後の44兆円以下にする、という財政学的にあまり意味のない「政治的コミットメント枠」を守ることは、守りました。小泉政権が発足初年度、自ら設定した30兆円枠を守ったことが、政権高揚につながった、あやかろう、とお考えになったのかどうかしれませんが、これがトラウマになって、虎の子のマニフェストの方を、油類にかかる暫定税率の維持や、高速道路無料化を実験に落とすことなどで、半分近く諦めざるをえなかった、、。
実は、11月頃にある政府高官と話しました。「民主党マニフェストは、所得再分配的なものが多い。これは借金で賄うべき性格ではなく、税や保険料などの恒久財源があってしかるべき。そうでないと、今の世代の間での再分配にならず、将来世代に不公平。」
たとえ、子ども手当やその他の厚生労働予算の増加がなくても、社会保障財源の相当部分が借金という構造になっているとはいえ、これだけ大規模な追加的再分配を行うのなら、せめて「控除から手当てへ」というスローガンも守っていただいて、財源の半分以上は控除の廃止で調達すべきではなかったのでしょうか。しかも、「1兆円増税」の実施は、大半が参院選後、、。あくまで痛みなしで「受益」だけが有権者に感じられる状況で、選挙戦を戦う、、。
フリーライダー的な誤解を、国民に与え続けるのでしょうか。医療費のプラス改訂は、危機的状況から評価はしますが、多様な医科の現実のデータを公平に見た議論が行えるのか、、。歯科については経営困難から増額を特記しており、それも理解しますが、歯科医師会が自民党からの参院候補擁立を見送る状況の中で、ここだけが特記されることのバランスは、どこから来たのでしょうか。
介護現場が危機に瀕する中で、現場の手取りアップについて、自民党時代より実効性が上がる保証もありません。保育園の待機児童対策が大幅拡充するわけでもなく、学童保育充実もしかり。すべてが子ども手当の財源ねん出中心に、結果的になっています。
道路予算は、4分の1削減され、箇所数も2割減ります。馬渕副大臣が費用対効果試算を予算委員会で、具体名名指しで質問してから1年で、削減が具体化していくとき、地域選出の民主党議員はどう動くのか。道路、治水、まちづくりなど、縦割りだった補助金を「社会資本整備交付金」として、一括化しましたが、合計2,4兆円あったものが2,2兆円になった、、。
結局現場で流れる事業配分は、それほどかわらない可能性はあります。そのほかの項目については、防衛費、農林水産、中小企業対策、外務、環境など、おおむね横ばいか小幅マイナス。「抜本的組み換え」には見えません。
21年度予算は、「当面は景気対策」「中期的には財政再建」「中長期的には改革による経済成長」の3段階で経済財政政策を進めることが、基本的考え方でした。22年度予算のキーワードやフレーズは、時間軸をもったマクロ経済政策としては、なかなか響いてきません。そもそも、経済財政の中期展望を、次の国会に予算とともに提出するのか、最低限それをやって、予算の議論の前提にしないと、「政府が行う最大の経済政策である予算」の名が泣いてしまいます。
主計局に長年伝わっている3原則があります。予算で大事なポイントは、「スジ」「ワク」「バランス」です。事業仕分けで、部分的には、スジを通す作業は、行われている。しかし、全体の枠がどういう思想で、どういう経済効果を見込んで設定されたのかが、ここまで配分を激変されているわりには、説明されていない。バランスの議論は、ほとんどない。でも、原則にのっとってないじゃないか、と主計局の神様に怒られても、「政治主導ですから」とさばさばしていられる、、。そんな気がしました。
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「コンクリートから人へ」 とは、『現金』を直接支給すること