池田信夫さんが2010/3/20付けブログで、「マーケティングの神話」(石井淳蔵著)という本の「いま必要なのは、市場の要望を組織的に「帰納」する論理実証主義型マーケティングではなく、個人が仮説を立てて市場に提案する芸術型イノベーションだ」という見解を紹介されています。http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51393680.html
この記事を読んで、イノベーション(革新)つまり発明(技術に限らない広い意味での革新的アイデア)には、次のような3つのタイプがあると思いました。
(1)シーズ主導型の発明
科学的発見などのシーズから出発してできた発明です。例えば超伝導物質の発見などがあって、「それをどこに応用したら良いか」という視点からの発明です。薬剤など用途発明に分類されるものが多いでしょう。
このタイプには、「(偶然の)発見」によって「(帰納や演繹の論理によらない)偶然できた発明」というのも多いですね。育毛剤の「リアップ」は、もともとは高血圧の薬だったけど、たまたま、それを飲んでいた人たちの中に頭髪が増えた人がいるという現象が発見されて、それで育毛剤という用途発明ができたと聞いたことがあります。セレンディピティー(たまたま思いがけない事件や現象に遭遇してしまう能力)というやつですね。
(2)ニーズ主導型(マーケティング主導型)の発明
池田さんのブログにある、市場の要望を組織的に「帰納」する論理実証主義型マーケティングによる発明もこれです。
「必要は発明の母」という、昔からある最もオーソドックスな発明の手法です。エジソンの発明などもほとんどこれですね。
そもそも、発明は「人々を幸せにするためのもの」ですので、人々が望むニーズ・必要を満たすのが発明の目的であり、それはいつの時代でも発明の王道だと思います。
広い意味では、24時間営業、ユニクロなどのSPA(製造小売)、100円ショップ、1000円理髪店などのビジネスモデルも、ニーズを捉えた斬新な発明と思います(100円ショップは、全て同一価格の100円として利便性を高め支払いを効率化した面を捉えるとニーズ型ですが、全て100円一律の店としたのは遊び心のある芸術型発明とも言えます)。すごく広い意味では、複式簿記、株式会社、憲法、共和制、公教育、民主主義、平等思想・・・などの諸制度や諸思想も、ニーズ主導型の発明と言ってよいと思います。
(3)遊び心主導型の発明=芸術型イノベーション(芸術型発明)
池田さんのブログ中の「一人のアーティストが一貫した意味を創造する」タイプのイノベーションです。
社会の中に「新しい意味・価値」を提示するというものでしょう。典型的なのは、オセロゲームの発明などでしょうか(特許法的には自然法則の利用性がないので「発明」とはいえませんが)。任天堂による「家庭用テレビゲームによる遊び」の発明などもそうですね。「必要は発明の母」に対して「遊び心」による発明です。
すごく広い意味では、印象派、キュービズム、浮世絵、歌舞伎、茶道、華道、俳句・・・なども、遊び心による発明と言ってよいと思います。
ニーズ主導型か遊び心主導型か、どちらとも言えない発明も多いと思います(「ニーズ」という言葉をどこまで広く捉えるかによります。遊びが求められていることをもニーズと捉えれば芸術型も全てニーズ主導型になります)。主として、効率・節約・利便・快適などがキーワードになる発明はニーズ主導型、「複雑でもよい(効率化してなくてよい)、それ自体が面白ければ」という面が強い発明は遊び心主導型と呼ぶようにしたら、と思います。
iPod、Facebook、twitter、セカンドライフは、芸術型イノベーションの例とも言えますが、「どうせいつか誰かがやっていたはず」ということからは「ニーズ主導型」の面も強いと思います。グーグルの検索アルゴリズムPageRankの発明も「ニーズ主導型」ですね。
で、結局、今必要なのは「芸術型イノベーション」(遊び心による発明)か?
ですが、豊かな社会になるとマスが分裂して「国民共通のニーズ」は無くなっていくので、ニーズ主導型の発明はどうしても「小粒」になっていくと思います。だから、大きなヒットを飛ばそうと思うと、遊び心主導型の芸術型イノベーションが有効になっていくのかなと思います。
鯨田雅信 弁理士・鯨田国際特許商標事務所代表