今は間違いなく円高である。 - 知民由之

2011年03月17日 07:06

ドル円相場が70円台に突入した円高を目の当たりにしても、なお、対ドルで円高が進んだからといって、実質実効為替レートでは円高ではないと議論を展開する人が出てくると思われるが、筆者は、実質実効為替レートのこのような使われ方に対し極めて強い違和感を覚えている。


日銀公表の1月の実質実効為替レートは103.1であり、90年からのの平均値108.5に比べ、まだ5%も割安な水準にあり、確かにこの指標が正しいのであれば、決して現状は円高ではない。しかし、日銀も実質実効為替レートの使用に対しては『様々な仮定やデータ制約のもとに計算されており、また、実質化、実効化の両面で様々な論点があり、競争環境を過去と比較する際には、単純に水準を比べるのではなく、様々な要素に十分留意して行う必要がある』と、警鐘を鳴らしており、すなわち、90年からの平均よりまだ割安だとか、95年の最高値である151からは、ぜんぜん割安であるという議論に使用されることに、日銀自身も困惑しているのが現状である。

では、具体的に、どのような欠点があるのであろうか?極端な例で説明すると、例えば、日本の貿易取引が、米国からの輸入しかないとしよう。この場合、円の強さは、単純に、対米国ドルでの強さである。これが、ある日突然、全ての輸入が中国に取って代わられた場合、円の強さは、対人民元での強さに変わり、米ドルに比べて明らかに『割安』に維持されている人民元を相手にするのであるから、直感的には極端な円高になったはずである。しかし、実効為替レートには、この通貨の『割安』という概念が計算式に入っていないため、このケースの場合、計算結果は一切変動しないのである。

この通貨の『割安』度合いを示す数値として、購買力平価による物価水準指数を使用し、更に、貿易シェアを最新データに更新した上で、筆者が独自に実質実効為替レートを計算し直した結果、実質実効為替レート103.1は115.8となり、12.2%割高化すると計算された。

この点について、日銀担当者いわく『そういう定義であり、そもそも、その手の議論であれば購買力平価そのものを使用すべき。』であり、筆者も別にそれに異論がある訳でなく、同意している。しかし、実質実効為替レートは、多数の仮定と極めて複雑な計算過程を経た上で計算されており、この様な統計上の癖を理解せずに、ただ、やみ雲に公表される数値のみが一人歩きをし、そして、その結論として今は円高ではないという『錦の御旗』に使われている現状に、筆者は極めて危機感を感じており、少なくとも実質実効為替レートを使用して為替水準を論ずる場合には、日銀のホームページ上の解説を、十分理解のうえ注意深く取り扱う必要がある。

ちなみに、購買力平価ベースでは、日本の物価水準指数(2010年10月現在)は、対米国で1.58倍、対中国で3.03倍高くなっており、購買力平価から見ても、実感としても、例えドル円が70円台に突入していなかったとしても、今は間違いなく円高であることを申し添える。
(知民由之)

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