今は間違いなく円高である。 - 知民由之

ドル円相場が70円台に突入した円高を目の当たりにしても、なお、対ドルで円高が進んだからといって、実質実効為替レートでは円高ではないと議論を展開する人が出てくると思われるが、筆者は、実質実効為替レートのこのような使われ方に対し極めて強い違和感を覚えている。


日銀公表の1月の実質実効為替レートは103.1であり、90年からのの平均値108.5に比べ、まだ5%も割安な水準にあり、確かにこの指標が正しいのであれば、決して現状は円高ではない。しかし、日銀も実質実効為替レートの使用に対しては『様々な仮定やデータ制約のもとに計算されており、また、実質化、実効化の両面で様々な論点があり、競争環境を過去と比較する際には、単純に水準を比べるのではなく、様々な要素に十分留意して行う必要がある』と、警鐘を鳴らしており、すなわち、90年からの平均よりまだ割安だとか、95年の最高値である151からは、ぜんぜん割安であるという議論に使用されることに、日銀自身も困惑しているのが現状である。

では、具体的に、どのような欠点があるのであろうか?極端な例で説明すると、例えば、日本の貿易取引が、米国からの輸入しかないとしよう。この場合、円の強さは、単純に、対米国ドルでの強さである。これが、ある日突然、全ての輸入が中国に取って代わられた場合、円の強さは、対人民元での強さに変わり、米ドルに比べて明らかに『割安』に維持されている人民元を相手にするのであるから、直感的には極端な円高になったはずである。しかし、実効為替レートには、この通貨の『割安』という概念が計算式に入っていないため、このケースの場合、計算結果は一切変動しないのである。

この通貨の『割安』度合いを示す数値として、購買力平価による物価水準指数を使用し、更に、貿易シェアを最新データに更新した上で、筆者が独自に実質実効為替レートを計算し直した結果、実質実効為替レート103.1は115.8となり、12.2%割高化すると計算された。

この点について、日銀担当者いわく『そういう定義であり、そもそも、その手の議論であれば購買力平価そのものを使用すべき。』であり、筆者も別にそれに異論がある訳でなく、同意している。しかし、実質実効為替レートは、多数の仮定と極めて複雑な計算過程を経た上で計算されており、この様な統計上の癖を理解せずに、ただ、やみ雲に公表される数値のみが一人歩きをし、そして、その結論として今は円高ではないという『錦の御旗』に使われている現状に、筆者は極めて危機感を感じており、少なくとも実質実効為替レートを使用して為替水準を論ずる場合には、日銀のホームページ上の解説を、十分理解のうえ注意深く取り扱う必要がある。

ちなみに、購買力平価ベースでは、日本の物価水準指数(2010年10月現在)は、対米国で1.58倍、対中国で3.03倍高くなっており、購買力平価から見ても、実感としても、例えドル円が70円台に突入していなかったとしても、今は間違いなく円高であることを申し添える。
(知民由之)

コメント

  1. nnnhhhkkk より:

    この件は学者に多いですね。理論が先だって現実よりも理論を優先させてしまう。ある意味で経済学の定義に洗脳されてしまっている。
    95年当時と比べれば、日本はデフレになって他の国はインフレになったから、1ドル=80円でも円安水準というのが理屈になっています。しかし規制だらけだた日本は規制をどんどん緩和したり関税を撤廃したり、中国製品の関税を優遇したりと物の価格が下がる要因が他国よりありました。それにバブルの影響で、サービス価格も他国と比べて非常に高いままだった。
    問題なのは、物価の上下を実質実効為替レートに含めていることとわかります。しかしインフレが起きた先進国でも賃金の上昇は見られません。一部金融などが大きく上がりましたが、途上国との競争のある分野の賃金は上昇するどころか下がっています。この点は日本も同様です。指標を海外との競争のある分野に絞って、物価ではなく給料水準で実質実効為替レートを計れば間違いなく円高でしょう。
    購買力平価もどうなんですかね?関税や物流コストとかいろいろ無視すれば、資源国を除いて原料やエネルギーの調達価格は世界共通で、後は世界との競争がある分野の加工品に対する人件費の割合の方が重要だと思っています。それを考えれば日本は明らかに価格競争力が無くなっています。加工する技術水準も追い付かれ、比較優位もほとんどなくなっています。どう考えても95年当時より労働集約的な日本の金属加工品の競争力はありません。この状態で95年当時と比べたらまだ円安水準というのに違和感を覚えるのは自分だけではないはずです。町工場で今は円安だと言って、納得する職人さんが果たしているでしょうか?