派遣労働の規制は誰のために強化するのか

2010年10月08日 23:29

菅首相は7日の衆議院本会議で、労働者派遣法の改正案を今国会で成立させる方針を明らかにした。これは登録型派遣の禁止、製造業業務への派遣の禁止などを含む労働者派遣業への全面的な規制である。すでに昨年、政府の規制強化の方針の影響で派遣労働者は24%減っており、この法案が成立したら派遣業界は壊滅的な打撃を受けるだろう。この改正は誰のために行なうのだろうか?


1007hakenhoukaiseiそれが派遣労働者のためでないことは明らかである。東大の社会科学研究所の調査では、「派遣法の改正で失業の可能性があるか?」という質問に、図のように53.1%が「かなりある」と答え、「ある程度ある」の26%を加えると、約8割が失業の不安を感じている。この法案は、雇用の不安定な派遣労働者を、さらに不安定な境遇に追い込むだけである。不況の最中に、企業が派遣労働者を解雇するよう求める法案を出す国は他にない。

派遣労働を禁止したら、企業は彼らを正社員として雇うだろうか? 以前の記事でも紹介した朝日新聞のアンケートによれば、対象となった100社のうち、派遣が禁止された場合に「正社員を雇う」と答えた企業は14社で、大部分の企業は契約社員や請負に切り替えると回答した。つまり8割以上の派遣社員は、彼ら自身が恐れているように職を失う可能性が強いのだ。

では、それは誰のためか。国民新党の亀井静香代表が正直に語っている。「派遣法の改正は社民党の最優先の要求。民主党が安定多数を取り戻すためには社民党の協力が不可欠だ」。国民新党は民主党と連立を組んでいると同時に社民党と政策協定を結んでおり、民主―国民新―社民の「ブリッジ協定」を組めば衆議院で2/3を超えるので、参議院で否決された法案を衆議院で再可決でき、ねじれ国会を乗り切れる。

要するに派遣法の改正は、派遣労働者のために行なうのではなく、社民党をまた連立に引き入れて国会運営を楽にするための政治的駆け引きの道具なのだ。民主党にとっては、ねじれの苦しみから逃れるためなら、派遣労働者が数十万人、職を失うことなんて何でもないのだろう。こういうご都合主義的マキャベリズムだけは、与党になって身につけたようだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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