日本の学生の就職「超」氷河期は永久に続く

藤沢 数希

9月になってもまだ就職先が決まらない大学生の数が、卒業予定者数の3割を超え今年は過去最高になるようである。2008年の金融危機で大幅に落ち込んだ日本の大企業の業績は今年になって軒並み回復したが、日本の新卒にとってのきびしい状況は一向に変わっていない。しかし日本の大企業が採用数を減らしているかというとそうではない。今や日本の大企業は海外で外国人を積極的に採用しているのだ。筆者はこの傾向は今後も変わらないと考えているし、また日本の企業が積極的に海外採用することはすばらしいことだとも思っている。今後は市場が縮小していく日本に留まっていても企業は高収益をあげることはできない。そこで日本企業はいちはやくグローバル化し、熾烈なアジア市場のなかでの競争を勝ち残っていかなければいけないのだが、それには優秀な若いアジア人を雇い彼らの力を最大限に活用していかなければいけないのだ。


楽天ユニクロなどは社内公用語を英語に切り替えて、積極的に海外展開しようとしている。パナソニックは2011年春の採用を前年比で1割増やして1400人程度を採用するそうだが、国内採用はむしろ減らして300人程度、海外採用を大幅に増やして1100人程度にする予定である。

このように企業が積極的に海外採用を増やしている背景にはいろいろな理由がある。まず第一に中国をはじめとする高成長を続けるアジア市場でビジネスを成功させることができるかどうかで、日本企業の将来が決まってくるという切実な問題がある。アジア市場でビジネスをするのに、勝手のわからない日本人をアジアに転勤させるよりも、現地で優秀な人材を雇ったほうがはるかに成功する確率はあがるだろう。

第二に日本国政府の「政府の失敗」がある。それはアジア諸国と比べて極めて高い日本の法人税、高額所得者である経営層に対して懲罰的な所得税などに見られる税制の失敗。きびしすぎる解雇規制などにより、企業が日本では社員を雇いにくくなっている、政府による労働政策の失敗。こういった度重なる政府の失敗が、日本企業が日本での採用をためらい、積極的に海外での採用数を増やすことを後押ししていることは、他の多くの識者と同様に筆者も何度も指摘してきた。

しかし実は第三の理由がある。それはそもそも日本の学生に魅力がないのだ。日本人は大学入試まではかなり勉強するし、実際18歳時点での日本人は諸外国と比べても相当に知的能力が高いと思われる。しかしその後は、ほとんどの日本人は全く知的訓練を受けることなく大学で無為に何年も過ごすことになる。とりわけ文系学部の大学教育は目を覆いたくなるほどひどい状況だ。筆者も日本のいわゆる一流大学の学生を面接することがよくあるのだが、たとえば経済学部の学生に基本的な経済に関する質問をしてみてもほとんどの学生が満足に答えることができない。

多くの学生は楽勝科目を選択して卒業単位を稼ぎ、必修科目についても要領よく過去問のコピーなどを集め、試験に出そうなところを一夜漬けで暗記して本質的な部分を理解することなく単位を取得しているのだろう。ほとんどの大学生にとって大学の授業や試験は無駄なものであり、卒業証書を貰うための必要悪でしかない。無駄なものなのだから最小の努力でクリアしようとするのが合理的な行動なのである。

高校卒業までの日本の教育が諸外国と比較してもまともなのは、大学入試というわかりやすい評価軸があるからだろう。一流大学に何人合格させられるかを、日本の高校も予備校も競っている。このような明確なモノサシがあるために、自然と学校側に競争原理が働き、規律が守られているのであろう。もちろんこのモノサシが本当に日本の教育にとっていいことなのか悪いことなのかという議論はとりあえず脇に置いておくとしてだ。いずれにしてもわかりやすい定量的な評価があるおかげで、学生側も学校側もがんばらざるをえないのだ。大学に入学するまでは。

一方で日本の大学の教育が貧しいのは、そもそも出口である企業側が大学教育に何も求めてこなかったことの当然の結果なのだ。大学で勉強しても、それが就職で有利にならないのだったら、いったい誰が無駄な勉強などするのだろうか。日本の企業は、むしろまっさらな学生を採用して、自社の社内教育で鍛えていくことを好んでいた。だから大学の成績などまるで気にしていなかったのだ。

しかしここ数年、こういった日本の企業の考え方が急速に変わってきた。日本の企業に長い時間をかけて社内で新人を教育する体力がなくなってきたこともあるし、グローバル化の流れの中で社内教育に多大なコストをかけた日本人を海外に転勤させるのではなく、現地で最初から優秀な人材を採用したほうが効率がいいことがわかってきたからだ。日本の企業もどんどん多国籍企業になろうとしているのだ。その結果、日本の学生は突然のようにアジアの優秀なハングリー精神あふれる学生と競争させられることになった。

一昔前は一流大学に入学しさえすればそれなりの企業に就職できたし、大学での勉強はあまり重要ではなかった。しかしここ数年の間に出口の部分が大きく変わった。知的能力に乏しい日本の学生に、日本の企業は突然のようにノーを突きつけるようになったのだ。この傾向は今後も変わらないだろうし、アジアの学生との競争はますますはげしくなっていくだろう。また日本の大企業は海外採用を増やし、外国人を上手く組織に組み込むノウハウを蓄積していくだろう。要するに、日本の学生の就職氷河期というのは景気の悪化による一時的なものではなく、今後も恒常的に続いていくものなのだ。日本の学生の就職「超」氷河期は終わらないのだ。

しかし長い目で見れば、日本の学生が就職できないというのは日本にとっていいことかもしれない。大学教育の出口の部分が変わったことによって、大学生が知的訓練を積むことにより真剣になるし、大学側もよりよい教育機会を提供するという競争にさらされるからだ。そういう意味で今の大学教育は今後の大きな変化の前の過渡期なのかもしれない。筆者は日本の大学教育がよい方向に変わっていくことを切に願っている。

参考資料
内定率まだ7割弱…大卒の就職戦線“超氷河期” 産経ニュース
日本企業の英語公用語化について、金融日記
日本企業の新常識「国内採用抑制、海外採用増」 大前研一
祝・新卒バブルの崩壊、城繁幸

コメント

  1. jij999 より:

    >とりわけ文系学部の大学教育は目を覆いたくなるほどひどい状況だ。筆者も日本のいわゆる一流大学の学生を面接することがよくあるのだが、たとえば経済学部の学生に基本的な経済に関する質問をしてみてもほとんどの学生が満足に答えることができない。

    そうですね。で、藤沢氏のブログのマクロ経済学講義はかなり間違ってますよ。とくにグローバル・インバランスの説明の回はひどかった。経済学用語のselectが間違っている。他にも素人に誤解を与えるcontext-dependentな書き方は、経済学の重みを損ねるという意味で遠慮されたほうがよろしいかと考えます。

    おそらく金融工学には詳しいのでしょうが、それ以外では池田信夫さんその他の専門家の「耳学問的」な趣が感じられるのです。

  2. harappa5 より:

     元・新卒学生から言わせて下さい。採用基準が「コミュニケーション能力」とか「面接での受け答え」のように、大学で勉強した内容や資格よりも、人間関係に重点を置いている現実があります。
     これで、二つの問題が生まれてきます。
    1、他の学生と差別化を作りだすのが、難しい事。資格や学習した内容で比べるなら、誰にでも違いがわかります。しかし、「コミュニケーション能力」では、曖昧すぎて違いが生まれません。基本的に、面接では、みんなそれなりの受け答え方が出来ますから。
    2、大学での勉強や資格獲得の軽視につながります。採用に必要がなければ、身につけるインセンティブがなくなります。

  3. katrina1015 より:

    補足。
    ACCJとか米国大使館に
    色々な政策関連文書があるので読んでおくといいと思う。
    こっちのほうが理解しやすいと思う。
    就職できるかは、分からないwww

  4. ririnn1616 より:

     労働力として日本の生産年齢人口は既に2000年頃には既に減少が始まっていた。そして、団塊の世代の大量退職により、人材としての若年の労働力は貴重な資源であり、将来の礎なのに、… 。
     したり顔で、日本の学生と外国の学生の資質を比べ批判する。結果として、この危機的な就職状況によりその責任をすべて学生に負わせている状況は悲惨だ。
     為政者、産業界、教育界がそれぞれの利害でこのような社会の仕組みを作ってきたのだから。

  5. heromichi より:

    大学に入学後、すぐに就職すれことにすれば一気に解決しますよ。

  6. livedoa555 より:

    企業側が「コミュニケーション重視」というのは、
    「私どもの会社には、人見知りをする社員が多いので、
    話しやすい人に来てほしい」という意味を含んでいるの
    である。


  7. 松本徹三 より:

    heromichiさんのコメントは過激で冗談っぽく聞こえますが、極めて面白いアイデアです。良いか悪いかは別として、学生の側では大学を「就職の為に必要なワンステップ」という程度にしか見ていない事が多いのは事実ですから。どこかの会社でやりませんかねえ。

    具体的にはこうしてはどうでしょうか?

    1)企業は高卒の学生を採用するが、4年間は給料は払わない。(その企業に関係する現場でのアルバイトのチャンスはどんどん与える。)

    2)大学時代に身につけるべき能力や知識についてあらかじめ注文をつけ、これが為されていなければ採用を取り消す旨、最初からはっきりさせておく。(大学側に対しても、企業と学生の双方から注文をつける。)

  8. Mr.Anderson より:

    今後、日本で長く生活したいなら文系に
    進んで、公務員しかあるまい。
    理系でメーカー。。。人生終わった。。。

  9. blue1485 より:

    新卒採用を撤廃して、
    この氷河期下で求職活動を行っている中堅どころの人材を採用すればいいのでは。
    もちろん、新卒よりマシな人材にです。どうしようもない人も確かに存在しますから。
    そして新卒採用は極限まで絞るべき。ゼロでもかまわない。

    その方がメリット大きいでしょう。
    中堅人材はは「ゆとり」でもないし、新卒に比べれば長期の育成機関も不要。たとえ、異業種への就職・転職であってもね。

    しかも人口比から考えても、少子化世代の母数より、パイは断然大きいです。高齢化社会への手当ともなりますね。

  10. rabuberi21 より:

    例えば年功序列の昇給をやめることには多くの企業がためらわなかったのに、新卒採用の習慣は未だに健在であるようだ。「若手社員のやる気を増進するため」などと称して、実際には高齢の社員への給料を減らし、会社の経費削減をするための作戦は即決するが、より「使える人材」を育成した、それを採用するための努力は丸投げしている。そのかわりに海外から新卒でない人間を採用するのは、何百人もの就職難で苦しむ日本の新卒学生に対して卑怯な仕打ちとしか言いようがない。
    別に有能な外国人を採用するのには反対しないが、自国の若者達が自分の能力を伸ばし、それを生かして活躍するための機会を与える気がほとんどないということは、企業や経済界が社会一般に果たすべき責任感に欠け、採算拡大重視に陥っているといえるのではないか。このような問題には政治が介入しないと解決しないと思うのだが、そちらからの努力もほとんど見られないようだ。