集団知よりも個人の力量が問われる時代へ - 松岡 祐紀

2010年08月02日 23:16

アップルの閉鎖性については多くの議論が交わされている。ここではその閉鎖性を批判するよりは、「なぜそのような閉鎖的な私企業が作った製品より、より良い製品が他の企業から生まれないのか」という観点から問題を論じてみたい。


アップル製品の根幹をなしているのは、革新的な機能ではなく、その斬新なデザインである。機能的には他社製品のほうが使い勝手がいいものはいくつかあるが、アップルのロゴマークが入った製品をこぞって人々が買い求めるのはそのデザインに依るところが大きい。無駄なところを極限にまで削ぎ落した機能性とそのデザインによって、他社の追随を許さない。そして、スティーブ・ジョブズというカリスマ性溢れる経営者によって、その付加価値を究極まで高めている。

また他社にとってアップルより抜きん出ることを難しくしているのは、「アップル製品と似たものは出せない」というカルマを背負っていることもその原因のひとつだ。通常、競合他社は似たような製品を販売して、お互いに切磋琢磨する機会が与えられるが、ことアップルに限ってはその法則が当てはまらない。アップル製品と少しでも似たような製品を出せば、アップル信者から総攻撃にあい、一企業として大きな痛手を負うことが目に見えている。

多くの人にとってパソコンとはネットに繋げるための手段であり、道具である。そのような意味合いにおいては、市場に出回っているどの製品もそのニーズに応えるものであり、それについて誰もストレスを感じることはない。

そのことを熟知しているアップルは、自社製品について「そのシンプルなニーズに対してどのように付加価値を付けるか」ということを明確にして、製品開発を行っている。マイクロソフトがVistaで大きく躓いたのは、この視点が欠けていたからに他ならない。もう誰も重くて高機能なOSなど求めていない。ただネットとメールが出来ればいいのだから。

その意味においては、iPadは見事にそのニーズに応えている。手軽でおしゃれで軽い、非常に明確な商品コンセプトでありそのことによって圧倒的な付加価値が付いている。

一昔前までは、いい製品とは高機能な製品であることを指していたが、今では上記のような製品をいい製品と呼ぶ時代になった。そのことを自覚し、スティーブ・ジョブズという偉大なメッセンジャーにより、たいした宣伝広告費をかけずにその商品コンセプト
を流布出来るのがアップル最大の強みだ。

このように書くと、アップルに死角がないように見える。今、彼らに対抗できる唯一考えられる可能性は、今までの既存の製品開発のあり方を根本的に見直し、スティーブ・ジョブズと同じ発想で製品開発を行うことだ。「万人が欲しいものではなく、おれが欲しいものを作る」という発想だ。

日本の製品が世界から遅れを取り始めているのは、このような発想に乏しいからに他ならない。無駄な会議を開いて社内のコンセンサスを取るよりは、一個人のアイディアで製品開発を行えるような環境を整えることが重要だ。事もの作りに関して、我々はいまだ世界のトップレベルにある。足りないのは柔軟な発想と、周囲の反対を無視しても開発を行える環境だ。

良くも悪くもアップルとはスティーブ・ジョブズであり、スティーブ・ジョブズとはアップルである。今、日本のみならず世界中見渡してもそのような会社は見当たらない。今後、アップルよりも優れた製品を出す会社は、間違いなくそれと同じ文脈で語られるだろう。

松岡祐紀 株式会社ワンズワード代表取締役社長
(ブログ:KEEP MY WORD)

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