原発事故というブラック・スワン

2011年03月19日 12:45

福島第一原発の状況はまだ予断を許しませんが、かなり大量の放射性物質が周囲に出たことは間違いありません。しかし、いま発表されている程度の放射線量であれば、発電所の周辺を除いて人体には影響がないでしょう。これについては過去の核実験で多くのデータが蓄積されており、計算可能なリスクです。

もう一つの問題は、他の原発の建設や運転をどう考えるかということです。特に懸念されているのは東海地震の震源の近くにある浜岡原発で、「今すぐ運転を止めろ」という意見もあるようです。これは過去に前例がなく、個別の立地条件や設計に大きく依存するので、確率を正確に計算できない不確実性です。


これについては過去の原発訴訟で、国と反対派の間に一定の合意ができています。それは原子炉が破壊されて大量の死の灰が周囲に降り注ぐチェルノブイリ型(レベル7)の事故が起こる可能性はあるが、その確率はきわめて低いということです。しかしその危険の評価は大きく違い、国は「それは隕石に当たって死ぬ程度の無視できる大きさだ」と主張し、反対派は「もっと大きい」と主張しました。

今回の事故は反対派が正しいことを証明したようにみえますが、必ずしもそうともいえない。今回の地震は耐震設計で想定した規模を超えましたが、原子炉そのものは崩壊せず、緊急停止しました。もし地震で炉が崩壊していたら、チェルノブイリのように臨界状態の核燃料が周囲に飛散して大事故になったでしょう。

電源が落ちてECCS(緊急炉心冷却装置)が止まったことも想定の範囲内ですが、このとき炉内を冷却するポンプが想定をはるかに超える津波で壊れ、予備の電源も壊れてバックアップの冷却装置も動かなくなりました。これは反対派も想定していなかった事態で、従来の論争の枠組の外側のブラック・スワンです。

タレブもいうように、こうしたサンプルの少ない出来事については、あらゆる可能性を列挙することができないので、ブラック・スワンが生じることは避けられない。だから確率の大きさを論じることには意味がなく、最悪の場合に何が起こるかという最大値が問題です。

この点で今回の事故は、1000年に1度の最悪の条件でもレベル7の事故は起こらないことを証明したわけです。誤解を恐れずにいえば、国と東電の主張が正しく、軽水炉(3号機はプルサーマル)が安全であることが証明されたといってもいい。しかしこういう論理は、政治的には受け入れられないでしょう。今後、日本で原発を建設することは不可能になったと考えるしかない。これは日本経済にとって深刻な問題です。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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