危機管理・災害対策の一環としての「テレワーク」再考

小黒 一正

「テレワーク」とは、IT(情報通信技術)を活用して時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をいい、語源はTele(遠い・離れて)とWork(働く・仕事)にある。

テレワークについて、日本ではワークライフバランスの一環として取り上げられることが多かったが、いくつかの災害や9.11(米国同時多発テロ)等を経験したアメリカでは危機管理・災害対策の一環としても推進されている。


実際、アメリカは2000年のPublic lawで各連邦機関にテレワーク実施を義務づけており、徐々にその適用を拡大している。アメリカ連邦政府がテレワークを推進している理由は、いくつかが主張されている。つまり、①交通混雑緩和、②環境問題への対応(通勤での車の減少)、③危機管理・災害対策、 ④オフィスコストの削減、等である。

このうち、③の危機管理・災害対策については、9.11(米国同時多発テロ) 以降、テロや災害などが再び起こっても、いつでも業務を継続できるような仕組みとしてテレワークを位置付けている。
いま、アメリカでは、GSA(General Services Administration)とOPM(Office of Personnel Management)という組織が共同で、連邦機関のテレワーク推進を図っている。

欧州のSIBIS調査(2001年~2003年にEUの情報社会プログラムの一環として実施された期間限定の調査)によると、テレワーク先進国アメリカのテレワーク人口は労働人口の24.8%にも達しており、IBM、AT&T、アメリカン・エクスプレス等が積極的に活用していると言われる。また、オランダは26.4%、フィンランドは21.8%、デンマークは21.5%、スウェーデンは18.7%、イギリスは17.3%である。だが、これは2003年の調査結果であり、現在のテレワーク人口はさらに増加していることが見込まれる。

一方で、国交省のテレワーク人口調査によると、2008年時点で、日本のテレワーク人口は労働人口の15.2%を占めるに過ぎない。

いま日本は未曽有の危機に直面している。3月11日に発生したマグニチュード9.0の東北関東大震災は、三県(岩手・宮城・福島)を中心に東北関東地域に甚大な被害を及ぼした。そして、大規模な計画停電や予断を許さない福島原発問題は、現在、家庭生活だけでなく、首都圏の道路や鉄道・地下鉄の交通網といった様々な範囲に影響を与えているが、この状況は暫く継続するという識者も多い。

このため、研究者のような一部の業種では、既にテレワークを進めつつあるが、他の業種でも、ワークライフバランスなどの目的のみでなく、いまこそ、危機管理・災害対策の一環としてのテレワークについて、日本でも本格的に推進してみてはどうだろうか。企業のオフィスコスト削減にも役立つならば、日本経済の競争力向上にも寄与するに違いない。

(一橋大学経済研究所准教授:小黒一正)

コメント

  1. poopiang より:

    私もテレワーク自体には賛成ですが、災害対策として訴えていくのは効果が薄いんじゃないかと思います。
    釈迦に説法になりそうですがテレワークについて思う所を書いてみます。
    1. 最大のメリットは通勤時間の短縮。
     多くの人が、往復で1時間半もの時間を使っている。
    2. テレワークだと怠ける(育児などと併用できる事も含めて)可能性があることから、成果主義とセットで導入を考えることが多いが、日本での成果主義はうまくいっておらず、テレワークとは議論を分けた方が良い。
    3. 実際のテレワークでは、[2]とは逆に、働きすぎる問題が発生している。いつでも働けると、つい家庭に仕事を持ち込んでしまう。
    4. 正規社員・非正規社員の問題とも切り分ける必要があるが、意外に切り分けが難しい。

    [2]と[3]の解決として、(会社を限定しない)テレワークセンターを作るというのがあります。これは現状の漫画喫茶をオフィス風にするだけでできると思うのですが、どこもやり始めていないところを見ると企業側の需要が無いんでしょう。
    個人的には、ワークライフバランスよりも通勤時間のメリットを訴える方が良いように思います。企業としても、通勤代支給よりテレワークセンターに行ってくれる方が費用を抑えられると思うのですが。