なぜ領土紛争は国民を熱くするか - 石水智尚

2010年12月24日 23:28

人間というのは自分の土地に対して強烈な所有欲を有しているようです。多くの人間が集まった国家というのは、更に強烈な領土欲を持っているようです。自分が所有している訳でもない辺境のゴミのような島に対して、なぜ国民は強い執着を持っているのでしょうか。


私のおじさんは若い頃に東京へ出て電気屋をしていましたが、田舎に残る親類の勧めもあり、70歳を越えてから故郷の町に帰ってきました。おじさんが住む土地として選んだのは、自分が生まれ育った家があった土地で、少なくとも40年以上は草ぼうぼうの荒地でした。

荒地は整地されて、きれいな家が建ちました。そこでおじさんの家には、お祝いの為に親戚一同が集まってきました。そのほとんどは70歳を越える老人で、その土地にまだ家が建っていた頃に、ここで育ったおじさんの兄弟たちでした。

おじさんは自慢の家の隅々まで案内する為に、みんなを連れて庭をぐるっと一周しました。その時、あるおばさんが不審な声で言いました。
「あの井戸が動いている!」

むかしこの家の庭には井戸がありました。その井戸は、隣の家の境界線から2メートル以上離れていたとの事ですが、今見ると、井戸は隣の家のすぐ傍にあります。次に、誰かが言いました。
「井戸が動くわけはないだろう」

そうです。この話は「日本むかし話」とは違いますから、井戸に足が生えて夜中に自分で動くというオチはありません。当然の帰結として、その日からおじさんと隣家の家主との間で境界線紛争が勃発しました。

何度か話し合いがもたれました。隣家の家主は、おじさんの父親や母親(とっくに鬼籍に入っている)の名前を出して、口約束だが「使って良いと言った」と主張します。あまりに死んだ人の名前ばかりを出すので、別のおばさんが提案しました。
「それじゃ、イタコを呼んで来て、本人に聞いてみよう」
一同大爆笑しましたが、それで和解できる筈もありません。こじれた境界線紛争は、どうやら次の世代に持ち越されてしまうようです。(*)

個々の人間でも、土地に対する執着はなみなみならぬものがあるようです。これが国家となったらどうなるでしょうか。日本は、韓国とは竹島、ロシアとは北方領土、中国とは尖閣諸島で領土問題を抱えています。政府が領土問題を解決する為に妥協案を出せない・呑めない主な理由はおそらく、たとえ誰も住んでいない辺境のゴミのように小さな島であっても、他国から削られる事は1ミリたりとも我慢できない、という国民感情がある為だと推測します。

たとえば尖閣諸島の問題では、経済的妥協案に反対する方の意見を、もともと我々の領土という愚のコメント欄で沢山頂きました。それらの多くは、中東に匹敵する油田があるとか、潜水艦基地ができるとか、シーレーンが危ないとか、次は沖縄が取られるとか、誇大妄想的な意見が多かったと感じています。そういう荒唐無稽な意見を真面目に主張する方が多いという事が、領土問題が人間の心理に与える影響の強さを物語っているようです。

*「おじさんの境界線紛争」は、領土問題の前フリとして考えたネタなので、現実世界とは関係ありません。

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