今週のテーマは「農業」。投稿はすべて政府のTPPに対する消極姿勢への批判だが、民主党には農業自由化に反対して「食料自給率」を守れと騒ぐ「TPPを慎重に考える会」と称する新農水族議員が100人ぐらいいる。彼らの主張が経済政策ではなく、農村票目当てのスタンドプレーであることは明らかだが、本当に農村票はそれほど重要なのだろうか?
たしかに地方の1票の重みが大きく、参議院では農村地区といわれる一人区の票が情勢を大きく左右するが、農家はもう人口の3%以下で、ほとんどが兼業農家だ。菅原琢氏も指摘するように、今では農家に選挙結果を左右するほどの力はない。しかも農協が集票基盤だった自民党とは違い、民主党には組織票としての農村票はほとんどない。
では新農水族が、政府の方針を「情報収集のための協議を始める」という後ろ向きの表現に変えるほどの力をもっているのは、なぜだろうか。それは直接には、連立を組んでいる国民新党との関係だといわれるが、民主党は衆議院では単独で圧倒的多数をもっており、参議院では国民新党を足しても過半数にならない。かつて郵政民営化を逆転させたときほどの力が、国民新党にあるとは思えない。
本質的な原因は、農業利権には大きな「乗数効果」があるからだ。農業土木に投じられる予算の大部分は、農業とは無関係の建設業に落ちる。農業構造改善事業などと称して国から出る補助金のほとんどは、農協とその関連産業に落ちる。IT産業でさえ、「農業情報化」と称する補助金プロジェクトで稲の生育状況データを光ファイバーで送ったりしている。今や地方経済を支えているのは、こういう補助金がらみの寄生産業であり、農家に投入される年間3兆円の補助金は、その何倍もの雇用を生んでいるのだ。
TPPで農産物の関税が撤廃されると、農業は競争的な産業になるだろう。たとえ所得補償で農家の所得が保証されても、農協経由の補助金が削減され、寄生企業は打撃を受ける。だから農業利権とその関連産業を守ろうとする議員の行動は、政治的には正しいのだ。農家の平均所得は非農業世帯よりも高いので彼らは弱者ではないが、政治はつねに弱者を必要とする。自由化によって農業が健全になったら、農家という偽の弱者の保護を理由にして利権を地方に配る自分の集票基盤が危うくなることを、新農水族の政治家は直感的に知っているのだ。
もちろん、こうした寄生産業は日本経済にとってはマイナスの産業だが、それは田中角栄以来、半世紀近くに及ぶ「あまねく公平」や「地方活性化」と称して地方に所得を移転する自民党の政策の産物であり、地方経済は補助金なしでは生きていけない構造になってしまった。だから、この問題は都市と地方の対立という日本のもっとも根深い問題にからんでおり、解決は容易ではない。
コメント
個別所得補償と聞いて最初に想像したのは、以下のようなものでした。
・小規模農家は固定費の割合が大きく、(節税等の結果)収支が赤になりやすい
・投資から完全にストップすれば、所得(純利益)補償額は極小で済む
・農地をどうするかは国と協議。耕作再開時の増加費用は国負担
要するに離農のススメで、なかなかうまく考えるなぁ、と思っていました。
実際には全然違うと判って、以後は興味が無くなりました。
日本国内で消費される農作物の量なんて殆んど変化しないのですから、
・効率の良い場所から割り当てていって災害等も考慮して全国に分散して×1.2倍
・余った農民は生活保護的所得(というよりも純利益)補償
・補助金はゼロ、当然価格は10倍とかになるので、 国民一人当たり10万円~100万円の
国産農作物バウチャーを配布(補助金をそのまま充当)
・設備投資は、一般の製造業のように銀行やファンドが審査して融資
・外食産業は適用外、バウチャーも使用不可
「見える化」という意味で、これでいいんじゃないでしょうか。農家同士は価格競争しますし、
国産が(見かけ上)タダなら輸入品を買うことも無いでしょう。極論ですが。
地方での無意味な土木工事は、現状維持以外は完全にストップ、土建屋への新規就業も禁止し、死に絶えて適正人口になるまで待つ、というのはどうでしょう。もう少しオブラートに包めば、出来ないこともないように思います。
http://bit.ly/d20GDN
山下 一仁RIETI上席研究員
・・・農協金融は、昭和恐慌から農村を貧困から脱却させるために、有名な「経済更生運動」によって、産業組合のまだ設置されていない町村の解消を目指すとともに、全農家の加入、「信用・購買・販売・利用」の4種事業を兼営化する産業組合を推進したことに起源がある。これによって、商人系の金融機関は農村から駆逐され、農業・農村のすべてを事業とする世界に例を見ない総合農協ができあがった。民間金融機関の農業金融への参入は、農協による独占に風穴を開け、農業の構造改革を一層推進する可能性もある。
『地銀協月報』2010年4月号(全国地方銀行協会)
根は深そうです・・・・
ただ昔に比べると、マスコミも農業自由化は「両論併記」で書かなくなりましたね。私が1993年のウルグァイ・ラウンドの番組をつくったときは、東京と秋田で二元中継したり、井上ひさしなど自由化に反対する「識者」と討論したりしたけど、もう論争にはならない。まぁ井上ひさしのようにfuneral by funeralで変わっていくしかないんでしょう。それまで日本経済がもつかどうかが問題だけど・・・
日本人のメンタリティとして判官贔屓があります。 つまり、農業は弱っていて可哀想だから、農業を海外の農産物から守るというと、「正義の味方」に見えてしまうわけです。
でもそれ以前にTPPに参加しないと、日本経済全体が持たないことは確かでしょう。 たくさんのプレイヤーがいる競技で、自分だけが不利なルールでプレーをすることになりますからね。
移民の問題も同じです。 外国人を入れて戦力にしないと勝負にならないのは、野球だけでなく経済でも同じです。 日本を開国しないことには展望が開けません。
「木を見て森を見ず」の国民性を利用する政治家は国のことなど本当は考えていない、ということです。
昨日、黒澤明の『酔いどれ天使」を見ました。1948年(昭和23年)の作品ですが、主人公の医者が結核患者のヤクザ(三船敏郎)に卵を買って帰るシーンで、卵一個18円と値札にありました。卵は今30-40円で約2倍、一方米はその当時の数百倍です。養鶏業は一貫して政府の保護なしの自由競争、市場主義経済で鍛え上げられてきた。日本の農業をどうすればよいか卵の値段が雄弁に語ってます。
農業は必要でしょう。だから農業におけるリストラが必要だと思います。
農業自体は必要ですが、農業を守るためには農民のリストラは不可避に見えます。
他の業界も同じです。日本にとって必要な事業は沢山ありますが、
もし傾くようなことがあってもリストラ(人員削減のみではなく広い意味での再構築)して再生を目指すことになります。
TPPには、本来なら先行リストラで構えの姿勢を整え臨むべきでしたが、それはもう手遅れでしょう。
また背中を押さないと農業再構築には向かいそうにありません。
農民があの程度の生産活動であそこまで豊かな暮らしが得られるのはなぜか?を突き詰めれば、
当人たちは水や空気のように意識していないと思いますが、
他の産業により生み出された富が日本国民として分け隔てなく農民にも分配されているからに他なりません。
ただひとりひとりを見れば善良なる小農民であり、当人が開放に反対する姿は他業種での労働者の姿と同じです。
富の源泉を細らせる行為であることなどかけらも意識はできないでしょうし、それを責めるべきではないのかもしれません。
ですからそれを、言葉は悪いかもしれませんが、なだめすかして本来の方向に誘導するのが政治家の腕でしょう。
しかし残念なことに、抵抗を利用して支持を得ようとする、
国益より私益を求める亡国の輩が必ず現れるのも歴史の教えるところです。
憂国の士と呼ぶにふさわしい権力者の出現を待望します。
日本の農業は、いかんせん生産性が低すぎる。
現在わが国における農業の売上高は4.7兆円(ピークの1990年度は7.9兆円)で、
ほぼ富士通の売り上げと同額ですが、農業従事者は300万人と20倍です。
つまり生産性は20分の1ということになります。
http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201004/2010-4-1.html
おまけに今回の大震災で、補償金を全額出せとのこと。
“農産物出荷制限に補償を”
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110324/k10014885631000.html
補償金を出す代わりに農地は国家が没収したほうがいいかも。