かつてはネット上で一部の学生に人気のあったリフレも最近はすっかり下火になって、「量的緩和で株価が上がる」とかいうオカルト的な(因果関係の証明できない)話しか論拠がなくなったようだ。ただ世の中にはデフレが諸悪の根源であるかのように騒ぐ人がまだいるので、問題を整理しておこう。
私のブログ記事でも書いたように、ゆるやかな(予想できる)デフレには大きな弊害はない。よくいわれるデフレの弊害としては、次のようなものがある:
- 実質賃金が上がって企業収益を圧迫する:これは岩田規久男氏が証明したように、事実ではない。2000年代に日本の実質賃金は下がっている。
- 実質債務が増えて企業経営が苦しくなる:これも岩田氏が示すように、事実ではない。企業は借り換えで実質金利を下げることができ、事実下がっている。
- 円高になって輸出産業が困る:デフレによる円高では外貨建ての価格は変わらず、国際競争力は同じ。
- 自然利子率がマイナスになって「意図せざる金融引き締め」が行なわれる:これはありうるが、金融政策で是正することはむずかしい。
他方、デフレのメリットとしては次のようなものがある:
- 価格の低下で実質所得が上がる:これはユニクロ型デフレというような問題ではなく、実質資産も増えるので消費は増える(ピグー効果)。
- 円高で原材料が安くなる:通貨が強くなると交易条件が改善することが多い(ここ数年の円高局面でもそうだった)。これは素材産業や内需型企業にとってプラスである。
要するにデフレは、輸出企業から内需企業と家計への所得移転なのだ。輸出企業はこの問題を海外移転で乗り切ろうとするので、残された内需型企業がデフレのメリットを生かさず、消費者が金を使わないことが不況の原因である。この解決策は簡単ではないが、ユニクロのようにデフレや円高のメリットを生かすサービス業がもっと出てくることが重要だ。
長期的には貨幣は中立だというのが、経済学の鉄則である。貨幣は商品を仲介するだけで、それ自体に価値はないので、貨幣を増やしても減らしても実体経済は変わらない。金融政策が意味をもつのは、価格の硬直性や貨幣錯覚の生じる短期の問題だけである。実体経済を改善しないで、日銀だけで不況を解決することはできない。
コメント
貨幣は中立的で貨幣そのものには価値が無く商品を仲介するだけだって素晴らしい概念を教えていただきました。ということは,これから退職する団塊世代のように退職金や年金という貨幣を切り崩すだけで何の“商品”も提供できない老人に対し,貨幣を持たず,若さや労働力という“商品”を売り物にできる若者にとって,貨幣価値が相対的に落ちることは良いことです。インフレが若者の商品価値を高めるのであれば,未来の日本のためにはインフレ大歓迎です。一刻も早く貨幣をばんばん刷って市場に投入すべきでしょう。
まず,価格水準と産出量規模を分けて考えるということはもちろんです。メディアで盛んに言われる「デフレ」も,言葉が正確ではないと文句を言うよりも,意図を汲んで景気の低迷を指していると捉えるべきでしょう。問題は,やはり内需が増えない事ですね。
国内需要の停滞の原因は,基本的には2000年前後から続く実質所得の減少傾向に求められると思います。特にここ数年は,相対的に高所得な団塊世代の退職が影響しているでしょう。
若年層の雇用の不安定化や,若者の草食化など様々な原因はあるでしょうが,基本的には内需の停滞が最近よく言われる人口要因によるものとすれば,短期的な解決は難しいということになります。となれば,産出量を増やすのには,輸出を増加させることが単純に最も有効な処方箋となるのではないでしょうか。日本のGDPに占める輸出の割合はあまり高いものではありません。
また,輸出を増やす以外にも,支出の水準を下げずに輸入を減らせば,産出量は増加します。具体的には,食料やエネルギーなど,輸入依存度の高い産業を振興し,輸入代替を促すことでGDPの増加に貢献することができます。
さらにこの文脈で言えば,ユニクロのように外国で生産したものを輸入する企業はGDPの増加に貢献しない,ということになります。日本人を雇用し,日本で生産したものを輸出することの方が,国内生産は増加します。ただし,家電や自動車のように日本で生産していては現地のニーズにあったものが生産できず,輸出が増えないとなれば,現地生産は次善の策となるでしょう。
日本の景気回復には,古典的輸出振興政策。これでどうでしょうか。
コメント1については、インフレにしても老人から若者への所得移転は起きないのではないでしょうか。 インフレになれば金利も上昇するので、何も変わらない。 つまり貨幣の量で経済はコントロールできないというのが、この論説の意味でしょう。
日銀がインフレ誘導に慎重なのは、巨額の既発国債が存在するので、インフレが始まったときにコントロールするのが難しいと考えているからだと理解しています。
どこで価値の創造がなされているのか考えれば、貨幣量の制御で景気回復が起こるというのはナンセンスで、結局、生産性の上昇や規制緩和、創造性の高い人材を海外から取り入れるといった(TPPなどもそうですが)実体経済にプラスの働きかけがない限り右のものを左にするようなことをしても景気が良くなるわけがないという当然のことを仰っているのだというのが、私の理解です。
これほどコンサイスにまとまったものはないですね。
もう反論のしようもないでしょう、リフレ派は。
あとは政界だけですね。一度刷り込まれたリフレ論から脱洗脳すべきは。
世界的にミドルスキルの仕事の需要は激減しているので、中途半端な業務経験者の雇用
を守ろうとして雇用調整助成金を出したりするのは、市場のニーズに大きく逆行する。
民主党の政策では、自宅待機者や社内失業者を増やすばかりで、労働生産性は上がらない。
>少なくとも今回のリーマンショックの前からミドルスキルの仕事が大きく減っている
>のが伺える。一方で、ちょっと意外かもしれないが、高スキルのみならず低スキルの
>仕事の需要はどんどん増えていることもわかる。
>http://ameblo.jp/englandyy/entry-10806592928.html
首切り上手と揶揄されながらもカルロス・ゴーンが日産の経営再建に成功した背景として、
「中途半端な業務経験者の雇用を守るより、未経験者を薄給で新規雇用するほうが効率的」
ということが挙げられる。
> App Inventorの特徴は、プログラムをコーディングしなくても、Androidスマートフォン
>で動作するアプリが即席に作れること。パズルを組み合わせる感覚でプログラムを作成で
>きる(図1)。Javaを知らない人でも、Androidスマートフォンを持っていれば、そのまま
>個人用のアプリが即製可能だ。
>http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20110222/357550/
ソフトウェア開発にしても、ズバ抜けた業務実績でも残していれば引っ張りだこだが、
下請けでコーディングが上手という程度の人はもう仕事が無い。