農家という「偽の弱者」

2010年11月12日 11:37

今週のテーマは「農業」。投稿はすべて政府のTPPに対する消極姿勢への批判だが、民主党には農業自由化に反対して「食料自給率」を守れと騒ぐ「TPPを慎重に考える会」と称する新農水族議員が100人ぐらいいる。彼らの主張が経済政策ではなく、農村票目当てのスタンドプレーであることは明らかだが、本当に農村票はそれほど重要なのだろうか?


たしかに地方の1票の重みが大きく、参議院では農村地区といわれる一人区の票が情勢を大きく左右するが、農家はもう人口の3%以下で、ほとんどが兼業農家だ。菅原琢氏も指摘するように、今では農家に選挙結果を左右するほどの力はない。しかも農協が集票基盤だった自民党とは違い、民主党には組織票としての農村票はほとんどない。

では新農水族が、政府の方針を「情報収集のための協議を始める」という後ろ向きの表現に変えるほどの力をもっているのは、なぜだろうか。それは直接には、連立を組んでいる国民新党との関係だといわれるが、民主党は衆議院では単独で圧倒的多数をもっており、参議院では国民新党を足しても過半数にならない。かつて郵政民営化を逆転させたときほどの力が、国民新党にあるとは思えない。

本質的な原因は、農業利権には大きな「乗数効果」があるからだ。農業土木に投じられる予算の大部分は、農業とは無関係の建設業に落ちる。農業構造改善事業などと称して国から出る補助金のほとんどは、農協とその関連産業に落ちる。IT産業でさえ、「農業情報化」と称する補助金プロジェクトで稲の生育状況データを光ファイバーで送ったりしている。今や地方経済を支えているのは、こういう補助金がらみの寄生産業であり、農家に投入される年間3兆円の補助金は、その何倍もの雇用を生んでいるのだ。

TPPで農産物の関税が撤廃されると、農業は競争的な産業になるだろう。たとえ所得補償で農家の所得が保証されても、農協経由の補助金が削減され、寄生企業は打撃を受ける。だから農業利権とその関連産業を守ろうとする議員の行動は、政治的には正しいのだ。農家の平均所得は非農業世帯よりも高いので彼らは弱者ではないが、政治はつねに弱者を必要とする。自由化によって農業が健全になったら、農家という偽の弱者の保護を理由にして利権を地方に配る自分の集票基盤が危うくなることを、新農水族の政治家は直感的に知っているのだ。

もちろん、こうした寄生産業は日本経済にとってはマイナスの産業だが、それは田中角栄以来、半世紀近くに及ぶ「あまねく公平」や「地方活性化」と称して地方に所得を移転する自民党の政策の産物であり、地方経済は補助金なしでは生きていけない構造になってしまった。だから、この問題は都市と地方の対立という日本のもっとも根深い問題にからんでおり、解決は容易ではない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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